断ることの大切さ

前回、足元を見られないことの大切さに少し触れたが、それに関連して、この章では、「断ることの大切さ」について語っていきたいと思う。


足元を見られないということはとても大切で、僕は芸人のほとんどが、来た仕事を断れない弱い立場にいると思っている。
断ると、次から仕事をくれないんじゃないかという不安感からだ。


要するに、この状態は足元を見られているわけだから、当然気持ちは良くない。
精神衛生上も、楽しくない。すごくわがままな理想だけ言うと、やりがいのある仕事はやりたいが、やりがいのない悪条件の仕事はやりたくない。


こういった悪条件の仕事を押しつけてくる人も二種類に分かれる。
いい仕事も持ってきてくれる人と、悪条件しか持ってこない人である。
前者は持ちつ持たれつである。

「こないだ、いい仕事斡旋したんだし、困ってる時は助けてよぉ」
「当たり前じゃないっすかあ!」
ってなもんである。

後者は、断りゃいいだけじゃないかと、思うのだが、ことはそう単純ではない。
人間は、社会的な生き物なので、悪条件の仕事ばっかり持ってくるAさんが、権力を持っている場合もあるからだ。


我々芸人は“夢”を人質にとられている。
だから、悪い条件でも断ることをしないのだ。
このあたり業界全体を改善しないといけないところである。

このように断りにくい状況はいくらでもあるし、その場に応じて、判断していくしかないのだが、仕事が来た時にオファーを受けるかどうかというざっくりとした僕の感覚をここでは書いてみよう。


予め述べておくが、今から書くことは、僕自身が成功者でもなんでもないから、「これで稼げるよ!」という仕事論ではなく、「こうすればストレスはたまらないですよ!」という方法論に過ぎない。


まず、基本的に、仕事がない時期や暇な状態の時に、戦略を決めている状態でないといけない。仕事が来てから判断をゼロからするわけではないし、それではもう遅い。


現在の僕の場合の戦略で言うと、ヌアンス刑務所を育てるためなら、安いギャラでも、なんでもやるというものが大きい。
安いギャラどころか、バズらせるための投資までしているぐらいである。

もうひとつ、僕の収入のかなりを占めるのが物販の販売である。安い単価で舞台に出ても、そこでめちゃくちゃウケると、たまに飛ぶように物販が売れ、万単位の儲けになることがあるのだ。

なので、安くて割に合わない仕事が来た時は、完全無欠の断り方はしない。
必ず「この条件を付け加えてくれるなら、やります」という風に、“この条件”というものをつけるのだ。


もう条件反射で「えっと、条件つけさせてもらっていいですか?」と言ってしまってから、その条件を後から考える、ぐらいまで、条件をつけることを当たり前にしておきたい。
そのほうが絶対に精神衛生上ラクなのだ。

具体的な話をしよう。

某YouTubeアニメのライターをやってくれと、依頼が来た。聞くと、正直かなり安い。
みんな、そんな料金でやってるのか?って思ったし、このままの条件では、やる気がなかった。実際に僕の場合、もっと高い単価で仕事しているのだ。


しかし、YouTubeのアニメのライターの仕事なんて、未知のジャンルである。開拓できるなら、やってみたい。
なので、僕は一発目は快く何も言わずに引き受けた。これもコツである。
一発目からゴチャゴチャ言ってはチャンスをなくす。


さて、その後である。単価の低いYouTubeアニメのライターの仕事がまた来たのである。
頭の中で確認したいことはいくつもある。


これ?単価上がっていくの?それともずっとこんな値段でやらせるつもり?
バズったら単価上がっていくの?
俺の名前は出してくれるの?
俺の宣伝になるの?


概要欄で【ヌアンス刑務所】の宣伝はしてくれるの?
それがないなら、やらないけど?
内容を自分が最初から持っている物販に近づけた内容にして、販売促進してもいい?
どうなの?
ねえ?愛してる?
わたしのこと愛してる?

このようなことを考える。
そして、条件をつけるのである。
僕は実際に、このように返した。


「えーと、正直このギャランティだと、厳しいかなと思ってます。【ヌアンス刑務所】の宣伝を概要欄に貼り付けてくれるという条件を出させてほしいんです。それでちょっと、宣伝効果あるかどうかも見たいですねぇ」

僕はそのように答えた。
すると、条件を受け入れてくれ、さらにギャラが少しだけ上がったのである。
このケースでは、たまたま良い方向に進んだが、断られてもいいのである。
実際、断り切った案件もある。


概要欄にちょっと貼り付ける程度の労力をめんどくさがるような会社や人は、絶対にこっちに愛はないからだ。
ウィンウィンの関係性を作るつもりがそもそもないのである。そんなとこはこちらからお断りである。


ここまで、断るということのメリットについて見てきたが、基本的にギャラ交渉の時に、僕の中で信念としていることがあるので、そこを少し補足する。


「こいつ!ケチだから断ってきたな」と思わせてはいけないということだ。
要するに、「その値段ではやりません」と言われた側に、「この人は他にも仕事あるから断ってきたのだな」とウソでも思わせないといけないのだ。

足元を見られるのを嫌うという基本的な考えからいっても、当然である。
具体的には、僕はできるときは、このようにしている。


案件を持ってきてくれた人に対して、【自分自身が身銭を切ってお金を使うアイデア】を話しかけるのだ。


実際に僕はヌアンス刑務所の関連するところからの仕事を断ってしまったので、そのあと、畑さんに、僕自身がポケットマネーのお金を使うアイデアを提案し、そのうちのいくつかは実行している。


この行動により「この人はケチなのではなく、本当に自分が持っていった案件がこの人の“格”から見て安いのだな」と思わせることができるのだ。









さて、次章では、この章に関連して、意外とみんなが知らない疑問に答えよう。

その疑問とは“給料ってどうやってその金額に決まってるの?”というものである。


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