畑さんとの出会い

畑さんとの出会いは、ツイッターのDMだった。
ちなみに、はたけさん、と読む。
“はたさん”と読みたい人には読ませておけばいいのかもしれないが、そこに、解釈の幅という夢(ドリーム)を与えても意味がない。
人の数だけ解釈があっていい、みたいなものではなく、苗字は読み方が決まっているのだ。


あしたのジョーというアニメでは、「ジョーは最後、死んだ」という解釈と「いや、ジョーは生きている」という解釈に分かれる。
それぞれがそれぞれの解釈をすれば良いと思う。
しかし、畑さんは、断固それを拒否する。


なぜなら、苗字だからだ。
畑さんは、「はたけさん」なのである。
仲良くなって、ニックネーム的に「はたさん」などとあえて呼ぶみたいなパターンはあるかもしれないが、僕はそれも否定したい。
そんなことをしたら、次のような事例が起こりうるからだ。

「“畑さん”って、はたけさんか、はたさんか、どっちで読むのかなと思ってたけど、あの人が『はたさん』って呼んでるから、助かった。本人に聞いたら失礼だし」と考えて、正解を“はたさん”と思い込むパターンが考えられるからだ。

そうなると、その人は、畑さんに「はたさん」と呼ぶだろう。すると、畑さんは、こう思う。
「俺の名前、多分間違えてるな。ニックネームで呼んでるとしても馴れ馴れしい。間違えてるにしても、馴れ馴れしいにしても、いずれにせよ、殺すしかない。殺さなければ殺される」

そうして、悲しい事故が起こってしまったら遅いのだ。
死んだ人は生き返らないからである。
何度も言うが、僕に、アニメをやらないかと持ちかけてくれた人が、畑さんで、読み方は、はたけさんなのである。
フルネームは、畑耕平さんである。

畑さんは、Adroaigという会社の代表である。
Adroaigは、宅録声優さんが多数所属する事務所で、僕が知り合うようなきっかけは普通はないのだけれど、ツイッターのDMでお話をいただいたのである。


なので、このアニメが始まってからは、4/28現在で、約一ヶ月半も経つし、お話をいただいたのは、昨年の夏頃なので、余裕で半年以上が経つのだが、つい先日まで、畑さんの顔も知らなかったのである。


時代というか、なんというか、打ち合わせは電話とLINEでできるし、声もデータを送るだけである。
なので、先日、ヤシロさん(Adroaig所属の声優)がやっているYouTubeの生配信を観なければ、畑さんの顔を知らないままだったのである。

畑さんは、ダイハードに出てくる、ラストでジョン・マクレーンにビルから突き落とされる敵役にそっくりな人だった。
どうしてあの高さから落ちて、生きて、会社の代表を続けていられるのか不思議なぐらいである。

とにもかくにも、僕のことを知ってくれたのは、他のYouTubeのアニメだったようである。
僕は、ライターの仕事もしていて、たまに仕事が来るのだ。
ライターという響きがカッコいいでしょ。
実際は貧困にあえいでいることは、言うまでもないが。

ちなみに、僕は、多才に見せるために、職業をカサ増しして言うようにしている。
たとえば、「僕は、芸人兼コメディアン兼作家兼ライター兼脚本家をしており、空間エンターテイナーとあと、たまに趣味で陶芸をしています」とこう言うのである。


芸人とコメディアンはほぼ同じ意味だし、作家とライターも違いがよくわからない。
趣味で陶芸をしている、にいたっては、真っ赤な嘘なのだが、嘘かどうか調べようがないのでオッケーである。


ヌアンス刑務所という僕のアニメも、宣伝するときは必ず「僕が企画・脚本・アテレコをすべて、担当しています」と言うようにしてある。
企画と脚本、は以前から、どう違うのか、さっぱりわからないが、かっこつけて二個言うようにしているのだ。

映像担当は、別の方がやってくれているが実はそれが、一番労力が高い。
本当に感謝しかないのであるが、全部自分でやっているみたいな感じを出すために、企画・脚本・アテレコをすべて担当している、と“すべて”という言葉を使うのがズルテクのコツである。

さて、そんなこんなで話が来たこのアニメだが、かなりの好条件を持ちかけられた。
「ハクションさんの才能にかけるので、収益化するまでのハクションさんのギャラと、映像にかかる費用は、バズるまで全てウチの会社で負担します」

そう言ってくれたのである。
さすが、はたさん!!
顔も知らないけど、ありがとう!!!
“顔も知らないけど”と言うと、顔以外の胴体などについては熟知してるみたいだが、それもない。

顔も胴体も知らない畑さん、ありがとう!!
かっちょいい!
でなわけで、僕はすぐに有頂天になった。
このアニメがバズれば、僕もやっとこさ、お笑いでご飯を食べることができるかもしれない。


この時の嬉しさたるや、どう説明していいかわからない。
喩えて言えば、まるで、ダイハードのラストで死んだはずの男から、アニメの仕事が来たぐらいに嬉しかったのだ。


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