信じる心を利用するな

今日はいたって健康な呼び込みバイトだった。
炎天下。
こっそり影に入ってなんとなく声を出してみる。全然ロボットがやるべき。AIとかじゃなくていい。熱に強い録音機で全然ええんよ。あっちいな。
おばあちゃんが両手にパンパンの袋を引っ提げて、よいしょよいしょと坂を上っていた。
あまりに大変そうだったので、普通に声をかけた。「手伝いましょうか?」
まあ暇やったし。
おばあちゃんは風船まみれの私を見て眉をひそめたが、「いやプロモーションとかじゃなくて、この坂上りきるとこまでなんですけど」と言うと片手の袋を差し出した。
ネギがはみ出た白いレジ袋。私でも重い。こんなちっちゃなおばあちゃんが炎天下で坂を、、
おばあちゃんは隣でゼエハア言っていた。
私の雇い店の前まで来て、思わず言った。親切心だった。
「中涼しいんでちょっと休んでいきませんか?」
おばあちゃんは首を振って、「もう大丈夫」と私の手からネギの刺さった袋を取り、あと少しの坂をひとりで上っていった。

私はそうか~と思いながらおばあちゃんの小さな背を見送った。

「中涼しいんでちょっと休んでいきませんか?」

「ちょっと休んでいかない?」

「荷物持つよ」

「休憩できるとこ行く?」

『え、
 ここ?』

背中を見つめながら、自分の言った言葉と共に急に木屋町に流れる柳が視界に現れ、訝しげなおばあちゃんの顔と、おばあちゃん目線の私と、曖昧な男たちの顔や声がぐるりと頭を一周した。

私今ヤリモク男と同じムーブせんかったか。

おばあちゃんナンパして失敗したかんじになったやん。
心からの親切だったんじゃが。
親切心とナンパって表裏一体じゃ。
人の親切心とそれを信じる心を利用すんじゃねえよバーロー。
人を信じる心ってのはいっちゃん利用しちゃいけないんよ分かるか?それが世界を破滅に導くのさ。


ダラダラダラ
ドロドロドロ
どれが汗でどれが自分なんだかよく分かんなくなってくる。
高身長白人金髪イケメンがいて、呼びかけに乗じて声かけようかと迷ってたら、すげえ英語しゃべるババアが私の前をスッと横切った。
ババアに弾丸のように話しかけれられてたじろぐ白人であったが、なんか地図とか開いちゃって仲良くなっちゃって最終的に連絡先まで交換しているようだった。
格の違いを見せつけられた。私は悔しくて悔しくてフグウと唇を嚙み締めた。ババアすげえ、すげえよ。くそう!!連絡先交換したかった!!!!
辛うじて白人イケメンが”I live in (近所)”と言ったのだ聞こえた。会いたい。君に会いたいですワタクシ。どこにいるの。バンブルやってないかい。どこに行けば会えるんだい。ねえ!!
ダラダラダラ
ドロドロドロ
ミンミンミン
長時間の直射日光と熱は完全に人のIQを下げます。私が身をもって体験しました。時間が経つのも遅いのでどんなロボットがあったらこのバイトが必要なくなるかとか、黒い靴の人は何人通りがかるのかとか数えようとしたけど、「そうしよう」と思った直後にはもう忘れていた。
ダラダラダラ
ドロドロドロ
ミンミンミン
「暑いのにお疲れ様あ」と声をかけてくれるマダム。優しい。
けどこれで日給10000円もないんじゃあ、ねえ。
絶対おっぱぶで3時間働いた方がいいやろ。
いやずっとはいややで、単発やとしたらやで。
あと客が39歳までかきれいなジジイかとしたらやで。
絶対自分の今の若さという武器を使って効率的に働いた方がええやん。
この時間無駄やん。
なにこれ。えおっぱぶって暗くて女の方の顔見えんと思ってるけど認識あってる?
いやおっぱぶは怖いか。パパ活か。
でもパパくらいの年齢はいややからもうちょい若くあってもろて。
もうそのへんの道端の人で。
5000円払います!て言われたら全然いいけどな。
いや5000円は安いか?でもちょっとおっぱい触るだけやで?
全然3万はほしいな。
3万払ってくれたらもうニコニコしときますよ、はい、好きなようにやってもろて。
え3万高い?高いか?何人してくれるかによるわな。おおん。
あたしゃ贅沢するためじゃなくて学費がいるんだよあたしゃ。なあ。ああああ
ダラダラダラ
ドロドロドロ
ミンミンミン
そうこうしてるうちに終わった。
みんないい人だった。
このバイトは二度とやらんからおっぱぶにもいかん。だがパパ活女子たちの気持ちはたまに分かるよちょっとだけ。
でも私はブランドバックじゃなくて学費がほしいんだってば。
みんなと飲みにも行きたいんだってば。
あーーー就活がんばりまーーーーーーす




交通費高杉!!バカタレ!!!!
アデュー


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