US SUMO 入学式

【この記事はコチラ↓のコンテストに参加したものだよ(ᵔᴥᵔ)】
https://note.com/koga_hiroto_13/n/naf722eb0c63c

 俺がアメリカの学校に裏口入学を果たした初日。ハワイ出身の元力士である高見山にどことなく似た学長は、新入生を一堂に集めると、開口一番に言った。
「今から皆さんには相撲 すもり合ってもらいます」
 戸惑い、ざわめく生徒たち。
 当然だ。ここに集まった生徒は相撲を目的として入学などしてきていないだろうし、相撲とは無縁の人間がほとんど。
 対照的に、相撲の国から留学してきた俺は比較的落ち着いていた。それはもう全盛期の白鵬のような落ち着きようで、冷静な頭は、この場を無料のアプリで勉強してきた英語を披露する絶好の機会と捉えた。
「what⁉」
 と、俺はネイティブな発音を意識してそう言った。もちろんボディーランゲージもアメリカンスタイルを採用したのだが、誰からも見向きもされない。だがそれでいい。俺が培ってきたものが本場に通用している、馴染んでいるという あかしであり、これこそが俺の望んでいたものなのだから。
 と、成功体験を得てほくそ笑んでいたのも束の間。
 どこからか悲鳴が上がり、構内の空気は一瞬にして変容した。
 どうやら新入生の誰かが他の新入生へ見境なく張り手を見舞ったらしい。
 それがウモウ・ロワイアルの幕開けの合図となった。
 最前までのざわめきからは打って変わり、新入生が一堂に会した構内は、自らを奮い立たせる咆哮や、肉体と肉体がぶつかり合う音によって支配される。
 俺はそれまでの落ち着きを失い、頭を抱えて身を守った。何しろ、つい数分前までは「バターの固まりを油で揚げて食べてそう」などという印象を抱き、嘲笑の対象であった相手でさえも、今は豊満なアメリカンボディを有した肉弾魔人と化した姿で、いつ俺に四つ相撲を挑んできてもおかしくはない取り組み相手へと変容を遂げたのである。
「Wat⁉ Waaat⁉」
 強烈な恐怖に襲われた俺は、思わずWhatの発音を間違え、叫んだ。
 WhatではなくWatではウエンツ瑛士と小池徹平がかつて組んでいた音楽デュオを指してしまう。
 いつの間にか解散していたWat。
 そういえば昔、Mステにレッチリが出演した回にWatも出ていたっけ。
 よく覚えている。
 あの時はなんだろう。
 少し恥ずかしかった。
 共感性羞恥ってやつ? 力士の裸には覚えたことがないけど、あのときはそれを少し感じた。
 ゴメン。
 決してウエンツも鉄平も嫌いじゃないんだ。
 むしろ頑張っていると思うよ。
 好意的に思っている。
 でも、ああいうとき。
 海外の大物アーティストがMステ(もうすっかり見なくなってしまったMステだけど)に出るときなんかは、椎名林檎が共演してほしいっていうのが偽ざる本音なんだ。
 だって、ああいうときの椎名林檎の安定感というか、安心感は心に安らぎをもたらしてくれる。
 ツーアウト満塁の場面では椎名林檎に打順が回って来てほしいし、PKの場面では椎名林檎に蹴ってほしいし、オリンピックの開会式の演出は椎名林檎にやってほしかったし、もし自分が相撲部屋に入門するなら椎名林檎が親方を務める部屋に入りたいと思うくらいの安心感があの人にはあるから。

 ……って、あれ? どうして俺は昔のことなんか思い出しているんだろう。
 ……そうか。これは、あれか。
 この、時間の流れが物理法則に逆らったかのようなこの感覚。
 これは。
 死に直面した人間が見るという──
 走馬灯のような──

 次の瞬間──俺の視界に慌ただしく入ってきた巨体。
 どことなく小錦と曙と武蔵丸に似た学生たちの取り組みに巻き込まれた俺は、なすすべもなく圧死した。

 享年68。
 北の湖や千代の富士らとしのぎを削り合いたい相撲人生だった。

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