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耐震強度偽装事件報道に見るメディアの危うさ

引用元URL:http://www.ohmynews.co.jp/News.aspx?news_id=000000002915

ミスリードだった「篠塚たたき」に猛省を
S喜 K一
2006-11-07 11:47

【画像省略】
保釈後に記者会見する元木村建設東京支店長の篠塚明被告(東京・千代田区)=時事通信 

 耐震強度偽装事件で、偽装物件を多数施工していた木村建設(熊本県八代市、破産)の元東京支店長・篠塚明被告に1日、東京地裁の判決が下った。建設業法違反(虚偽申告)により懲役1年、執行猶予3年の有罪判決である。ただ、あれだけ騒がれた耐震強度偽装に関しては、「因果関係は認められない」と退けられた。  

 「木村建設の篠塚明支店長から圧力を受けて心ならずも偽装をした」――。

 昨年12月に元1級建築士・姉歯秀次被告が国会で行ったこの虚偽証言により、すさまじいメディア、なかんずくテレビのワイドショーの狂騒が始まった。篠塚被告はその報道の最大の被害者の1人と言っていいだろう(彼自身が言うように、それで道義的責任が免れるわけではないにしても)。

 いったいなぜ、あの集団ヒステリーのような報道が行われたのか。

 あのような大それた偽装を姉歯個人でできるはずがない、との思い込みから、メディアは「姉歯は単なる『とかげの尻尾』に過ぎない」と仮定した。そして彼は「憐れな犠牲者」でもある、首謀者は別にいる、さらには組織的な犯罪である、との構図を断定的に描き、それに沿う情報を洪水のごとく流した。

 しかし現実はどうだったか。「妻が病気で生活が苦しく、仕事を失いたくないがために偽装を続けた」と証言した姉歯被告だが、実際には経済設計ができる有能な建築士という評価を落としたくないがために、安易な偽装に走った、ということである。実際は、外車を2台持ち、愛人には数十万円もするアクセサリーを買い与える、という生活であった。

 この事件が、メディアの仮定通り、篠塚被告らメーカーが「偽装」を指示したものだったなら、その先にある検査機関による建築確認をもすり抜けなければならない。もしそこまで含めての「共同謀議」だったというのなら、それは多くの人間が関与しなければ達成できない。住宅という高額な財産を無にし、人の命を危険にさらし、しかも自らも壊滅的損失を被(こうむ)るリスクを伴う。そんな異常で愚かな行為を、それだけ多くの人間が共謀し実行することはまずあり得ない。冷静に考えれば分かることだ。メディアは、少なくとも姉歯被告の証言、そして姉歯被告自身を掘り下げて取材し報道すべきであった。

 いや、おそらく姉歯被告自身にまつわる取材は当然行っていたのであろう。だが、そこに恣(し)意的なバイアスが働き、スクリーニングにかけてしまったのではないのか。

 そのバイアスとはおそらくこうだ。耐震強度偽装事件の被害があまりにも巨額で、計り知れない社会的影響をもたらした。この結果を建築士個人の仕業に収めてしまうには、バランスが悪すぎる。個人や弱者を責めるのは報道の本意ではない。責めるべきは大きな相手、巨悪でなければ、報道機関としての見てくれも悪い……。そんな報道関係者特有の心理が働いたためであろう。
 
 こうした報道姿勢を一概に否定するつもりはない。ときには必要な場合もあるし、社会正義のために有効な場合もあろう。だが、それはあくまでもニュース源が正しい場合に限ってである。今回の場合、国会での姉歯証言がそれだ。

 耐震偽装事件報道は、完全なメディアのミスリードである。しかし今もって、このときの事件報道に対するメディアの反省はまったく聞こえてこない。総括もない。冷静さを忘れた報道の姿勢は将来日本を誤らせる可能性もあり、総括が必要ではないか。

 メディアがスクラムを組んでいるときは、視聴者は注意し、冷静に、正確に、俯瞰(ふかん)的に事実を見る姿勢が求められる。

オーマイニュース(日本版)より

※引用文中【画像省略】は筆者が附記


この記事についたコメントは12件。

12 ロバ 11/11 15:52
この記事の、過熱報道の被害については多くの読者が共有する気持ちであろう。

しかし、「多くの人間が共謀し実行することはまずあり得ない。冷静に考えればること。姉歯氏の国会での偽証をもって、メディアが「恣意的なバイアス」によって、より巨悪である共謀があったという方向へもていってしまった。問題はメディアの恣意的なバイアスである。」とすることは基本的認識に多いに問題がある。単に巨悪でなく個人の悪だったではないのである。

まず、結果的にいわゆる「共謀」はなかったが、多くの要因があったことを見逃している。ひとつだけ例をあげれば民間確認審査機関であるイーホームズは指定取り消しになり、会社は事実上解散した。法改正も議論されている。審査ミスを問われているのだ。
また「異常で愚かな行為であるから共謀はありえない」とは本当だろうか。談合事件、ライブドア事件等の粉飾事件、裏金作り、等々多くの人間が共謀した例は幾らでもある。そしてではなぜ個人であれば有り得るというのだろうか。

