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幼馴染ちゃんは、如何にして主人公にお弁当を届けるのか。

近現代の軍隊における補給や輸送は非常に重要かつ複雑な要素ですが、派手な戦闘やカッコ良い兵器とは無縁なのでなかなか省みられることがありません。

なので今回は、コレについてもっと「別のもの」に置き換えてわかりやすい形でお話ししようかなと思います。因みに完全に思い付きです。今も酒飲んでるので許して欲しい。


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まずここに、アニメや漫画に出てくるような献身的で可愛い幼馴染ちゃんがいるとしましょう。彼女は主人公くんに毎日3食分のお弁当を届けることが日課となっています。

対する主人公くんはグータラな人なので自分で食事の用意が出来ません。家の中から食べ物が消えたら餓死する勢いです。

しかしそんな主人公は部活のエースなので、幼馴染ちゃんはそんな主人公を応援する為、健気に毎日お弁当を届けています。可愛いですね。主人公はしっかりして欲しい。

そんななんとも歪な関係性はありますが、1日3食分を用意する程度なら幼馴染ちゃん1人でも平気でした。彼女と主人公の家は徒歩で往復1時間程なので、毎日3回食事を作っては3回届ける事は可能だったのです。


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しかしある時、主人公くんは「近いうちに試合があるので、1日5回のお弁当がいる」と要求してきます。

これには流石の幼馴染ちゃんも困りました。毎日お弁当を作るのに加えて、往復1時間×5をこなすのは物理的に不可能だったからです。

なので幼馴染ちゃんは頼れる友人を呼んで「お弁当届け係」を担ってくれるよう頼み込みます。

つまり専用の「輸送要員」を確保して「ピストン輸送」を行う事で、1日5回のお弁当輸送を考えたわけです。

快く引き受けてくれた友人のおかげで、幼馴染家〜主人公家を繋ぐ道にはお弁当を運ぶ為の友人さんが常時往路〜復路を歩いている光景が見られるようになりました。

こうして物資の確保や管理をする幼馴染ちゃんと輸送する友人さんによる、最も基本的な「主人公お弁当補給隊」が完成するに至ります。


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友人の強力で1日5回のお弁当輸送を行なっていた幼馴染ちゃんですが、この上さらに主人公から無茶な要求が来ました。

なんと「試合の為に6時間ほど先にある合宿所に行く事になった。ここへもお弁当や生活必需品を届けて欲しい」と言うのです。

これはもう殆ど不可能な要求でした。

片道6時間となると往復12時間。友人の手を借りても1日1回お弁当を届けるのがやっとです。しかもお弁当を届ける上に必要な物資や洗濯物まで運ぶのは、何をどうしても不可能でした。

なので幼馴染ちゃんは必死に考えに考え、「より沢山の友人に手伝ってもらおう!」と考えました。

往復12時間掛かる上に1人1個のお弁当や必需品しか運べないのであれば、沢山の友人に1つずつ物資を持たせて次々と送り出し、断続的に主人公くんに物資を届けられるようにしたら良いのです。

こうして片道6時間の道には、沢山の友人がゾロゾロと隊列を成して移動する光景が見られるようになりました。これでお弁当と必需品は主人公くんに常時補給されるはずです。


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しかししばらく経つと異変が起こります。往復12時間で帰ってくるはずの友人達の帰りが徐々に遅くなってきたのです。

12時間が13時間に14時間に、遂には丸一日帰って来ない日も出てきます。

不思議に思った幼馴染司令は参謀達と共に輸送路の視察に赴きました。

すると輸送路が物資を持った友人達で溢れかえっているのではありませんか。中には帰り道であろう手ぶらの友人達も見受けられます。

これは一体どういうことかと、混雑する輸送路を幼馴染ちゃん一行が進んでいくと原因が判明します。

この輸送路には大通りもあれば狭路もあり、山もあれば谷もあります。すると大通りでスピードを上げた友人達が、狭路や山間部でつっかえてる友人たちに追いついてしまい、大渋滞を起こしていたのです。

しかも往路と復路の友人達が狭路ですれ違う時に「どちらが先に進むか」で揉めたり、事故やトラブルを起こしているのです。

こうなっては輸送が滞るのも当然です。

幼馴染ちゃんは直ちに交通整理を行うよう指示を出しましたが、こうもごった返す道では上手いように輸送が進みませんでした。


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思わぬ誤算が生じてしまいましたが、この渋滞は更なる問題を引き起こします。遂に主人公くんが必要とするお弁当や必需品を最低数も届けられなくなってきたのです。

これには幼馴染ちゃんも焦り、何とかして物資を届けようと躍起になりますが、大渋滞した輸送路ではにっちもさっちも行きません。

しかもこの混乱によって友人達の中には運ぶべき物資を途中で放棄して帰ってきたり、或いは賞味期限の近いお弁当だけを急いで運んで残りの物資を置いて行ったりし始めました。

