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精神障害者の実像(5)

引用元URL:http://www.ohmynews.co.jp/News.aspx?news_id=000000003288

アメリカの場合、日本の場合
豊田 德治郎
2006-12-27 08:22

【画像省略】
ジョージ・ウォーカー・ブッシュ、アメリカ合衆国第43代大統領(ロイター)

 米国の人口が3億人を超えたと報じられています。その数を考えると、精神障害者の実数も、少なくとも日本より多いということは推測できることだと考えられます。これを受けてか、米国はかなり前から精神障害分野が大きな政治課題であることを認識し、大統領自らがリーダーシップを発揮して、メンタルヘルス分野に思いきった社会資源の投入を継続し、今日に至っています。

 ブッシュ大統領は2002年4月29日付で、「アメリカはすべての精神疾患を有する米国人を理解し、優れたケアを提供すると約束する必要がある」との声明を発表し、全米の有識者23名による「メンタルヘルス委員会」(座長:ホーガン博士・オハイオ州メンタルヘルス部ディレクター)を発足させ、そこに「成人の精神疾患者も情緒障害の児童も、地域社会において生活し、働き、学び、そして地域社会に溶け込めるようにするためのメンタルヘルスサービスの提供システムを調査・研究し、具体策を提言する」よう命じました。

 これを受けて同委員会は、2003年7月22日付で大統領宛に書簡で回答しています。そのカバーレターには「今回の調査・研究を通じて委員会は精神疾患が今や現実に回復の可能性のある疾患であることを認識した」と記されています。「ただし……」ということで、いろいろな問題点の指摘が続いています。

 回答書簡の中で「米国がメンタルヘルス関連で投入した費用は1997年の単年度で約710億ドル(約8兆6000億円)であり、そのうちの57%(約4兆9000億円)が公費である」と記されています。併せて「精神疾患に関る間接的経済損失は年間790億ドル(約9兆4000億円)と推定、そのうち630億ドル(約7兆6000億円)は疾病の結果失われた生産力を評価した額である。その他は夭逝(ようせい)による生産力の損失120億ドル(約1兆5000億円)や施設に収容されている人たちの生産力の損失や介護家族の人件費など40億ドル(約5000億円)」との記述もあります。

 いかにも米国らしい分析ではありますが、適切な予防措置や施策を講じれば出費の大幅な削減が可能なことを示唆しています。詳しくは回答書簡についての公式サイト(英語)をご参照ください。

 日本政府も池田小事件を契機に2002年12月19日付で坂口力厚労相(当時)を本部長とする「精神保健福祉対策本部」を設置し、日本の有識者による協議・検討の結果、2004年9月に「精神保健医療福祉の改革ビジョン」(以下、ビジョン)を公表したことはすでに触れました。このビジョンは、今後の日本の精神保健福祉の進路を指し示すものとして関係者の間でも高く評価されています。

 さて、ビジョンが公表されて2年余が経過した現在、ビジョンに示された数値目標のうち、どれがどれだけ進歩しているのでしょうか。2006年度の予算にはほとんど反映されていません。また、2007年度の概算要求を見てもビジョンが具体化される気配は感じられません。

 日本の障害福祉予算は総額(身体・知的・精神の3障害合計)でも1兆円未満であり、そのうちのメンタルヘルス関係となると米国とはけた違いに微々たるものです。

 米国が常に正しく、米国の後追いをすればよいとは考えません。財政面での負担力の差もあるでしょう。多民族国家としてのやりにくさも容易に想像できます。日本は日本の文化、風土に合致した対応策を考案すればいいでしょう。

