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さくらんぼに戻った話

ひとつ前の恥の話がひどく下品だったので
今度はハートウォーミングな話をしたい。
私には娘(5才・年長)もいるんだけど、
この子が年中の時のお話。

娘は赤ちゃんの頃からそれはもう臆病で人見知りする子だった。実家や義実家に連れていっても、慣れるまで必ず30分〜1時間はギャン泣きする赤ちゃんだった。

「うわぁあああああああ!!!!誰こいつ誰こいつ知らない顔なんですけど怖いんですけど無理なんですけど早く家帰りたいんですけどウォオオオやめろ離せ抱っこしようとするなママから死んでも離れんぞワイは!!!びぃええええええええええこっち見んな!!!!!!!」
みたいな感じで泣く子だった。

支援センターとかイオンの赤ちゃんスペースに行っても当然こうなるので自然と足は遠のき、ママ友なんぞ夢の夢、公園すら他の子がいると私の後ろに隠れる有様だったので、私と娘は幼稚園入園までの3年間、忍びのように子育てコミュニティから離れて暮らした。

しかし3才近くにもなると他の子への興味が恐怖に勝ってきたようで、幼稚園初日は楽しみと不安が入り混じった硬い表情をしながらも、すんなりバスに乗って登園して行った。

意外だった。大泣きするかと思ったのに。

一時保育を利用したこともなかったので、娘が初めて母親から離れて社会に出て行った瞬間だった。

私としても何とも言えぬほど胸にくるものがあり、園バスのおじいちゃんドライバーに「私の娘の生死は君にかかっている。頼むぞ運転ミスるなよ絶対ミスってくれるなよ」と強い念を送りながらバスが見えなくなるまで、見えなくなってからも少し、その場に立ち続けていた。

死ぬ時に見るという人生の走馬灯、
この場面は外せないだろうな。
veryエモーショナル。

といっても順調だったのは初日だけで、翌日から「行きたくない」「ママと一緒がいい」が始まり、年少の半分以上は行き渋ったし、友達作りのノウハウを持っていない娘は当然ぼっちで過ごしていたようだ。


「今日ねぇ、まいちゃんと遊んだ」 
10月の水曜日だったと思う。降園後、3時のおやつを用意しているときに娘が言った。

娘の口からお友達の名前が聞ける日がくるとは。
こんなに嬉しいことはなかった。

それからというもの、まいちゃんと娘はさくらんぼみたいにいつも2人で一緒にいる仲になった。
幸運にもまいちゃんとは年中でも同じクラスで、相変わらずさくらんぼの仲だった。

6月の雨の日、
「幼稚園行きたくない」と娘が言い出した。
理由を尋ねてみると、まいちゃんに「娘ちゃんとは遊んであげない」「娘ちゃん嫌い」と言われたらしい。

_人人人人人人人人人人人人人人人人人人人_
> 母、ショック!!!!!!!!!!! <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^YY^ ̄

我が子がダイレクトにそう言われると、自分が言われるより辛い。辛すぎる。母に瀕死のダメージである。
我が子に向けられる「嫌い」を全部この母がもらってやりたい。塩焼きにして食ってやるから。

女児のお友達トラブルというやつがついに来てしまった。おそらく娘にも原因があったのだと思うが、ことの経緯を4才に聞いたところで詳しく分かるわけもなく、我が子が傷ついた姿にメロスは激怒した。

「ワイの娘の良さが分からん子には遊んでもらわなくて結構だ!!!!!!次行け次!!!!!!!」と、34才とは思えぬ幼稚さでまいちゃんに激怒した。
親として0点の振る舞いである。
唐突に自分より怒り嘆き出した母親の姿に、
娘も「お、おう…」という感じで引いていた。

まいちゃんと仲違いしたまま1週間が過ぎ、運動会の日がやってきた。あんなにさくらんぼだったのに、まいちゃんとはたしかに微妙な距離が出来ていた。

開会式が始まり、理事長先生のひたすらつまらん長い話を聞かされている時、娘が吐いた。

その時私は理事長先生の方を見て「こんなに長い話するならユーモアくらい混ぜなさいよアンタ」と思ってイライラしていたので、園の先生に「ごりさん!!」と呼ばれるまで娘が吐いたことに気付かなかった。
親としてポンコツ極めたり。

園の先生たちの動きはすごかった。
目に留まらぬ速さで汚れた床を綺麗に除菌し(幸いにも量は少なかった)、娘をトイレに連れて行き、体温を測り、代わりの体操服を用意し、色んな先生がかわるがわる様子を見にきては娘を優しい言葉で慰めてくれた。

あのクソつまらん理事長のクソ長い話を朝早くから立ちっぱなしで聞いたので、気分が悪くなったのだろう。私も貧血でぶっ倒れるタイプなので遺伝してしまったのかもしれない。座りながら聞いていたら吐かなかったかもしれない。理事長のユーモアもなければ気遣いもないところにいまだにうっすらイラついている。サミットの話なんかどうでもいいんじゃ!!!!!!!!!!!!!

体調面は大丈夫だったものの心配なのは娘のメンタルである。「同学年全員の前で吐く」というショックを癒せるほどの恥カードは手持ちになかった。

全4競技のうち、2競技は見送った。
その間ずっと「気分悪くなっちゃったのはしょうがないよ」「恥ずかしいことじゃないよ」「大丈夫大丈夫」と、ありきたりな言葉で励ますしかなかった。

2競技めが終わると担任の先生が来て、
「大丈夫?次の競技出られそう?」と娘に聞いた。

娘は小さく頷き、先生に手を引かれクラスのみんなのところにトボトボと整列しに行った。クラスのみんなからの注目を集めている。当然だ。気になって見ちゃうよね。目立つのが嫌いな娘は下を向いていた。

すると1人の女の子が娘の横にすすっとやってきて
娘と手を繋いだ。まいちゃんだった。
彼女は娘に話しかけるでもなく、
ただ娘と手を繋いでいた。静かに繋いでいた。

手を繋いだ2人の後ろ姿はさくらんぼだった。
さくらんぼに戻った瞬間だった。

B.B.クイーンズの「しょげないでよBaby」が脳内で流れてきて喉の奥がツーンとする。
こんなもん泣いてまうやろ。
まいちゃんには心の中で土下座である。
なんて優しい子なんだろう。

終わり良ければすべて良しで、
年中の運動会は「みんなの前で吐いてしまった運動会」ではなく「まいちゃんと仲直りできた運動会」として塗り替えられた。ありがたい。園の先生たちとまいちゃんに感謝しっぱなしである。

だが理事長、お前はダメだ。
2度とサミットの話すんな。



運動会が終わり、平和な日々が続いた。
しかし一筋縄でいかないのが4才女児の世界である。

年中の終わり頃、再びさくらんぼ危機がやってくるんだけど…それはまた今度にしよう。

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