エッセイ【東京に来てからの暮らし】

僕は2023年の12月末に、お笑い芸人として東京にやってきた。

これを書いている現在は2024年の6月23日。

大体、半年がすぎて、良くも悪くも暮らしが落ち着いてきたので、東京に来てからの暮らしを振り返ってみることにした。

一人暮らしは大阪でもしていたのに、芸人の仲間が「東京に来たら、最初のうち、さみしいかもしれませんよ」などとアドバイスをくれた。

基本的に僕は根性がなく、モチベーションも低いのだが、唯一負けない強さがある。

孤独耐性である。

僕は昔から友達が少なく、大人になってからは友達がずっとゼロである。

そのアドバイスをもらった時も「そうかなあ」と口では言いながら、心では「なにをゆーとんねん」と思っていた。

実際に、可愛げがないことに、僕は東京に来てから、寂しいなどと思ったことは一度もない。

僕は周りにたくさん人がいるほうが寂しい。

自分が浮いてるのを実感するからだ。

僕は凄まじい人見知りであり、人の顔色を見すぎるので、一人でいるほうが、他人の気持ちを考えずに済むし、気楽なのだ。

僕のような人も多いだろう。

てなわけで、大阪時代からそうだが、ホームシックとやらとは無縁で、実に楽しい東京生活がスタートした。

趣味は将棋とお散歩。
おじいちゃんである。

あまりにもお散歩が好きなので、東京に来てから【お散歩大好きワングランプリ】に出たことがある。

いかにお散歩が好きかをアピールする大会である。
僕は決勝戦まで順当に進んだ。

司会の人の合図で僕のスピーチが始まる。
以下は、僕のスピーチである。

「晴れてる時のお散歩は、もちろんとても気持ちいいものです。

しかし、僕は少しぐらいの雨でも、傘にポツポツと雨音が当たったり、そういう情緒を感じられたり、そういうところが、好きです。

同じ道でも、季節により、違う顔を見せてくれますし、その時の自分自身の心理状態により、同じお花を見ても、違う気持ちになる。

日本人が古くから親しんできた俳句や短歌などは、まさにお散歩から生まれた世界に誇る文化、と言っても過言ではありません。

こんなにもお散歩が好きなわたしは、あの、“奥の細道”の松尾芭蕉の生まれ変わりではないでしょうか?」

ここまでスピーチをすると、司会の人が「そこまで!!」と叫んだ。

会場はおおーっと、盛り上がる。

僕はガッツポーズをして、半ば勝ちを確信した。

「続きまして、後攻!ベス!」

その声に驚き、ステージを見ると、女性が「ベス、お散歩いくよー」と小さな生き物に声をかけていた。

「ワンワンワンワン!」とそいつは凄まじく吠え、僕の体にはない尻尾を激しく振り、嬉ションまでしてみせた。

「そこまで!!」

司会の人の号令があっても、そいつは喜ぶのをやめない。

「判定に入ります!!」

やくみつる「ベス!」
松任谷由美「ベス!」
二階堂ふみ「ベス!」
俵万智「ベスの一択ですね」

最後の一人の審査員を待つまでもなく、僕の負けだった。

へずまりゅう「かわいそうだから、とか逆張りとかじゃなくて、ヘクション中西!!」

僕は死にたくなった。
へずまりゅうごときに、逆張りの道具にされ、名前まで間違われた。

僕は決勝のステージで声をあげて、ワンワン泣いた。

「ゆ、ゆ、ゆ、優勝したら彼女にプロポーズしようと、彼女と、そのご両親を、呼んだのに、犬に負けた〜っ!!!」

まあ、二度とこの大会は出ないし、そもそも犬が勝つように出来ていた大会だったと思う。

半泣きになりながら帰ろうとした時に気づいた。

【お散歩大好きワングランプリ】というイベントタイトルの“ワン”のところに、犬の足跡のイラストみたいなのが描かれていたのだ。

最初から犬がメインの大会だったのだ。

それならそうと、分かりやすく規約に書いとけ!!!

