どこか遠くへ連れてって～村井理子コラム
引用元URL：http://www.ohmynews.co.jp/OhmyColumn.aspx?news_id=000000003164
村井理子
2006-11-17 07:53
先日、スリング（抱っこひも）で抱いていた長男をあやしていたときのこと。腰にただならぬ違和感を覚え、そこから一歩も動けなくなった。長男を慎重に夫に手渡し、恐る恐る腰を動かしてみた。
グキッッ
いやな音だった。ギックリ３秒前の危機的状況だった。最近、ふたごの体重が急激に増え（各１０キロ）、１日の大半、どちらかを抱いている、あるいは背負っている私の腰に、大きな負担がかかるようになったのだ。なぜ急激に体重が増えたのか。理由は単純、彼らは最近、一人前に“食べている”のだ。
【画像省略】
離乳食。黄色いのがかぼちゃのピュレ、奥がりんごヨーグルト、右が白身魚のお粥
撮影者：村井理子
「ついにフェーズ２・離乳期に突入だ」なんて、喜んでいる場合ではなかった。午前１１時と午後６時の１日２回、２人分調理してみて初めてわかった。こりゃ、相当キツイ。調理だって、単純にやればよいというものではない。『最新 離乳食大全科』（主婦の友社）という本を片手に、エネルギー源（主食）はこれ、ビタミン・ミネラル源（野菜+果物）はこれ、たんぱく質源はこれ……と、慎重に考えなければいけないのだ。
今までミルクを飲んで寝るだけだった彼らも、早いもので７カ月になった。日々人間らしく、男の子らしく成長してきている。そんな彼らの成長を目にすると、ミルクだけではなく、様々な食物から栄養素を摂取する必要が出てきたことが容易に理解できる。それに、食べる楽しさや食文化を経験することで、彼らはこれから、人間的にも成長していかなければならないのだ。私が作る食べ物すべてが、彼らの体を、そして心を作っていく。だから、やっぱり手抜きはできない。ひとつひとつを丁寧に作ることによって、言葉が理解できない彼らにも、私の気持ちは伝わるはず。一応、こう悟っているつもりなのだが……
とにかく毎日が戦争！寛容にならなければいけないとわかりつつ、「いいかげんにしてよ！」と、怒ってばかりの日々。食べることの楽しさを知ってしまったふたごは、我先にとスプーンの争奪戦をするようになった。兄の口にスプーンを運ぶと、それを見た弟が、私の手をつかみにやってくる。弟に気を取られていると、兄がイナバウアーで椅子から落ちそうになっている。離乳食の途中なのにミルクをよこせと泣き出す弟。私の髪の毛をつかんで離さない兄。口の周りをベタベタにしながら、両腕を振り回して暴れるふたごを前に、私は呆然とするしかない。
先日、やっとのことで午前の離乳食タイムを終えた我が家のリビングの床には、ベタベタのおかゆや投げ飛ばされた哺乳瓶、その哺乳瓶から流れ出したミルクや野菜のピュレに混ざって、引っ張られて抜けた私の髪の毛の束が落ちていた。ふたごはというと、うつ伏せになって寝転がりながらゲタゲタと笑いあい、そのうち眠ってしまった。床に散らばった食べ物を片付け、ベタベタになったふたごの洋服を洗濯機に入れ、やっと自分が極限まで空腹だったことに気づいた。でも、疲れきった私には昼食を料理する気力など、どこにも残っていなかった。ぐったりしながら食パンをトースターに入れた。
…今日もトーストか。そろそろ肉が食べたい。こんな毎日でだいじょうぶか！？
あ゛ぁぁぁぁぁぁ～！！私をどこか遠くへ連れてって～！！！
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村井理子（むらい・りこ）：
1970年生まれ。滋賀県在住の翻訳家。「ブッシズム」と呼ばれるジョージ・ブッシュ米大統領の迷言・暴言をつぶさに追い続け、ウォッチャー歴は７年に。趣味は読書とインターネットと料理。2006年4月にふたごの男児を出産、現在、仕事と育児に奮闘中。著書に『ブッシュ妄言録 ブッシュとおかしな仲間たち』（二見書房）、訳書に『大事にされない女たち』（イースト・プレス）など。
オフィシャルサイト＝ ジョージのブログ
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※引用文中【画像省略】は筆者が附記
この記事についたコメントは１件。
1 うしき＠篠ノ井 11/24 23:14
離乳食…お味噌汁（じゃがいも・人参・ちりめんじゃこ・とろろこぶ・豆腐・たまご・なす・ねぎ・みずなetc）の取り分けとおかゆとカレイの煮付けからの取り分けだけの日々に、私はあっという間になってしまいました。２４時間お世話する日々で愛情は伝わってますから食事くらい手抜きしても大丈夫！なんて思っていました反省です。
そう、子供はものすごい早さで大きくなりますｗ （削除）
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この記事が掲載されたのが17年前。今頃はふてぶてしい高校生になっておられる頃でしょうか？
売れる文章を書ける人はすごいなと思う日々。こういう文章を読んで励まされる人もいますので適当にがんばって連載も続けていただけるとうれしいです。