免許更新とマダムと屁の濡れ衣の話
受付開始の30分前に順番をとりに来たのに
すでに23番目だった。
絶望だ。
何が嬉しくて三連休の朝一から
耳鼻科に来なければならないのだ。
喉が痛い!
そういえば昨日の免許更新も散々だった。
5年の間に車を運転したのはたぶん2回くらいの私は今回の免許更新も優良ドライバー扱いされた。
一回くらい違反切符をきられた人より、もう10年以上ろくに運転していない私の方がドライバー界の危険分子のはずだが。日本の免許はザルだな。なんて思いつつ優良ドライバーとして30分の優良教室の席に着いた。
2人席で、真ん中2列目の右側に座った。
偽の優良ドライバーの私は
真の優良ドライバーである友人あやちゃんの車に
相乗りさせてもらって来ていたので、
私の左にはあやちゃんが座った。
私の前の席には50代後半ほどのマダムが座り、あやちゃんの前には30代後半くらいの女性が座っていた。
講習が15分ほど経過した頃、
すえたような臭いがただよってきた。
マダムだ。マダムが屁をこいた。
しかもお腹の調子が悪い時の屁だ。
マダムお腹痛いのか。大丈夫か。
(くっさ〜〜〜〜〜)
(でもそういう時あるよね〜〜〜〜〜!)
とマダムに心底同情していると、
私の席の後ろに座っていた池中玄太80キロみたいなおっさんが「ウヴン」と咳払いして身をよじる気配がした。
おいちょっと待てよ、
まさか私の屁として伝わってないだろうな????
脳内ではキムタクが「ちょ待てよ!」と焦っている。
空調はちょうどマダムの頭上にあり、
風の流れを考慮するとマダムのこいた屁は私を経由し池中玄太80キロに伝わっている可能性は十分にあり得る。
もしかすると隣のあやちゃんにも
私のこいた屁だと思われているかもしれない。
屁の濡れ衣だ、勘弁して欲しい。
せめて隣のあやちゃんの誤解だけは解きたい。
でもあやちゃんの方に目配せして
(私じゃない!私じゃないよ!)
というコソコソやりとりをすると、
ビデオの音声をのぞき、シーンとした会場では
おそらく目立つし自動的に真犯人のマダムも炙り出されてしまうだろう。
それは避けたい。
私も中2の時にとんでもなく臭い屁が我慢できず、後ろに座っていた男子にザワザワされたことがあるので、無念の放屁をしてしまったマダムの気持ちは痛いくらい分かるのである。
あのとき、私の後ろに座っていた男子Aは「なんか臭くね?」と言った。思春期の私は(今すぐ殺せ誰か私を今すぐ殺してくれ)と思った。マジで死にたかった。
そのとき、男子B、徳井くん、名前を忘れもしない、徳井くんが「別にしないよ。黙っとけ」と言ってくれたことは一生忘れないだろう。涙が出るほど有り難かったのである。
名字に“徳”が入っているのも頷ける。
徳井くん、本当にいいやつ…(涙)
いまこそペイフォワードだ。
徳井くんがくれた善意を私がマダムにつなぐ番だ。
…いい!
いいよ!
私でいい!
この臭い屁をこいたのは私でいい!
マダムを守りたい!
と、私が覚悟を決めた時、
マダムから追加の放屁がなされた。
まさかだった。屁のおかわりがあるなんて。
歴史を感じるくたびれた免許センターの一室が
笑ってはいけない免許更新24時と化した。
笑ってはいけないマダムの悲劇に
下唇を思い切り噛んで耐えるしかない。
池中玄太80キロは「スゥー」と前歯の隙間から息を吐くような音を出した。
おそらく口呼吸に切り替えたのだろう。
マダムと私と池中玄太80キロの3人は、全く集中できないまま、講習を終えた。
マダムが先に教室から出るのを待って、
即座にあやちゃんに屁の濡れ衣の話をした。
やはり私だと思われていたようで
(ごりちゃん昨日何食べたんだろ)と思ったことを
打ち明けられた時は笑い死ぬかと思った。
不運は続くもので、帰りに受け取った免許証の写真は最悪の仕上がりだった。
髪型も終わってるし、表情も終わっている。
流れ作業は仕方がないが、免許センターの写真撮影はなぜあんなにも無慈悲なのか。
真実が映し出されているだけなのは分かっているが、せめてスマホのインカメラみたいに自分がどう写っているか表示されて欲しいし、少しくらいは美肌フィルターとかかけてくれても誰も損はしないのに…。
私はこの無慈悲な証明写真とあと5年付き合っていくのか………………………………………………。
帰りに寄ったアウトレットモールのパスタ屋で、
「ねぇ私のこの写真さ、全日本女子プロレス名鑑に混ざってても違和感ないよね?」とあやちゃんに聞いてみたら、彼女は明石家さんまみたいに「ファーーー」と引き笑いして自分の鞄を殴っていた。
むしゃくしゃしたのでUFOキャッチャーで
3千円くらい散財してやった。
唯一の収穫であるカントリーマアム一袋を抱え
家に帰ったら喉が痛みだし咳も酷くなってきて
本日耳鼻科へ行く羽目になった。
マダムの屁は生物兵器だったのか。
あの放屁をあびてから体調が急降下した。
屁の濡れ衣をかぶり、全日本女子プロレス名鑑に載っていそうな写真を撮られ、しまいにゃ三連休初日に扁桃炎だ。とことんツイてない。
note創作大賞に選ばれると10万円もらえるらしいので、これを読んだ人は全員いいねして帰って欲しい。その10万円で杉乃井ホテルに行かないと私の魂が救われない。
あぁ、喉が痛いよ。
たぶん熱も出てきたよ。
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