ごめん

人の人生を殺していることがあるかもしれない

お父さんと微妙に仲が悪い。
口論なんてほとんどしたことがないんだけど、なんでだろ。
なんか、すれ違うんだよな。
お父さんは私の留学に一番反対した。正直なんでこんな反対されるのか全然分からなかった。これからの時代グローバル化じゃん?今のうちに海外見ておきたいって言う人のどこに反対する余地があるの?
まあそれについて反対というよりかは、お父さんの主張は一択。
「今じゃない。大学卒業してから行け。」
いやいや父よ、卒業したら学生っていうこんな曖昧で緩々な名刺がはがされちゃうんだぜ?仕事辞めていかなきゃいけないよ?私が仕事辞めたら誰が薄情者家を支えるの?姉ちゃんニートよ?

数か月前、泣く泣く「行きたい」って訴えた。泣きたくないんやけど、私は親に自分の意見を言うとき涙が出てしまうのだ。悔しくて悔しくて泣きたくないのにって中学生の頃からずっと悩んできたけど、無理。最近は自己主張をすることに段々慣れてきてはいるが。
私は京都に居座り、バイト終わりの夜に兵庫に帰って訴え、次の日の朝また京都に行くという日々がちょっと続いた。けっこう限界だった。しかし挙句の果てに父から長文反対文章が送られてきた。私の意見をピックアップして一つ一つに反論を書いていたけど、全てが的を射ていなくてびっくりした。残念だった。これは父が私の意図をまるで汲み取っていないことではなく、私が自分の意見をちゃんと伝えれていないことが悪い。コミュニケーションの難しさを感じたし、だからこそちゃんと言語化しようとした。だから父には感謝すらしている。してないけど。私の力にはなったと思う。

母が賛成してくれたこともあり、私はぬるっと休学して留学を決意した。そして前々から貯めていたお金と日々のバイト、鬼の節約を以てして自分でほとんどのお金を用意した。(しつつある。)最近おばあちゃんやおばさんもお金をくれて驚いた。親族に助けられている。母も貯金をあげると言ってくれている。本当にありがたい。
でもお父さんは一円も援助してくれない。いいんだけどね。
もし行く直前にお金を渡されたとしても、絶対に断る。そのときにはもういらんし。
なんで優しい父が、ここまでして留学には反対するんだろう?


今日、父と二人で父方の祖母の家を訪れた。
小さい無人駅で降りると、秋風の気持よく吹く何の変哲もない町が広がっていた。田舎だが田舎すぎず、広い道路を時折車が走ってゆく。昔は父の運転する車で毎月来たものだ。いつもめんどくさいなあと思いながら、私は後部座席でぐーすか寝ていた。
「のどかやなあ」
父の声と眼差しには愛しさがこもっていた。

久しぶりに会った祖父母は、私が想像してたほどは変わっておらず安堵した。しかし祖父には腫瘍が見つかっており、祖母も度々体調を崩しているようだ。父は、自分の母と父に「高齢者」ではなく「親」として接していた。あくまで普通に。いつも通りに。腫瘍のことも茶化して。でも、すうっと深く息を吸っていた。自分の親が生きているその時間や匂いを、体に取り込もうとしているように見えた。
そして大きな庭に行って写真を撮っていた。私は小さい頃この場所が苦手でちゃんと見たことが無かった。めっちゃ虫がいるからだ。でも、なんとなく、ここで遊ぶ小さい頃の父が見えたような気がした。
おばあちゃん家の二階には、父が高校生のときに描いた絵などが額に入って残っていた。大事に、大事に育てられたんだなあ。

だめだあ!また涙でてきた!なにに反応してるんだろう、読めないなあ。

「ここどうするんって〇〇子が心配してたで、どうするん」
〇〇子はお父さんの姉だ。祖父母の前だと、お父さんは母のことを名前で呼ぶし、姉のことも名前で呼ぶ。うむ、私の知らない人生がそこにあるな。

「もうあの校舎行くのも半年やな」
「いや、あと一年半」
「え?あと一年半もあるんか…」
何気ない会話の中で父はうんざりしたような声を出す。とにかく早く私に卒業してほしいらしい。

父からの留学反対文書の中に書かれていた一文に衝撃を受けた。
「もうすぐ、子育てがやっと終わると思ってたのに…」



あーーーーーーーー
あーーーーだめだな、だめだめ。全然だめ。

最近家族とちょっとうまくいきだしたと思っていたのに、全然だめだ。
私実家戻ってきてからもずっと逃げてるだけだ。
最後の砦は父だな
まだ全然向き合えてないな、だめだな

どうしよう、だめだな



父は私に早く卒業してほしいようだった。
私が受験を終え、一人暮らしを始めようとした頃、父がこの実家を売ろうとしたことがあった。
不動産やがうちに来て、話をしていて、売却まであと一歩のところで、私は「やめて!売らないで!こんな娘でごめんね!でも私この家大好きなの!」みたいな主旨の手紙を10枚くらい書いてこっそり父の会社の鞄に入れた。
そしてなんとか実家は守られ、私は京都に行った。わがままだね。

ここからは私の予想だ。
父は、私が大学を出たら、おばあちゃんの家に行くんじゃないかな。
父も自分の実家を守りにいくんじゃないかな。
たぶん何かしら、やりたいことがあるんだろうな












優しい父のことだから

愛されてきた父のことだから





































































ごめんねえ
私、あなたの人生殺してない?




















































































ごめんねえ



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