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「ネット事件」と「有害サイト」(3)

引用元URL:http://www.ohmynews.co.jp/MediaCriticism.aspx?news_id=000000003279

情報をどう読むか~メディア・リテラシー13
渋井哲也
2006-11-20 14:47

 ネットの「有害情報」(有害サイト)規制は徐々に具体化されつつある。東京都は2005年10月、「青少年健全育成条例」を改正、施行した。インターネット事業者は青少年に対しフィルタリングサービスを勧奨すること、同サービスの設定を標準化することなどが「努力義務」になっている。

 また、警察庁は、インターネットにおける違法な情報や有害なものを判断し、相談をうけつける「ホットライン」業務を外部委託した。そして「インターネット・ホットラインセンター」がその窓口を担っている。

【画像省略】
ウェブサイトをブラウズする少年(中国の小学校で、写真はイメージ、ロイター)

 同センターが「有害」と判断すると、警察に通報し、プロバイダに削除を要請し、フィルタリング事業者に情報提供をする。こうして、「有害サイト」は一定のフィルタリングを受ける。ただ、「有害サイト」は日々増え続けるため、いたちごっこだ。

 「有害サイト」が犯罪そのものや、犯罪的な思考・行動にどの程度影響をもたらすのか、また年齢とどれぐらい関連があるのか。こういった問題は検証されていない。検証なき排除は、表現の自由や通信の秘密に関わる重要な問題としてとらえるべきだろう。

 たとえば、山口県の光高校爆破事件(06年5月)では、加害少年が「爆弾の作り方」のサイトを閲覧していた、との指摘がある。しかし、そうしたサイトにアクセスした人のどれくらいが爆弾を作ろうと思うのか。サイトがなかったら作らなかったのか。爆弾をつくらなかったら犯罪を起さなかったのか……。こうした点も検証する必要がある。

 「自殺を誘発する自殺系サイト」を規制した韓国では、自殺予防サイトで出会ったユーザー同士がネット心中をしたケースがある。日本でもネット心中防止に向け、プロバイダが掲示板を削除したり、心中相手を募集した場合、警察の求めに応じて個人情報を開示したり、といった対策がとられるようになった。しかし、出会い系サイトやブログでの呼びかけは続き、「死にたい」と掲示板やブログに書いただけで心中を誘うメールが届く始末だ。

 警察庁は06年4月、「バーチャル社会のもたらす弊害から子どもを守る研究会」を設置した。「子どもを性の対象とする情報が影響して子ども対象の暴力的性犯罪が誘発された事例」があり、「インターネット上では、子どもが簡単にアクセスできる状態で性や暴力に関する情報が氾濫」し、「インターネットや携帯電話の使用や、ゲーム等へののめり込みが、少年の精神的な成長にマイナスの影響を与える可能性が指摘されている」からだ。

 研究会では、有害サイトに加え、インターネットやゲームへの依存の問題、さらに従来、規制対象ではなかった「子どもを性の対象とするアニメ」も検討項目に盛り込まれた。9月の中間報告では、とくに携帯電話について問題提起された。出会い系サイトに関連した事件で、携帯電話によるアクセスが多かったからだ。

 そして以下のような提言を行った。

(1)子どもに携帯電話を持たせるかどうか。持たせる場合、どのような機能のものにするか。保護者、学校での議論を喚起し、社会的なコンセンサスづくりを早急に進めるべき。

(2)携帯電話の危険性や、安全な携帯電話を持たせることの必要性について、子どもと保護者間の理解が深まるような取り組みを進めるべき。

(3)子どもに携帯電話を提供するとき、違法・有害情報に触れないタイプのものを提供するよう、携帯電話会社に対し対策強化を求めていくべき。

 これらの提言をみる限り、警察庁は有害サイトの遮断が「子どもを守る」ことにつながる、との認識があるようだ。しかし、これは短絡的である。たとえば、北海道の私立高校で起こったいじめ動画の流出問題。加害生徒が被害生徒をいじめているシーンを携帯電話で撮影し、ネット上に流したケースだが、これは「有害情報」か否かではなく、あくまで携帯電話の使い方の問題である。

 「有害情報」とは一体、誰にとって有害であり、誰がそれを判断するのか。先の「インターネット上の少年に有害なコンテンツ対策研究会」は有害情報の排除を示しつつ、

(1)一般に有害と考えられるものであっても、受信者の年齢などの属性、地域性によって捉え方は変わる。

(2)それ自体は有害ではなくても、使い方によって有害となる情報がある。

(3)中立的な立場からコンテンツを提供していても、受信者の属性、地域性によって有害となる情報がある。

 と指摘する。これらは本来、インターネット・リテラシー(メディア・リテラシー)の問題である。情報規制ではなく、リテラシー向上を目的とした青少年対策があってしかるべきだろう。

 子どもの権利条約第17条は、マスメディアへのアクセス権と同時に、「有害情報からの保護」をうたっている。

 この両立に必要なのは「有害サイト」の一律排除ではない。情報に接したときの判断の仕方、「見たくない情報」への対策、ネット上でフレーミング(言い争い)やいじめが起きた時の対処法――を習得することこそ重要である。(この項、おわり)


NPO法人・ユナイテッド・フューチャー・プレス

【しぶい・てつや】 1969年栃木県生まれ。93年東洋大学法学部卒。「長野日報」社を経て、98年フリーに。2001年東洋大学大学院文学研究科教育学専攻博士前期課程修了。著書に『「田中康夫」研究』(ワニブックス)、『ネット心中』(NHK出版)など、新著は『ウェブ恋愛』(ちくま新書)。


