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300円パン
今年は「10円パン」というものが流行った。
「薄情者、10円パン食べ行こ〜」
と声をかけられたときは、心底心が踊った。
きたきたきたこういうの!!!
やっとこういう流行りがきたか!最高じゃない!どんな粗悪なパンだっていいぜ!なんたって10円だからな!!ガハハ!!5個くらい食べようぜ!!!
友人に手を引かれ、心弾ませて屋台に行くと
そこにあったのは
「10円の形をしたパン」であった。
価格は500円。
「…」
「薄情者、食べないの?」
「…ちょっと、いいや笑」
高架下の500円パチンコのポスターにで、かでかと5円の写真が載っていたことを思い出した。
ーーーーーーー
今日、さっきだ。
昼ご飯を食べれずバイトでヘトヘトになった私は、近くに見えたパン屋を目にした。
駅ナカのそのパン屋は少し高級そうな風貌をしていたが、空腹には勝てまい。躊躇なく足を踏み入れてトレーとトングを手に取る。
しかし
そこにあったパンの値段にひっくり返った。
300円。
手のひら(指を入れず)におさまる小さなパンが、300円なのだ。
まあそうゆうパンもあるかあ…と思って辺りを見回すと、全てのパンにおいて300円がデフォルトであった。
見たこと無いくらい小さいクリームパンでさえ300円である。確信犯だ。
えらいとこに入ってもうた…
私は覚悟を決めて、小さなパンを2つ取った。そしてお会計のお姉さんにトレーを渡す。
650円。
いや、ここ大阪やで。
「ちょ、お姉さんまけてーや」と口から出そうになったが、太いボーダーの麻Tシャツをさらりと着たオーガニックから生まれたようなお姉さんを見て唾を飲み込んだ。私の見立てではこの人、千葉出身である。
そして私は650円を、小さいパン2つと交換したのであった。
歩きながら、袋から例のパンを取り出す。
一口で食べれそうだ。
しかしこいつは300円の代物である。
小口でまずひと齧り。
おいしい。
小麦の香りが立ち上ってくる。うまい。
国産小麦らしい。
「300円もすんねんから美味しくて当たり前やろ!!」と頭の中のうるせえ薄情者が言うので、なだめる。
もう一つのパンもかじる。
おいしい。オリーブの塩っ気と香り高い小麦がマッチして、本当においしい。
「そら300円もすんねんからあんた…」
おいしい。
もしこれが120円だったら、私はこの小さなパンを、こんなに噛みしみて食べただろうか?
300円だから、こんなにじっくりゆっくりと、「楽しもう」「味わおう」と思ったのではないか?
「元を取ろう」という関西人なら切り離せない感情があるのは確かだ。
でも、これからは「安いものをたくさん」より
「良いものを身の丈にあった量で」が大事なんじゃあなかろうか。
年的にも、地球的にも。
日本人は、品質の良いものを安くするという努力をしすぎてしまったのかもしれない。
あのパンは国産小麦やったし、後悔はしていない。
……こともねえよいくらなんでも高すぎるやろバアローーーー!!!!!
バーーー!!!ロ――――!!!
ぼったくりオーガニックしばく!!!表参道とかでやれや!!大阪はたこ焼きパンとかでええねん!!!
家帰ってめちゃくちゃ鍋しておじやしたわ!!!ふざけんな!!!
せめて二つで500円にしろや!!!
なあ!!!!!!
薄情者が丁寧な暮らしをするまで、あと∞日――――――
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