第5回梗概感想 2/4

東京ニトロ『隧道奇譚』

自分が知らなかったものを教えてもらえるというのは面白いのだ。オチである『メアリーセレスト号』については調べて初めて知ったし、隧道(ずいどう)という単語も初めて知った……僕の無学をさらしてもよいことはないな。
気になった点は話の主軸が『隧道』なのか『石』なのか『メアリーセレスト号』なのかが読み取れなかった。タイトルと話の展開とオチと(オチはある種しょうがないことではあるのだが)で、焦点がズレている気がしてしまった。
書いている途中で思ったのだが、オチは石の正体が判明するところであって『メアリーセレスト号』はある種のファンサービス的なことなのでは?


村木言『喪われた影を重ねて』

シンプルに面白かった。『シーンの切れ目に仕掛け』というテーマに対して、綺麗な形で応えているように思う。
序盤では機械の身体に戸惑い柚木が喋らないのも上手い。犬が人間に切り替わってすぐに人間らしく振舞えるか? みたいな疑問をさらりとかわしつつ物語をテンポよく進めている。
で、柚木が人間になってゆくというのも面白くて、人間の身体の物理的な構造によって『人間性』というものが定義されうる、みたいなテーマも内包されているように読んだ。
ゆえに、物語の根幹である『声の聴き分け』について、人間の耳と犬の耳では物理的な構造が違うので、その音響特性も異なり、聞こえる音も違うのではないかという疑問を覚えてしまった。実作ではその部分も書かれると思うので、それも楽しみである。


西宮四光『ゼウス・マシン』

天王丸さんが、首に刺さった『クトゥルーの呼び声』で無限に笑っていたように、僕も一行目で無限に笑ってしまう。今回の梗概の中で、書き出しが一番好き。好きすぎる。
タイトルと概要だけしか知らないので断言できないのだが『ノックス・マシン』のオマージュ的な気がする。
前半部分と後半部分の落差及び切り替わりが、一番のポイントでもある。前半部分で、後半部分へつながる伏線をきっちり配置しておかないと、ただただ唐突に規模の違う話が出てきてしまって、まさにデウスエクスマキナ的な終わらせ方に思える。逆にそれが狙いである可能性もある。物語としての構造を楽しむ的な。


稲田一声『ひとりが祈る、ふたつに割れる』

テレパシー能力の再定義が面白い。〝伝達速度が光より早いので、予知能力ともいえる〟というのは確かに、と気づかされた。で、最初の段落が夫の回想になっているのも上手い。終盤で逆転させる因果関係を、事前に誤解させる役割がさらりと仕込まれている。
代わりに、主人公であるシズカの登場が遅れてしまっている気もする。とはいえ構成次第でいくらでもやりようはあるし、そもそもこれも各人物の一人称で語られる短編連作として見ることもできるので、シズカが主人公とも限らないのか。
歴史的な発見(能力の発現)が、夫婦の愛憎劇で使われるのは、面白いようなもったいないような、二律背反的な感情を抱く。


今野あきひろ『となりの女206号 -ひとり沼地で目からビームを出すかベランダでパンツを干すか』

アピール文まで面白いのズルくありません?
ある意味で、アピール文の内容を私小説的にまとめても作品になりそうな気さえする。
本編に関しては、「わたしをさがして」という言葉に呼応し、珠美を探し続ける物語と呼んだ。珠美≒206号が、実際にどんな存在なのか(クローンなのか、ロボットなのか、歳をとらない改造人間なのか)はわからなかったが、そこはあまり問題ではない。
『目からビームを出す』か『ベランダでパンツを干す』という対比の中で、主人公は206号自身の本質的な部分を見定めようとし、最終的には『経年劣化』ゆえに離れた存在になってしまった生身の人間として、206号という総体を発見する。
ここら辺が今野さんのテイストだと思うのだが、作品中で経過する時間が長い。それがすなわち個人の(経年という強制的な)成長につながっているのが、『個人の物語』としてのパワフルさを生んでいるように思う。


甘木零『ひかり降る部屋』

最後の段落で、愛が恐怖に変わる対比が素晴らしく好き。
そして時間経過があるはずなのに、最後まで一貫して『女の子』と主人公が描写されるというのが読み手の想像力を掻き立てる。
小説か詩歌か、どちらの読み方もできる作品であり、アピール文を見る限りおそらく未完の作品なので、実作が楽しみでありつつ料理は難しいかもしれないと思いいつつ。


渡邉清文『こわれたカメレオン』

完成度が高い、情景が美しい、キャラクターが生きている。うん、面白くない訳がない。
これまた逆に語ることが少ない作品。不良少年たちという集団も、個々のキャラクターも好きだし、おそらくあえて性別を深く明言しないスタンスで書かれているのも好き。街の設定と個々人の設定が相互に補強され、それがさらに物語の推進力として事件に発展していくというのは、物語として渡邉さんの筆力を感じる。
ほんと細かいところしか突っ込む部分がなくて、旅行者とはカメレオン族なのか? とか、身を守る毒薬が悪意的すぎないかとか……書いてて気付いたのが、毒薬は、異常者扱いされているマーナのエゴや悪意ゆえに変色障害者を増やすような性質にされているのか! マーナの人間性を示すアイテムであったという発見。そして最後、サシャが恥を『上塗り』されて生き残り(=壊れたカメレオン!)、ジュンは台座を降りる。
いや、面白い……


木玉文亀『The game is over』

ループモノで、世界全体が周回の意識を持っているのは珍しい。
世界設定自体は面白いのだが、物語の細部が散らかっている印象を受けてしまった。『1989年』とか『試作携帯ゲーム機』とか『自警団』とかの面白いアイテムが、最終段落である宇宙での葛藤にあまりリンクしていないというべきか。
逆にいえば、実作でそこが明らかになれば、面白いと思う。

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