さらに、姉歯氏の動機を、「・・偽証であり、実際は贅沢のために偽装を行った。」としている。しかし証言のウソは、自ら始めたことを隠しただけでである。ましてコストダウンのできる優秀な建築士という評価を得て儲けたという事実はない。最後まで木村建設の庇護の下にいただけである。
偽装で金は得られないのです。これでなぜ贅沢のためが動機となるのであろうか?
記者は自ら報道にミスリードされているということになる。

問題を多面的に捉えなければ単に報道姿勢を問うだけのメディア叩きに終わる。

11 行雲 11/10 23:12
>>10ロバさんへ
 べき論でも期待でもなく、逆です。メディアは基本的に恣意的なバイアスはかけるべきでない、というのが私の立場で、それは記事を見ていただければわかります。
 
 あなたの背景論は、やはり結果として姉歯被告を擁護していることになるでしょう。そういう立場は私は取りません。この事件に限らないことですが、そうした考えは、犯罪者の罪の意識を薄め、また新たな犯罪を誘発する要因ともなります。

 背景論は背景論で、別の次元で論じるべきです。

10 ロバ 11/10 12:19
S喜記者へ
メディアの姿勢を問うという趣旨に賛同してのコメントですのでお許しください。

メディアは巨悪の方にバイアスをかけるとはべき論ですか、期待ですか。私は個人は期待しますが、メディア企業には期待しません。巨悪といえば、確認審査機関と国交省を叩いていればこんなにピントはずれなかったでしょう。

私も資本主義社会で生きています。ローコスト追及があたりまえなのは認識しています。しかし実態がどうであるか、取材されたことがおありでしょうか。「街で夜中に電灯が煌々とともっているビルは新聞社か設計事務所だ。」という有名な話があるそうです。極端な長時間労働、低報酬(一部大規模事務所等を除き)の世界です。格差社会化が話題ですが最悪に近い例ともいえそうです。さらに徹夜でも間に合わず、とりあえずの計算書を審査に出すほどの短時間設計とのこと。しかも姉歯事務所は建設会社の子会社の協力事務所であり、独立性が確保されていません。事件は背景と動機を解明してこそ再発防止策も見えて来るのではないでしょうか。

私は姉歯氏が一線を越えても仕方がないとは一言も書いていません。(アナロジーは議論を捻じ曲がる恐れがありますから言及しません。)検察は裁判で「ぜいたくのため」と追及しました。しかし篠塚氏の指示はなく、姉歯氏は一人で始めたと認めていますから「金が動機」は怪しくなります。姉歯氏は偽装しなくても仕事を失わないし、勝手に偽装しても余計に儲けることは出来ません。むしろ追いまくられる仕事をこなす方を優先して始めたと言えませんか。篠塚氏は姉歯氏を引き、かわいがり、永年仲間と思ってきたとも言っています。「道義的責任を感じる。」と発言したのは、姉歯氏を追い込む要因をつくったかもしれなという思いからではないでしょうか。

繰り返しますが設計者と施工者の分離の重要性を強調したいと思います。

9 行雲 11/09 23:10
>>8ロバさんへ
 まず、「ミスリード」という言葉も、私の送稿原稿には使っておりません。「メディアは過った」という表現はしました。「偽装」を指示したという事実はなかったと裁判所も認めたのだから、やっぱりメディアの過ちでしょう。これを編集部のように「ミスリード」と表現しても大差はないでしょけれど。

 「メディアは疑いがあったから追いかけた」というのはその通りだし、それ自体何の問題もありません。問題は誤りに気づいたら修正すべきだし、それが大きな誤りであるなら、反省もすべきであるのに、それをせずに最後まで突っ走ってしまいました。そしていつの間にか、また別の新たな話題に飛びついている、その安直さを批判したかったのです。

 「バイアス」という言葉はある一定の方向に力を加えるという意味で使いましたが、メディアとしては当然大きなもの、巨悪の方にバイアスをかけるでしょう。その結果として、巨悪ではないにしても、姉歯個人よりは大きい木村建設などを槍玉にあげたということでしよう。
 
 そしてここがあなたとは決定的に違う大事な点です。あなたは「マンション業界ではローコスト追求があたりまえ」で「構造設計者が、そういった過酷な状況に置かれている」から、しかも「後で修正するつもりでいたが、通ってしまった」こともあって、姉歯をして「一線を越え」させてしまったと言います。
 でもローコスト追求はマンション業界に限らず、どこの業界にもあることでしょう。だからといって、またばれなかったからといって、超えてはならない一線を越えていいわけがありません。極端な話、最初の殺人がばれなかったから、殺人を続けていいわけないでしょう。そもそもばれるばれないに拘わらず、殺人自体やってはいけないことです。比喩は極端かも知れませんが、姉歯のやったことはそれに近いことですよ。

