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角藤農園の佐藤宗一さんの事

長野県高山村のカリスマ栽培家と言われる佐藤宗一さんが先日亡くなった。

宗一さんとの思い出は沢山ある。初めてお会いしたのは今から10年程前、まだ某大手小売店に在籍していた日本ワインに懐疑的だった当時、とある視察の際に寄った曽我さんの所のワイン(小布施ワイナリー)の凝縮感のある味わいに感銘と驚きを受け。この葡萄を作っているのは一体どんな方なのか?と俄然興味が湧き、アポイントを取ったのが最初だった。

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アポイントを取ったと書いたが、実は問い合わせたのは角藤農園では無く、間違えて親会社の株式会社角藤の方に送ってしまい、(ご存じの方も多いと思いますが角藤株式会社さんは鉄道や空港、官公庁の施設など錚々たる施設を建設している名門企業です)更に所属に某大手小売店と書いたものだから、話がこちらの本社にまで行ってしまい💦宗一さんはさぞや大物が来るのではと待ち構えていたそうです。

当日は忘れもしない大雨。訪問する前に一度、改めて小布施ワイナリーさんに寄り曽我さんと少しお話をさせて頂き『今日は雨なので暇してるんじゃないですかね』なんてお話をしをしつつ向かいました。

ただその時現れたのは普通の小さな若造で『本社から連絡来たからびっくりしたぞ!』と初めからいきなり怒られたのを覚えています。

それにもかかわらず高山村について何時間も熱心にお話しをして頂き、高山村の標高は300m~800m、なだらかな斜面になっており麓から風が吹き抜けるためとても風通しは良い。標高の違いにより植える葡萄品種を分けられるため、ヨーロッパ系の品種の殆どを植樹できる、このような一画にこれだけの条件が揃っている所はあまりないと熱く語っておられたのが印象的でした。

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20歳で家業の農家を継いだ佐藤さん。40数年程前にメルシャンと契約を結び社が指定する品種のブドウ栽培を手掛けていたものの、その味に納得できず、自らの希望で垣根式栽培へと移行(シャルドネ、ピノノワール)☆同じ頃竜眼も栽培していたが『これでは将来性が無い』と栽培をあきらめた、ともおっしゃられていました。因みにその時に農園に来ていたメルシャンのUさんはまだ平社員だったそうです。

その後シャルドネが1997年に世界ワインコンクールで金賞を受賞。試行錯誤していたが、高山村が葡萄の適地だと確信。その後数々のコンクールにて受賞多数。


それから毎年高山村の研究会の総会に出席する度にそのアフターで農園に寄らせて頂き(というか勢いだけでなだれ込んで。。笑)錚々たるメンバーの方とワインをご一緒させて頂いたりと本当にお世話になりました。行くと大体言われたのが。

『ここまで来るなら何か良い話もってこい』
『お前はいつになったら高山村にくるんだ』
『今日は泊まっていけ』
『なんか良さそうな品種あるか』

いつも手ぶら(案件無)で行くので、必ず最初は怒られる所からスタート。
高山村に行く件は栽培家になる予定が無いのでそれは実現せず、結局一度も泊まる事は無かった(いつも宿は取っていた為)のですが、本当に毎回良くして頂きました。品種については業界ではカリスマ栽培家と言われている方なので、自分が意見するなんて恐れ多い方なのですが、それでもこんな自分の話に耳を傾けて頂けたりと常にチャレンジャー、探求心があって、とても懐の深い方でしたね。

『アルバリーニョとかグリューナー、ピノグリとかどうですか?ちょっとマニアックですがプティ・マンサンとか』なんて話したのが最後になってしまった。多分やりたい事はまだまだ沢山あられたのではと思う。

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2回目位に行ったときに『おお!おめぇか』と本人曰く密造酒(笑)を飲ませて頂き、それが、冷蔵庫で冷え冷えで温度設定も何も無かったのにもかかわらず(^^;)滅茶苦茶美味しかったのは良い思い出。たしかカベルネだったかな。他にもここでちょっと書けない事も色々伺いました。その話はまたどこかで。

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宗一さんとは忘れられない思い出がもう一つある。それはとある年の総会で、当時の農政課の方から3人の発表者のうちの一人(自分が2番目で宗一さんが3番目)として依頼された時の事。テーマは良く覚えていないけれど、日本ワインブームとワイン産地みたいなテーマだったと思います。

今だったら話し方や、表現の仕方をもっと工夫できたと思うのですが、当時の自分は若さや勢いだけでやっていたので、日本ワインブームについて思っている事や感じていたことをオブラートに包まず歯に衣着せぬ感じで話してしまった為に、発表後は批判的な印象を受けた関係者の方も多くいらっしゃったと思います。

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何となく孤立している様なそんな状況の中、唯一話しかけてくれたのが宗一さんでした。『楠瀬さんの言う通りだ』と。後にも先にも名前で呼んで頂いたのはこの時だけですが、あの一言にどれだけ救われたか。

目の前で起きている事だけでは無く大きな視点そして長い時間で物事を見ている。いつだって頭はキレキレ。

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農園でセミナーをやって頂いた時に、質問が少ないと後で滅茶苦茶怒られたり、アポなしで行ったら一言も口を聞いてもらえなかったりと色々ありましたが、とにかくこちらが怯んでしまう位に常に熱い方でした。迫力や豪快な感じのイメージのある方もいらっしゃるかもしれませんが、滅茶苦茶論理派。

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コロナ渦の中、原点に返ろうと感じていて、近いうちに宗一さんに連絡を取ろうと思っていたのですが。。まさかお会いできなくなるなんて思いもしなかった。

それでも宗一さんが残した素晴らしい葡萄樹達は後世に脈々と受け継がれます。そうして皆の心に残り続けるのでしょうね。

今頃大きな笑い声と大きな笑顔でワイン飲んでるんでしょうか。
心よりご冥福をお祈りいたします。

楠瀬肇

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