翻訳という仕事~村井理子コラム 10 ねなしぐさ はじめ 2023年2月25日 05:57 引用元URL:http://www.ohmynews.co.jp/OhmyColumn.aspx?news_id=000000002841村井理子2006-11-03 11:09 長い時間をかけて翻訳した1冊が、先日校了を迎えた。長かったなぁという感想とともに、一抹の寂しさがある。じっくりと取り組めただけに愛着もひとしお。あまり感情移入すべきではないと思いつつ、この本ともお別れだなぁと、ついつい思ってしまう。やっぱりちょっと寂しい。 著者の言葉がページの上で踊っているような、楽しく生き生きとした1冊だった。ユーモラスでおしゃれで、時折、著者のやさしさに触れてほろっときてしまう。読者の笑顔が本の向こうに透けて見えるようで、手に取った瞬間、この本を訳せるなんてめっちゃラッキー!と興奮した。一通り読んで私も思いっきり笑い、ほろりとはしたものの、さて、これをどうやって日本語に置きかえればよいのだろうかと最初は悩んだ。アメリカ文化が色濃く反映された内容は、読んでいて楽しいのだけれど、そのまま日本語にするのには無理がある。これは大変なことになったと思いつつ取り組んだが、作業を進めるうちにどんどん楽しくなって勢いがつき、最後まで一気に訳すことができた。 もうひと昔前のことになるが、大学卒業が間近に迫ったときだった。一人前に自分の勝手な解釈を織り交ぜた私の訳文を読んだ教授が、こう言った。 「勝手な解釈をして著者の言葉を捻じ曲げるぐらいなら、君が小説家になったらええやないか」 自信満々で提出した課題だっただけに、ショックだった。自分の言葉に酔った姿をとがめられたような気がして、とても恥ずかしかった。でも、この教授の厳しいひとことが私を目覚めさせ、それ以来、翻訳をするときは、この言葉を頭の中で繰り返し唱えるようにしている。 『勝手な解釈をして著者の言葉を捻じ曲げるぐらいなら、君が小説家になれ』 私は今まで、著者の言葉1つひとつを忠実に置きかえていくのが翻訳者の仕事だと信じ、実際、そうしてきた。当然、原書の雰囲気を最大限に残しつつ、自然な日本語に置き換えるのも重要だと思っていた。今もその気持ちに変わりはないけれど、この1冊を訳し終わって、改めて気づかされたことがある。それは、著者と読者の間に存在する、文化や社会背景の違いを拾い出し、角を取って滑らかにし、オリジナル・スパイスを少々加え、読者が飲み込みやすいように調理するのも大切な仕事のひとつなのだということ。 離乳食作りにちょっと似てるなぁ……。すりこぎを握り、ふたごのためにお粥をすりつぶしながら、ふと思った。丁寧に調理した食材を、喉に通りやすくなるように、もうひと手間かけて滑らかにする。だって、消化不良をおこしたら一大事。喉につかえたら、もっと困る。おいしいと笑ってもらえたら最高で、ぺっと吐き出されちゃったら、かなりブルー。翻訳者としても母としても新米の私は、調理するたび、次はもっとおいしいものを作らなくちゃと自分を叱咤激励するのだ。【画像省略】最終稿の束です。やっと終わった!撮影者:村井理子 とにもかくにも、約300ページにも及んだ翻訳作業が終わったあとの充実感は、なにものにも変えがたい。ここでビールをぐいっと飲めたら完璧なフィニッシュなのだけれど、ふたごが暴れているからそうもいかない。しょうがないから、コーヒーをちびりちびりとやりつつ、著者の言葉が少しでも多く、読者のみなさんの元へ届くことを願っている私なのだ。__________________________________________________________________________________________________________________________________________________________村井理子(むらい・りこ):1970年生まれ。滋賀県在住の翻訳家。「ブッシズム」と呼ばれるジョージ・ブッシュ米大統領の迷言・暴言をつぶさに追い続け、ウォッチャー歴は7年に。趣味は読書とインターネットと料理。2006年4月にふたごの男児を出産、現在、仕事と育児に奮闘中。著書に『ブッシュ妄言録 ブッシュとおかしな仲間たち』(二見書房)など。オフィシャルサイト= ジョージのブログ__________________________________________________________________________________________________________________________________________________________オーマイニュース(日本版)より※引用文中【画像省略】は筆者が附記この記事についたコメントは5件。5 だつきよ 11/05 21:31>yonemura(norma1)さん村井さんのファンの一人として念のため反論しておきます。村井さんのサイトではいつも訳文と原文を併記しています。そして、ネットで調べれば、大統領が原文のとおりに発言したかどうかはほとんど場合わかります。なので、「大統領の言葉を反米に都合のいいように適当に繋ぎ合わせたもの」だったのかどうかは、ご自分で調べてみればすぐにわかるのではないでしょうか?4 金本 11/05 00:48オフィシャルサイトにある、ブッシュ大統領の”ザ・グーグル”はどこがおかしいのですか?私バカなので理由を教えてくださいませ。村井さんはブッシュ妄言録を書いてらっしゃるし、文脈からして大統領を馬鹿にしているのはわかるんですが。。3 bari 11/05 00:21最終稿の写真を見て驚きました。凄いですね!!新しいストーブに火入れはなさったんですか?暖かいですか?ジョージのブログとともに、このコラムも楽しく読んでいます。育児、お仕事とお疲れにならないように!2 yonemura 11/04 23:08要は「ブッシュ妄語録」もそうやって、大統領の言葉を反米に都合のいいように適当に繋ぎ合わせたものだったということですね。戦時中に作られた記録映画を加工して作った戦意高揚映画と同じ方法論ですね。悪質なプロバガンダをありがとうございます。1 四季 11/03 23:37大仕事を終えられた後のハンナリした時間が想像できます、良いですね私は村井さんのコラムを読むのが楽しみです、“はんなり”大切にしたいですね。『ソリティア』や『上海』も好きそうですね。翻訳家さんって黙々と作業に打ち込む性格の人が多いのかしらね。この記者さんと読んでる本がかぶることも多いのがなんともw他人のことで涙を流せるうちはまだ人の心が残ってる証拠です。良いことだと思いますよ。 ダウンロード copy #OhmyNewsJapan 10