8 ロバ 11/09 17:05
メディアはミスリードしたのでしょか?メディアは疑いがあったから追いかけたと言うでしょう。
では何が問題なのでしょうか。
事の始まりは姉歯氏の国会証言ではなく、発覚時の姉歯氏のインタビューです。
「個人ではなく、巨悪というバイアスがかかった。」のではなくメディアが事件の核心に迫れなかったということです。総研、木村建設、ヒューザーは巨悪ですか?
核心とはこういうことだと思います。
確認検査制度、建築士の資格制度、過度なローコスト追求等取り上げられはしましたが、重要なのは姉歯氏が偽装した背景(マンション等の業界、設計環境、設計の実務等)です。まともに調査、報道されたものを、私は知りません。
(集団での犯行でないのは経済合理性がないからです。偽装で得られる利益は1%に遥かに満たないと思われます。コストダウンは方法が幾らでもあります。)
そして姉歯氏は金のためだけに偽装したのではないでしょう。2000万円というのは年間売上です。外注費、経費等が相当かかります。純利益はおそらく半分以下でしょう。車だけにつぎ込む人は幾らでもいます。
マンション業界ではローコスト追求があたりまえです。当然設計期間も短い。早く着工でき、金利負担が減ります。
姉歯氏は主として建設会社の子会社の設計事務所からの依頼で、またそのつながりで仕事をしています。適正な独立性を保てないのです。姉歯氏は裁判で「最初は時間がなく、後で修正するつもりでいたが、通ってしまったので続けてしまった。」と言っています。一線を越えた瞬間です。
これは、構造設計者が、そういった過酷な状況に置かれているということなのです。適正な設計業務の遂行には、設計者の独立性が最も重要なのです。

6 Ronnie 11/08 00:00
S喜記者の良識ある発言に敬意を表します。
この国のマスコミは中世の魔女狩りと同じ構図です。

私が知ってる事実でも、完全なでっち上げ報道がありましたが、反省のハの字もありません。
ひと言で言えば嘘つきです!
確かに、憲法には嘘の報道を規制してはいませんが・・・。

5 行雲 11/07 22:09
>>3
「完全なメディアのミスリード」という表現は、私の原稿には使っておりません。メディアの「過ち」とか「過り」という表現はしましたが、「完全」という言葉は編集部において加筆されたものであります。念のために。

4 楽園 11/07 16:32
耐震強度偽装事件の登場人物に、やけに「創価学会信者」が多いんですよね。

北側元国交省大臣が、これ又やけにスピーディーに、国家による問題物件購入者に対する保障を決めましたね。

匂いますね~、プンプンしますね~!

3 スナギモ 11/07 15:18
>耐震偽装事件報道は、完全なメディアのミスリードである。

どの段階で言い切っていいかはわからないけど、記者はなんで「完全」って言い切れるのでしょうか?

新たな関与などがみつかったら謝ればいい、みたいに考えてるなら記者が非難しているメディアとやっていることは同じなんですがね。

2 亜為哭士 11/07 13:16
建築談合叩き、公務員叩き、教員叩きに加え、犯罪者には人権が無いかのような
壮絶なメディアリンチが続いてますね。
この篠塚さんには私も一時期相当に性格の悪いやつだという印象がありました。
が、今ではそうではありません。
最近では腎臓移植の万波医師に対してリンチの矛先が向かっている気がします。
世間のイライラを解消させるような悪人を探して今日もメディアが奮闘し、
仕事やろうにもどんどんやる気と冒険心を萎縮させるような報道が続いている。

私の知り合いの新聞記者やTVディレクターは組織の歯車になりきって、
仕事が忙しいからmixiで外部との交流を図り友達作るという馬鹿さ加減。
メディア内部の人間の目線と思考の狭さ、付き合いの狭さはひどくないですか?
私はメディアの人間です、何かあれば私が取材して差し上げますよ
という少し上から目線の付き合いは広いようですがw
あくまでも今の私のメディアの知人を見た範囲での私見ですが。

1 水草 11/07 12:44
OMNにはこのようなニュースが欲しいと思っていました。

これまで古くは『水俣病報道』最近では『松本サリン事件』等、いかに間違った報道で真の被害者をメディアは苦しめてきたか。

様々な情報が個々人で容易に得られ、また発信出来る時代にメディアは監視する側ではなく、監視される側に立ったことを思い知るべきです。


朝日と毎日だけ抜き出してみますかね。

朝日新聞(合計)
2022年上半期平均:4,298,513部/月
2022年下半期平均:3,974,942部/月
2023年1月度:3,795,158部

毎日新聞(合計)
2022年上半期平均:1,933,714部/月
2022年下半期平均:1,859,147部/月
2023年1月度:1,818,225部

ストレートニュースだけを淡々と報じる通信社があればそれで足りるような気もします。そうすると記者の行き場がなくなるか。

コメント欄:「過った(誤った)」と「ミスリード」は違うと思います。文意を変えちゃいかんでしょw