頑張ろうなおれたち

単発バイトは、普段絶対会わない人とお話できるから面白い。投資アカウントの中の人とか。
この前一緒に入った男子大学生も、あとにも先にも二度と会うことは無いだろうなあと思った。

単発バイトは、「行ってからどんな仕事か分かる」ということがほとんどだ。なんのイベントなのか、何人でするのか。何をするのか。
この前行った職場は、二人で監視をまわす、みたいな仕事だった。
もう一人の人は遅れてやってきた。
「ちす」
遅れてすみませんとかないんかい。褐色の肌に、ぱっちりとした目。寒いのに紺色の半そでポロシャツを着て、でかくて黒い革鞄を持っている。
ちぐはぐなイケメンだな…でも苦手なタイプかもしれん…
運営側の人は、「この子ずっと入ってくれてるから、色々教えてもらって」と言ってそそくさと消えていった。
「何時になったら何分ごとに休憩、まあ、適当でいいから」
男はそう言って持ち場に着いた。適当でいいかはあんたが決めることなのか?そう思いながら私は自分の持ち場で声掛けなどしていたが、ちらりと男の方を見るとずっと座ってスマホを見ているではないか。
コ、コイツ…
せめて給料分は働こうや、なあと思ったが、次第に私の持ち場の人も少なくなっていき、とうとう誰もいなくなった。働こうにも何もできない。
近くの警備員さんと談笑し、私もベンチに腰を下ろした。
こ、これでお金が発生しているのか…お金をくれている人、すみません…
昼休憩に行くと、男がスーパーの袋を持って入ってきた。
コンビニではなくスーパーに行くとは。熱心ではないか、貴様も貧乏なクチか?
親近感が湧いて話しかけた。
「このへんスーパーあるんですか?」
「ん?ああ、あるよ、出てあっち側にライフが。」
男は席に着きレジ袋からガサガサと中身を取り出す。
寿司だった。
この裏切り者め!!!
私は心の中で憤慨した。
バイト中に寿司食うな!!なんのために働いてんねん!!せめて夜食え!!値引きされたやつを食え!!てか寿司食べるならもうちょい働け!!!


あるとき人が多くなり、二人で一つの持ち場をまわしていた。そこで、外国人の方に彼は英語で対応していた。
忙しいのは一瞬のことで、すぐに人がいなくなる。
「英語、話せるんですか?」
暇でも仕事中にスマホをさわるのは抵抗があったので、雑談でもしようと声をかけた。
「ああ、しゃべれるよ。」
「いいな~留学とかしてたんですか?」
「そうそう、一年いってて。」
仕事は本当にしないが、話してみると別に普通の人で何ラリーかした。
「俺は将来大金持ちになる」
「あそう。でもお金持ってたら幸せかっていうと分かんないですけどねえ」
話の流れでそう言ったとき、男は少し黙った。私は脳死で喋っていたのでなんかまずいことを言ったのかと少し焦ったが、
「……ほんっまにそう。大事なんは、お金じゃなくて、人とのつながり!」
と男は重みのある声で言ったのでほっとした。
彼は関西では有名な、私立の大学生であった。親の金で私立行って留学して散々海外行ってる奴もそう思うんだな、ふーん。
「私立やったら周りみんなお金持ちですか?」
「そうやねん、普通にDiorのバッグとか持ってる。」
Diorってバッグ売ってるんや。
それより君はユニクロで長袖の服を買ったらどうや?
「なんの仕事してたらお金持ちになれるんですかねえ。」
「みんな自営業やなあ、あと解体」
解体?死体の解剖?裏社会の仕事ですか?
「いや解体って家の解体な。」
家の解体って儲かるのか。
土木のお仕事って言い方悪いけど世間的には下なイメージがあったけど、解体のボスは儲かってるのか。作業員はお金もらえてるんだろうか。人が住むところをつくるなんてめちゃくちゃ大変で神聖な仕事だと思うんだが、ふむ。現場の人こそお金をちゃんともらうべきだよ。

