プチ虐待のススメ

36【坊主】

さて、前章で花岡の努力の話などもしたが、やはり客観的に言っても、コンビを引っ張っていたのは僕である。

劇場の先輩や同期などから事実「お前の相方は、なんもせんよな」と言われたりもしていた。

てなわけで、絆を感じながらも、やっぱりお前は、もっとちゃんとせーよ、と僕は思っていた。

そんな矢先に、プライドの高い僕が花岡にめちゃめちゃ謝らないといけない出来事が訪れる。

辞めた事務所のことで批判めいたことは言いたくないから、詳細は言わないが、当時、僕は、何件かの許せない空気を感じていた。事務所に対して。

僕だけではなかったと思うが、それが伏線としてあるとだけ読者のみなさんには理解いただきたい。

当時、新しい劇場の支配人が、最初に芸人を集め、自己紹介と新制度の説明をしていた。

僕はその時、【うるせーよ、バカ。何が新制度だ。どうせまた芸人を騙して、お客さんを裏切るような制度じゃねーか】という態度で、結構目立つところに座っていたのに、ずっとケータイを触っていた。

結果が出ない自分に拗ねていたし、ちょっとずつ後輩が増えてきて、ヘコヘコしないで済む芸歴になってきたので、なんの実績もないのに、調子に乗っていた。

それに、支配人は、僕の不満とは直接関係ない人である。

あの態度はない。

というわけで、後で呼び出され、こっぴどく怒られた。

「お前なんか、ぜっっっっっったいに仕事やらんからな!」と言われた。

僕は、プライドが高い。

ピン芸人なら【じゃあ、いらねーよ。支配人なんて、そのうち定期的に変わるし】と思って、謝りながらも、もう仕方ないとあきらめていただろう。

自分が悪いことはわかっていても、坊主にはしなかった。

ん?

そうなのである。サラッと言ったが、僕は粗相をした責任をとるために、自発的に坊主にしたのだ。

普段偉そうに言ってる花岡に、申し訳ないとその時は心から思ったので、何度も謝った。

もともと、ネチネチ言うようなやつではない。

「俺、坊主にするわ」と言ったら「まあ、そこまでせんでもええけどな」と言ってくれたが、もはやそういう問題ではない。

あんなに普段から、お前はもっと前に出ろだの、イニシアチブをとっていたのに、仕事が来なくなったら無関係の花岡にまで迷惑をかけることになる。

僕は坊主にし、支配人のところに相方を連れて後日、謝りに行った。

そのわずか、一ヶ月か二ヶ月後だったと思う。

ABC新人漫才コンクールの予選を突破し、さかなDVDは、決勝のテレビ出演が決まった。

支配人は明るくおめでとうと言ってくれた。

取材みたいなのがあった時に、僕は記者の質問にこう答えた。

「僕らは、ずっと、結果が出てなくて、コンビ二人で何が足りないんやろ、何が足りないんやろと話しあってました。でも、僕が坊主頭にした途端、結果が出ました。足りないんじゃなくて、髪の毛がいらんかったということがわかりました」

ABC新人漫才コンクールでは、コントをやった。

いつもは僕がボケで花岡がツッコミである。

しかし、コントの時は逆になる。

長セリフが言えない相方よりも長いツッコミで僕が笑いをとり、花岡には、短いセリフだが、表情や演劇仕込みの表情やジェスチャーでボケてもらった。

お互いの長所が出たいいコントだったと思う。

もともと、漫才のネタだったのだが、花岡が「これ、コントでやったほうがいいんじゃない?」と言っていたやつである。

僕は、花岡の言うことを、華麗にスルーしていたが、やつの言ってることは正しかった。

何度か説得された挙句、ほな、やってみよか、となったら、結果が出た。

足並みが揃ってきた。

テレビ出演である!!


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