こうなっては輸送管理が出来ないと、幼馴染ちゃんは参謀と協議を重ね「輸送路の各地に集積所を作る」という案を採択します。

この集積所に各物資を蓄えては必要に応じて運び出したり、渋滞で滞っても廃棄せずに保管出来るようにしようと考えたのです。

また友人達もいちいち往復12時間を歩かなくても、各地に設けられた集積所を起点にA→B B→C C→Dという役割分担を行って人員の回転率の上昇も見込めます。

これで一安心だと幼馴染ちゃんも安心しましたが、これもほんの一瞬の平穏でした。


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しばらくすると各地の集積所から「もうどうしようもない!」という連絡が飛び込みます。幼馴染ちゃんは再び輸送路に赴いて状況を確認しました。

すると集積所には無秩序に捨て置かれた物資の山が出来上がっていたのです。しかもそこに友人達はポイポイと物資を置いたり、勝手に持ち出したり、それを巡って喧嘩したりしています。

聞くと原因はやはり道の大渋滞による物資不足や偏りにありました。いくら集積所を作っても根本的な「輸送路のパンク」は解決出来てなかったのです。

災害や事故によるイレギュラーもあり、完璧な計画を立てても直ぐに混乱が起こるという有り様です。

また集積所は輸送に携わる友人達にとって「ゴミ捨て場」のように扱われていることも判明します。

友人達は滞る輸送の中で「これだけは絶対に迅速に届ける必要がある!」という物、つまり毎日食べるお弁当だけだけを持って残りを集積所に置いて行っていたのです。

すると集積所は洗濯物やアメニティ類、またその他雑貨類で溢れかえるに至りました。

そしてそれらが必要になった時だけそこの集積所から適当に持って行くようになったのです。

しかも友人達は現地で主人公くんから直接要望を受けて勝手に動くこともあり、時には集積所から持って行き、時にはお弁当だけを持って行き、時には「要らない物だけ持って帰るため」に手ぶらで合宿所に赴いたりと、最早管理も何もない混沌が出来上がっていました。

こうなると幼馴染ちゃんはもう完全に降参です。

そもそもの問題が輸送路のパンクと大渋滞にあり、そこから来る輸送の遅延と混乱、現地の独断専行と無秩序な管理によって起こるのだから、も 解決のしようがありません。

しかし幼馴染ちゃんは諦めません。自分の使命は主人公くんに必要な物を届ける事にあるのです。


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冷静になった幼馴染ちゃんはこの問題の根本的な原因は「輸送隊の速度」にあると考えました。

つまり往復12時間という絶対的な時間と距離が、膨大な人員と手間を必要としてしまい混乱が起こると見抜いたのです。

そして幼馴染ちゃんは上層部に直談判して、輸送隊の「自動車化」を要求しました。より早くお弁当を届けるには、徒歩ではなく車やバイクがいると必死に説明したのです。

既にお弁当の輸送が滞っている事を肌身で感じていた合宿所の上層部はこれを了承します。「自動車化お弁当輸送隊」がここに組織されたのです。


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この輸送隊の自動車化の恩恵は莫大なものとなりました。まず必要な時間が片道6時間から1時間程度に短縮されたのです。

これによって徒歩では1日1回の輸送しかできなかったのが、今では1人の友人が運転する自動車により1日に5〜6回のお弁当輸送が可能となります。

一台の自動車が何度も往復するだけで済むのだから道を覆い尽くす輸送隊は必要ありません。渋滞は一挙に解消されました。

また輸送時間の短縮は必要物資の削減と輸送の効率化をも促進しました。

それまでの徒歩友人達は12時間の輸送を行う為に「自分達のためのお弁当や必需品」も持ち運ぶ必要があったのです。なので彼等は本来の輸送力を発揮出来ていない状況にありました。

しかし自動車に乗った彼等はそんなものは必要としません。お弁当2つを持って両方とも主人公くんに渡せば良いのです。

故に「自動車化お弁当輸送隊」はそれまでの10倍の輸送力を発揮することとなりました。

幼馴染ちゃんはこの成果に大満足です。友人達もキツい徒歩から解放され、輸送隊全体がよりスピーディーかつ効率的にお弁当や必需品を届けられるようになったのだから、文句の出ようもありません。

これであれば更に遠くまでお弁当を運ぶことも出来るでしょうから、主人公くんもますます広範囲で活躍する事でしょう。


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しかしそんな光景を面白くない表情で見る者もいました。主人公くんと試合している敵対チームに所属する「ヤンデレちゃん」です。

彼女は主人公くんが大量のお弁当と必需品で無双しているのが全く面白くありません。何とかしてこれを潰そうと画策していました。

そこでヤンデレちゃんは主人公くんの強さの秘訣が物資にあると睨み、これを叩き潰そうと考えました。つまり幼馴染ちゃんが作り上げた補給隊と補給路を攻撃しようと考えたのです。


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ヤンデレちゃんは補給路の各地にコッソリと潜んでは、通り掛かるお弁当輸送隊を攻撃して、これを壊したり事故に合わせたりを始めます。