 しかし最低限、メンタルヘルス問題を重要な政治課題としてとらえ真正面から向き合う姿勢と、スピード感のある実行力だけは見習う必要があろうかと考えます。

 皆さんは意外に思われるでしょうが、日本の258万人の精神障害者の大部分は真面目で控えめな人たちです。各自が自己の置かれた立場を充分自認し、重たいスティグマ(偏見)に耐えながら健常者の邪魔にならないように遠慮がちに生活しています。民主主義のシステム下では声を出して初めて政治が動くシステムになっていますが、その肝心の声が出しにくい、いや、出したくても出せないでいるのです。程度の差はあっても、精神障害者の置かれた環境は欧米でも同様であろうと推察します。

 声なき声を察知し汲み上げることこそ、政治の責務だと考えます。筆者は政治のリーダーがただ単に帳尻合わせのためではなく、この問題と真正面から向き合い、国会などの場で議論を尽くしてくださることを切に希望するものです。適切な対策が講じられれば、必ずや生産性の向上にも直結し、ひいては障害者の減少や社会保障費の削減にも資するものと確信しています。

オーマイニュース(日本版)より

※引用文中【画像省略】は筆者が附記


この記事についたコメントは5件。

5 華那 01/12 23:02
『精神障害者の実像』をすべて読ませていただきました。
私が感じてきたことの約4割ぐらいを書いてくださっていて、とてもうれしいですね。
それだけ関心が増えることが前向きに思えますから。

残りの後6割は現在の精神障害者への医療体制です。
日本はお薬お薬お薬ですからね。
臨床心理士がいますが、国家資格ではありませんしね。
FP技能士が国家資格になる前の臨床心理士の国家資格化が先だと思われましたのにね。

この6割が改善されるだけで、うつ病等の先天性の疾患以外に関してはかなり変わるものだと思いますよ。
だって、諸外国ではありえないカクテル処方が認められてるぐらいですから。
これだって十分社会保険を圧迫してるんですからねぇ・・・・

4 ハラボジ 12/29 12:29
kenai0456さま   豊田@市民記者です。

画面右肩の検索欄で「タイトル」を選択し「精神障害者の実像」と打ち込んで検索すると一覧表が表示されます。

下記のURLでも同様の表示が出ます。

http://www.ohmynews.co.jp/Search.aspx?query=%E7%B2%BE%E7%A5%9E%E9%9A%9C%E5%AE%B3%E8%80%85%E3%81%AE%E5%AE%9F%E5%83%8F&idxname=omn_title&type=searchbox

2 ハラボジ 12/29 09:17
わだっちさま   豊田@市民記者です。

普及・啓発活動を通じての「国民意識の改革」と並行して「医療改革」も急務だと考えています。ご指摘のように優れた精神科医が極端に不足しています。
「発達障害」も統計上は「精神障害」の範疇です。とにかくこの分野は複雑で判り難いことがネックになっているようです。もっと国民誰でもが判るように整理してきちんと対処すれば障害者は半減し財政負担も減るでしょう。

1 わだっち 12/29 01:41
チック症状なのに、統合失調症で長期入院させていたケースもあるようです。本人、家族にとっても不幸です。財政的にも大きな負担です。必要でない入院による医療費は結構大きいんじゃないでしょうか。

精神障害者を取り巻く環境も問題が大きいですが、ADHD、自閉症、アスペルガーなどの発達障害の問題も大きいです。軽度の発達障害はごく一般的に職場などで働いており、さまざまな壁にぶち当たることが多いです。それが原因でうつ病に発展することも多いです。発達障害は判断できる医者が少なく、診察は一年待ちのところもあるようです。


「心療内科」というものもずいぶんと一般的になってきたと思います。こころの問題を相談できる医療機関として「精神科」はハードルが高いでしょうし、そういう人の受け皿として伸びてきたという一面もあるのかなと考えています。

こころの病気もがんや他の病気と同じで早期発見・早期治療が非常に有効であるという話をどこかで聞いた覚えがあります。ケガとか尿管結石とかと違って相談しにくい病気ではあるでしょうが、治療すれば治る病気ならば早めにお医者さんに相談したほうがよいのは間違いないでしょう。

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