もう仕事も終わりに近づいてきた。
最後の休憩の直前で、また話しかけた。休憩時間も結局おしゃべりに付き合ってくれたので、素気は無いが別に人が嫌いなわけではないらしい。
「日本はだめや。」
国際系の学部に行っているらしい彼はずっとそう言っていた。
「何がダメなんですか?」
「いやもう、色々あるねん」
「ほえー、将来は日本でて海外で働きたいとか思ってるんですか?」
「あ、そうそう。こっちで就活はしないよ」
「ほえー!すごいですね。」
普通にいい人だったがなんともお金持ち感が抜けない人だった。立派な志だが家賃7万円のシェアハウスに住んでいるらしい。いやシェアハウスの意味。ぼったくられてるよ。その感覚で社会に出て大丈夫なのかなあ。なんてどうでもいい心配をしてしまった。そしてシェアハウスの人とも別に仲良くないらしい。引っ越しなよ。
「高校のとき〇〇部で全国大会とかいって」
「すごいですね」
「それで今の大学推薦で入れて」
「すごーい、続けてるんですか?」
「いやきつすぎてやめたけど、留学行って」
「すごーい」
「すごい」に嘘は無かったが、彼の自信はよく分かった。その大学は私にとってはめっちゃ賢い人が行くところではないし、語学留学すること自体は大してすごいことでもない。お金はすごいけど。
「とりあえず経験積んで、ゆくゆくは起業とかしようと思ってて」
「すごーい」

「まあ俺はっ、一人でやってける、自信はあるし。」

「…友達、いないんですか?」
「ん!?いや、え?いるよ!いるいる!!全然いる!!そういうことじゃなくて!」

なんだかなあ。

私の心は完全に離れてしまった。大した友達いないんだろうなあ。
「人とのつながりが大事」とか言いながらなにが「一人でやっていける自信はあるし」だよバーロー。「結局人とのつながりが大事」って思う機会たぶん君の人生であと五回はあるよ。人との繋がりってビジネスとかじゃないからね。てか企業とか働くことへの意欲がそんなにあるのなら今目の前にある仕事をちゃんとしなさいよ。小さな仕事をおろそかにするんじゃないよ。君が企業して偉い人になっても、末端の仕事をどうでもいい下っ端に任せるんだろうか。それじゃ利益にならないことは今の君が体現しているけど、興味ないんだろうか。

おわりの時間になって、一緒に帰った。
なんかちょっといい感じの雰囲気が漂っていたが、連絡先交換とかになったら面倒なので「私はここで!」と分岐点でそそくさと帰った。気がねなく話せたから連絡先交換してもいいし、今度ごはん行こうとか言われたら行くし楽しく過ごせると思うけど、それ以上は無かった。自意識過剰かもしれんが予防線を張ってしまった。

そして気付く、このかんじ。

この前単発で一緒になって別日に遊んだのにその後私をブロックした、あの人。
「別に一緒に楽しく遊べるけどそれ以上はない」
ああ、あの人にとっての私は、私にとってのこの人なんだな。
か、悲しい。
すまん、起業男。こんな風に思ってすまん。
しかしめちゃくちゃ納得がいってしまった。
が、頑張ろうな、おれたち。
自分が気持ちよく喋れてるときって、相手は色々考えてんだぜ、なあ。
思いやり、学んでいこうな。


夜、家までの帰り道でチャリとバイクが誰もいない道路を並走していた。
チャリは歩道で、ガードレールを挟んでなにか話している。
地元の友達だろうか。
一人は原付免許をとったんだね。大人になったね。
でもあのときと同じ速度で、一緒に坂を下りてるってか。
なんかいいなあ。
実家が柿農家の友達にもらった、柿がたくさん入った紙袋をぶらぶらさせて歩いた。
寒いなあ。
夜空がキラッと光った。
一瞬のことでびっくりした。流れ星?
たぶん衛星だな。
でもなんかよかった。ラッキ~

サバシスターの「ジャージ」を熱唱しながら夜道を歩いた。

明日も頑張ろうね。
アデュ!

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