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カメムシデッド・エンド

電車のってたら目の前をヒューンってなんかとんでいって
目で追うとスマホを持つ手にピタリととまった
褐色の肌に一点の緑
カメムシだ。
可哀想に…と思って視線を上げると、微笑を浮かべる顔がある。
イ、イケメンやないかーーい
イケメンは取り乱すこともなく、「やれやれ」みたいな顔で冷静に手にとまったカメムシを写真におさめていた。
そして私が見ていることに気付き、一瞬ニヤリとした。
そしてそのあとはじっとカメムシがとまる手を、どうするでもなく宙ぶらりんにしていた。
か、かっこいい。
虫がいける男、好きである。
虫がいけるイケメンと私は二人の秘密を共有した。フフ、となんだか良い気持ちになったとき
ヒューン
また目の前を何かが飛んだ。
一瞬理解が遅れるも、ハッと嫌な予感がする。
もしや
カメムシの行き先は分からなかったが一応服をパタパタさせておいた。いない。
しかしふと顔を上げると、イケメンがこっちを見ている。
い、いやな予感。
私はスマホの反射で体を映した。
スカート、いない。ニット、いない。かばん、いない。
顔……ギヤアァァァァァァァァアァァ
顎の真下、首元に黒い影があった、まさかまさかまさかうそだろ
テンパってさわると、いる!いやがる!!!
カメムシがおれの首にいやがる!!!!

カメムシの正確な位置情報


最悪だあああああ
と思うより先に私は手探りでカメムシを掴み、ニットの中に落っこちそうなやつをギリギリで掬い上げた。
私の手の甲をてくてく歩くカメムシ
服の中に入らなくてよかった…と安堵するも束の間
ムフワァッッ
セロリを大量に収穫して13時間が経ちましたあ!みたいな生臭い空気が顔全体を包む。
カ、カメムシ臭だッッ
クッッッッセエ!!!!
褐色のイケメンが憐れなような失笑しているような目でこちらを見ている。くそう。カメムシがとまったイケメンを見てニマニマしていたからバチが当たった、くそう、くそやろう
ヒューン
カメムシは「お前はもう用済みだぜ」と言うように私の手を離れ、男子高校生の制服にとまった。
しかし高校生二人組は「なんやあこいつ」と言っておもむろに白いハンカチーフをポケットから取り出しカメムシを握り潰した。
無駄な殺生を好まぬ私も、今回ばかりは高校生に心から「ありがとう」と伝えた。心の中で。
しかしくさい。
もうずっとくさい。
上を向いても逃げられないくささだ。
カメムシ臭はくさいだけでなく有害ガスだと聞いたことがある。
私このまましんぢゃうのかな
そのとき、ハッと思い出す
好きだった人に会う用に、いい匂いのミストを持ってきてたはずだ。まだカバンに入ってるじゃないか。
私は途中下車してシュッとミストを首筋に吹いた。
いい匂い……いいいくさいいいい
良い匂いが漂ったのは一瞬のこと、甘い匂いがカメムシの臭いとまざりあって生ぬるく上部の顔面を襲う。

最悪だ。
私はあと1時間は電車に揺られます。
ゲボ吐きそうです。
乗り換えのときに一応トイレで首元を洗ってみます。
まったく、本当に、とんでもねえくささだなこれ。
好きだか好きじゃないんだが分からん男の子からは返信がこないし、褐色イケメンには笑われるし、お金はないし、
ああ、さいあくだ、おわりだ
私の人生おわりおわり
おわりおわり
おわりだー

おわりっ

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