僕はそこの足跡のイラストのところに、マジックで“アホ”と描いて、家に帰った。

その日の夜、電話がかかってきて、「らくがきを消しにこい。来なければ警察を呼ぶ」と言われ、翌日、準優勝者は泣きながらラクガキを消した。

もうこの大会のことは思い出したくない。

僕はお笑い芸人なんだ。
お笑いの大会以外は出ないでいいや、と改めて思った。

さて、お笑いのほうはどうかというと、大阪時代に比べると。

やや調子が良くない。

しかし、ウケないといけない大きめのイベントには僕はめっぽう強い。

にぼしいわし主催の“カギョウ”

栗原さん主催の魔の巣

Kプロさん主催の聖域ライブ

裏ナルゲキ

レンガホリオさん主催の上京ものがたり

ガクヅケの単独ライブのゲスト

これらのイベントは結構ウケたかと思うが、他はわりとよく滑り、よく落ち込んだ。

特に思い入れがあるのは、【裏ナルゲキ】である。

その話をする前に。

僕はめんどくさがりで、人として終わってるので、努力が嫌いである。

ネタをやる前は緊張して、無駄なアイドリングをして、誰よりも早く会場に来たりする。別に努力はしない。
ブルンブルン〜と口でエンジン音を言ってるだけ。

会場にいなくても、その近くの喫茶店で大体ネタを書いたり、ただただ緊張してたりする。

そんな中、アイドリングしなくても良い“手法”を思いついた。

書いてきたお話を、読むだけにすればいいのだ。

芸人はカンペを手に書いたりしたらダメとかNSC(よしもとのお笑い養成所)の時に講師に言われたが、意味がわからない。

よく考えたら、オーケストラの人たちはみんなカンペのことを“楽譜”と呼び、堂々とカンニングしている。

なんで芸人は見たらダメなのだ!!

ミュージシャンに許されるなら、芸人もかまわないだろう。

僕は二、三年前から、ちょこちょこ“朗読ネタ”と称して、堂々とスマホを見て、ネタをやりはじめた。

ライブのお客さんの好みによっては、普通のネタと変わらないぐらいウケる。

ただ、やはり朗読ネタは、打率が低い。

お客さんによっては、全然ダメな時がある。

朗読ネタは、ウケたらウケッぱなしだけど、滑ったら滑りっぱなしなのだ。

カレーか、ウンチか、やってみなくてはわからないし、一口食べて、ウンチだったとしても完食しなければならない。

それが朗読ネタなのだ。

さて、いざ、裏ナルゲキである。
僕は朗読ネタはやりたくなかった。危険だからだ。

裏ナルゲキは、Kプロさんがやっているので、お客さんがたくさん入るイベントである。
東京にきてから、さっそく滑りたくない。

ところが、朗読ネタをやらざるを得ない自体が起こった。

当時、僕は小指を骨折していて、治療中だったのだ。

小指の骨折にしては、世界一でかいギプスをつけていたので、目立つ。

これでは、いつもやってるコントは出来ない。

読む奴が骨折してても、ストーリーに影響はないが、コントでは、普通の医者のコントが、骨折した医者のコントになってしまう。

僕は仕方なく、朗読ネタをすることにした。

すると、ウケにウケにウケた。

やったあ。
朗読ネタはウケるとかっちょいい。

表情とか手振りとか、何も使わずに勝負してるので、才能だけでウケてる気がするからだ。

いや、勝手に思ってるだけだけど。

一方で、よく滑ったなあ、というイベントがある。

ここからは、有料になるが、ワンコインでお釣りがくるので、noteを買ってくれるか、または全体のマガジンを買ってくれると、この天才の短編小説が60本以上、読み放題である。(これからも書くからどんどん増えていく)

お笑いのこだわりや数少ない交友録なども書いてるので、是非買ってください^_^

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