幼馴染ちゃんはこのヤンデレちゃんの攻撃にかなりの焦りを覚えました。

元々こうした嫌がらせは徒歩で運んでいた時からあったのですが、徒歩で運んでいるものは少量でしたし、沢山の輸送隊で分担して運んでいたので被害は相対的に低かったのです。

しかし自動車になると話は別です。これが運んでいるのは徒歩とは比べ物にならない量であり、また車が破壊されると「その後この車で運べる物資の量」は0になってしまいます。

なので攻撃で被害は今運んでいるお弁当だけに留まりません。未来のお弁当すら消え去ってしまうのです。

ただ幼馴染ちゃんはこの対策に苦心します。護衛を付ければ良いのかも知れませんが、元来お弁当輸送に携わっていた幼馴染ちゃんにはそんな友人は少ないのです。

なので幼馴染ちゃんは比較的出来る友人から「パトロール隊」を結成し、輸送路の警戒を行うこととしました。

万が一ヤンデレちゃんを見つけたら直ぐに皆に知らせて警戒させれば、何とか凌げるかも知れないと考えたのです。


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しかしその目論見も甘く、隠れ潜むヤンデレちゃんは神出鬼没に現れては輸送隊に襲い掛かってきました。いくらパトロールしてもその網の目を縫っては攻撃してくるのです。

こうなってはもう輸送隊を単独で動かすのは危険です。集団行動して護衛を付ける「護送船団」を組む他ありません。

しかし幼馴染ちゃんはここでも悩みます。

と言うのも護送船団方式では「最後の1人の準備が整うまで」残りの輸送隊が待ちぼうけを食らうので、輸送効率の低下が起こるからです。

しかし最早単独での移動はあまりに危険であり、また輸送隊と車が失われては効率もクソもありません。

故に幼馴染ちゃんは護送船団によるお弁当輸送を承認します。数十の友人達が幾人かの護衛をつけて輸送に赴きました。


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護送船団は無敵ではありません。長大な隊列は敵にとって目立つ標的であり、また護衛は長大な隊列を前から後ろへと移動するだけでも大変な労力と時間を必要とします。

しかしお互いが周囲に監視の目を光らせて攻撃を抑止し、必要に応じて救援や援護を行えます。また通報によって周辺のパトロール隊が急行してくれます。

流石の狂犬ヤンデレちゃんもこれには迂闊に手が出せません。下手に手を出すと護衛に袋叩きにされるか、パトロール隊にボコボコにされるからです。

故にヤンデレちゃんは護送船団に対しては慎重かつ巧妙に戦いました。彼女はまず味方を要所に配置し、タイミングを見計らって一斉攻撃や断続的な攻撃を行うようになったのです。


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幼馴染ちゃんと護送船団はこの攻撃に対して最初こそ狼狽しましたが、やられた友人を助け、護衛やパトロールにヤンデレちゃん達の位置を迅速に知らせる事を徹底しました。

またヤンデレちゃんの行動パターンを読んで要衝とされる場所へのパトロールを強化し、またその密度も濃くする事でヤンデレちゃんの移動を抑止するよう心掛けました。

また護衛隊もその数と練度を少しずつ増していき、より戦略的な行動と共闘を心がける事でヤンデレちゃんへの強力な抑止力へとなっていきました。

元々ヤンデレちゃんは搦手からの奇襲や不意打ちを得意とする子だったので、こうまで固められてはロクに動くことも叶いません。

最初は狡猾に動いていたヤンデレちゃんでしたが、遂には幼馴染ちゃんが率いる重厚な護送船団に徐々に追いやられるようになってきました。

そして遂にヤンデレちゃんは護送船団への攻撃を諦めるに至ります。強固かつ濃密な警戒網や屈強な護衛には手も足も出なくなってしまったのです。


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こうして幼馴染ちゃんは妨害する強敵をも打ち倒し、お弁当輸送任務を完璧に成し遂げるに至りました。

最初は単に行き来するだけだったのが、その距離や必要量に応じて高度に組織化され、自動車による高速化と効率化を図るまでになり、遂には直接的な戦闘すら意識した「お弁当輸送戦闘」をこなすまでに成長したのです。

一方の主人公くんもこの輸送に大いに助けられ、前線での試合を順当に勝ち進むことが出来ました。


多くの人が主人公くんを指して「この試合に勝った者」と呼ぶでしょう。しかしその勝利を縁の下から支えたのはお弁当と必需品を運び続けた幼馴染ちゃんの健気で地道な活躍あってのことだったのです。

よくアニメや漫画で「玄人は兵站を語る」なんて言いますが、実際の兵站や補給はこれの何倍も複雑で、何百倍も規模が大きくて、何万倍も重要なんだと思います。

また災害では支援物資の確保は輸送は何よりも重要な課題であり、これを行う人達は実に多くの人を救っています。それらをこなせるのは確かに「玄人」と呼べますし、真の英雄だと思います。



なので皆もよく目立つ主人公くんの働きだけでなく、その陰で地道に働く幼馴染ちゃんの人知れぬ尊い活動に思いを馳せてみよう!意外とハマるかも知れないゾ!!


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