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東京高裁判決! 河合塾ユニオンの佐々木書記長雇止めは「組合を弱体化させるため」の不当労働行為。  「バックペイ100%、中間収入控除なし 職場復帰」という緊急命令の衝撃!

割引あり

  7月18日、東京高裁の三角比呂裁判長は、厚労省の法律解説(労働契約法改正のポイント)を職員に手渡した労働組合の佐々木信吾書記長を学校法人河合塾が雇止め(契約非締結)したことは、不当労働行為と認定する判決を言い渡した。

 この事件は、2013年に河合塾ユニオンが愛知県労働委員会に不当労働行為救済を申立て、同委員会は、佐々木書記長雇止めに関して①職場復帰②バックペイ(報酬額相当支払い)③謝罪文掲載などを含む命令書を発した。

 労使双方が再審査を請求しが、中央労働委員会は初審(愛知県労働委員会)の決定を維持した。

学校法人河合塾は、中労委の決定取り消しを求めて東京地裁に提訴。東京地裁は訴えを棄却し、河合塾が東京高裁に控訴していたものである。

 労働側の全面勝利となった今回の高裁判決はきわめて重要な内容で、職場復帰した佐々木氏や、所属する河合塾ユニオンだけにとどまらず、全国の塾や予備校の契約講師、ひいては有期契約労働者・非正規労働者に影響を及ぼす可能性がある。


◇河合塾ユニオン・佐々木信吾書記長、雇止め事件の概要

 2013年、労働契約法改正が焦点になっていたとき、厚労省ホームページに掲載されている法律解説A4半4枚をプリントし、河合塾ユニオンの佐々木信吾書記長は、職員2名に手渡した。

 それが施設管理権侵害だとして、次年度の佐々木氏との契約を河合塾は締結しなかった。雇止め=クビである。これを不当だとして河合塾ユニオンは、愛知県労働委員会に不当労働行為救済を申立てたが、その審査中に佐々木書記長は雇止めにされた。

 結果、3年後の2016年8月30日、同労働委員会は佐々木氏の復職や報酬の支払いなどを含む命令を出した。しかし、佐々木氏以外の講師の件で納得ができずユニオン側は中央労働委員会に再審査申立て。同じく河合塾側も再審査を申し立てた。

 2021年2月17日、中央労働委員会は双方の再審査申立てを棄却し、初審(愛知県労働委員会)の決定を維持した。この中労委命令のポントは次のとおり。

①   バックペイ(本来支払われていたであろう報酬)を100%支払え
   (その間のアルバイト等中間収入を控除せず)
②    佐々木書記長の雇止めは不当労働行為
③    同条件で佐々木書記長を復職させよ
④    河合塾で働く業務委託講師は全員労働者

 河合塾ユニオンと佐々木書記長の完全勝利と言えるだろ。非正規・有期労働者の雇止めに関する裁判などでは、圧倒的な比率で労働者側が敗北するのが実態だからだ。

 にもかかわらず、使用者側(河合塾側)の不当労働行為意思を認定し、雇止めされた人物の同条件での復職、その間の報酬も百パーセント払え、しかも紛争期間に生活のためにアルバイトで得た収入は控除されない。

 まさに画期的な中労委命令であり、労働側の全面勝利だ。しかし河合塾は、この中労委の命令(行政命令)取り消しを求めて2021年6月23日、東京地裁に提訴した。

 2023年9月26日、東京地裁の高瀬保守裁判長は、原告・河合塾の請求を「全部棄却」し、中労委の命令を全面的に認める判決を言い渡したのである。中労委の命令にお墨付きを与えた形になる。

 繰り返しになるが、その内容は画期的というより衝撃的である。

◇河合塾の4連敗、ユニオンの4連勝 

 河合塾は同年10月6日、東京高裁に控訴。年が明けた今年(2024年)5月7日の一日で審理は終結した。

 そして7月18日、河合塾の控訴を棄却する判決が言い渡されたのである。愛知県労働委員会→中央労働委員会→東京地裁→東京高裁、と労働側の四連勝、使用者側の4連敗だ。

以下、実質的な事実認定と審理を行った東京地裁の判決をもとに事件を振り返り、今後の展開を考えてみる。


厚生労働省のホームページに記載されているこの解説リーフレットを職員に手渡し、佐々木氏は雇止め(契約非締結)となり、復職まで10年間を擁した。

◇すべての非正規・契約労働者らに与える大きな影響

 判決では、通常では考えられないほど(本来はそうあるべきだが)個人の権利回復が指示されている。

 しかも、当事者の佐々木氏のみならず委託契約講師全員が労働者であると認めるており、個人事業主と法人との契約だから契約非締結が許されるという主張は完全に崩れた。

 そればかりではない。佐々木氏の雇止めは、不当労働行為「組合を弱体化させるため」という意図的な不当労働行為も認められたことは大きい。

「正直驚きました。労働委員会も裁判所も、私の労働者性を認めるばかりか、契約講師は全員労働者だと認定したことです。また、雇止めされていた期間のバックペイの100%支払いが認められました。

 その間に生活のために得ていた収入を中間収入といいますが、これは控除されません。そして何よりも、復職することができました。

 こうした成果は、私だけ、あるいは河合塾ユニオンだけにとどまらず、私たちが経験した労働委員会や裁判での闘いの成果を、多くの非正規労働者・労働組合・弁護士の方々にも伝えていきたいと思います」

 非正規労働者の雇止めでは、裁判で負ける可能性が非常に高い実態のなか、完全勝利を勝ち取った佐々木信吾・河合塾ユニオン書記長の言葉である。

 この重要な裁判をもう一度振り返り、さらには多くの非正規労働者・有期契約労働者がここから具体的に何を学べるか見ていきたい。

◇三大予備校の一角を占める河合塾とは?

 事件が起きた河合塾とは、いったいどういうところか。改めて整理してみる。

 1933(昭和8)年創立の老舗大手予備校の河合塾(本部・名古屋市=河合秀樹理事長)は、駿台予備校、代々木ゼミナールとともに三大予備校の一角を占め、業界をリードしてきた存在である。

 ホームページ(24年7月4日現在)からグループの概要を見てみよう。

≪学校法人河合塾をはじめとする2つの学校法人、グループ本社である株式会社KJホールディングスや事業会社19社、機能会社2社、海外法人4社、2つの財団法人によりグループを構成。幼児から社会人まで10万人以上もの生徒が、全国500カ所以上の校舎·教室で学び、全国屈指の母集団を誇る「全統模試」の年間のべ受験者数は約266.1万人(2023年度実績)に及びます≫

生徒数     107,280人(2023年3月31日)
校舎・教室数 513校(2023年12月1日)
教員数 2,004人(2023年4月30日)
スタッフ数 3,008人(2023年3月31日)

 文字通り予備校業界の中枢を占める存在だ。

 その河合塾が、愛知県労働委委員会、中央労働委員会、東京地裁、東京高裁と、四連敗したのである。

◇予備校という独特の文化

 佐々木信吾氏は1962年生まれ。大学の理学部生物学科(専門は分子生物学)を卒業し、ある大学病院の勤務を経て1990年、28歳になる年に河合塾の講師になった。

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