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オーマイニュース(日本版)より

※引用文中【画像省略】は筆者が附記


この記事についたコメントは5件。

5 tc 11/26 20:25
>4 飛☆浪漫さん
そうですね。広くはネット以外の媒体全般についての情報リテラシーも広い課題と私も思います。規制よりも、媒体の性質についてはもっと明示的に国民が認識できるような表記制度があると、いろいろな意味で媒体についての意識が高まるかもしれませんね。成人誌もそうですが、それでも子供はそれをひろって見る機会もあるし、その場合でも媒体に対する成長に沿ったリテラシーを議論しやすくなるとも。情報そのものの扱いや影響について、これまであたらず触らずだった媒体についても、ネットの普及によって今再び影響が検討されてもよいかもしれませんね。

4 飛☆浪漫 11/24 02:50
ネットの有害サイトは よく取り沙汰されますが、前々から疑問に感じていたのですが
健全なスポーツ記事専門の新聞の中に蠢く 醜聞 性風俗 賭博 エロ小説 ヌード写真集や成人映画の広告は、
なぜ 誰も問題にしないのでしょうね。
スポーツ紙の内容って 確実に18禁指定されて当然だと思うのですが。
小学生が あこがれの選手の記事に惹かれて 父親のスポーツ紙を手に取る時は
ネットで有害サイト見るより確立は遥かに高いと思うのですが。

3 tc 11/23 12:04
>情報規制ではなく、リテラシー向上を目的とした青少年対策
 先の(2)でのコメントレスありがとうございました。そうですね、子供の親や教師や教える側自身のリテラシーも日が浅いなかで、青少年のネット・リテラシー向上を促すには、青少年の主体的な取り組みを促す必要がありますね。年齢により程度は異なっても青少年でも自己責任を持つべき利用者で、成長するにしたがって責任の重みを自分のものにしていかなければならないですね。。。
 さまざまな情報やバーチャル(といってもリアルな)社会的な刺激への接点が飛躍的に増えた中で、それを丸呑みしないメディア耐性みたいなものが、子供のときから主体的に築き上げられる必要がある。。。子供の自己形成という観点からもあたらしい課題かと。低年齢児童への保護は必要として、どうやってこのようなあたらしい社会環境の中で自己形成すべきか。ある意味で大人と子供の境界が見えない世界で、大人も含めて、参加者が子供であるという可能性を常に意識して行動しなければならないかも・・・それが双方のリテラシーといつまでも続く自己形成に役立つかもしれないとも思います。

2 しぶてつ 11/21 02:16
>物言う一市民さん

 公共施設というのは、図書館でしょうか?
 図書館の場合、図書館資料を利用者が閲覧する権利があります。しかし、図書館でのインターネット利用については各自治体等でバラバラです。というのも、インターネットを「図書館資料」と位置づけてないからです。メールの送受信もできない図書館もあります。最近は、ビジネス支援を打ち出して、図書館での自由な利用をするところもありますけど、全国的には利用は制限的ですね。

1 物言う一市民 11/20 16:40
ほとんど公共施設のお世話になるしかない、私のような市民記者にとって、ここにアクセス出来るか出来ないかで、市民記者の権利を行使出来るか出来ないかは断然違ってきます。幸い、周南市内では市民記者としての権利はギリギリ行使出来ますが、市職員と同じネットワークを使っている関係上、それ以外のサイトの一部は自己判断以前に有害と判断されてしまっています。これでは権利も責任もあったもんじゃありません。
ネットでのネタ(コンテンツ)の有害性についての判断は、ネットを実際に使う人が判断すべきであり、誰かが一方的に判断するべきではありません。実際に使う人だけの思想を、一方的に規制するほうがよっぽど問題です。


この記事は良いですね。うん、すごく良い記事です。まぁ当時はオピニオン会員が排除された状態で何も評価できない状態でしたがw ブログのほうでちょっとだけ触れた記憶がありますがなんて書いたっけ。※サービス自体が終了してしまったので閲覧不能です。

この記事のまとめ部分

これらは本来、インターネット・リテラシー(メディア・リテラシー)の問題である。情報規制ではなく、リテラシー向上を目的とした青少年対策があってしかるべきだろう。

 子どもの権利条約第17条は、マスメディアへのアクセス権と同時に、「有害情報からの保護」をうたっている。

 この両立に必要なのは「有害サイト」の一律排除ではない。情報に接したときの判断の仕方、「見たくない情報」への対策、ネット上でフレーミング(言い争い)やいじめが起きた時の対処法――を習得することこそ重要である。

はその通りだと同意します。ビニ本の中身を見られないよう紐で縛っても、性への好奇心旺盛な男子中学生は山に捨てられたカピカピのビニ本を見つけてしまうものですし。必要な知識と対処の方法はきちんと教えるほうが有意義だと思います。ビニ本という表現が昭和というのは認めます。

子供に買い与えるスマホにペアレンタルコントロールを施すとともに、ネットには悪い大人がいて手ぐすね引いて無知な被害者を待ち構えていることもきちんと教えておくべきでしょう。


ここから無関係な雑談。「お金がない」と書くと「お金あげます」とか「よいお仕事あります」と甘い言葉を囁いてくるアカが実在するのよね。具体的なアカウントを知っててずっと観察を続けているのですが、100回中100回無視されてもめげずにアウトリーチ的なアプローチを続ける努力には、逆に感心してしまいます。その労力でコンビニバイトなり何なりのまともなお仕事しろよとは思いますがw