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西任白鵠(にしと・あきこ)さんが語る歌への思い

引用元URL:http://www.ohmynews.co.jp/News.aspx?news_id=000000003275

【後編】「歌手への“憧れ”がなくなったとき、自分の歌が歌えた」
宮崎 敦子
2006-11-26 16:44

 デビューアルバム『If You Go Away』が発売された西任白鵠さんのインタビュー後編。アルバムに続き、12月13日には東京・銀座でのライブ「ギター・サミット」にヴォーカルとしてゲスト参加するなど、歌手としてますます羽ばたく西任さんの口から、歌手への憧れが「自分の歌」を遠ざけていた長い時間についてや、それを支えた「歌が好き」という強い思いが溢れ出る。DJとしてアーティストと接した貴重な経験や、声を通じてのコミュニケーションにも話が及んだ。

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 憧れっていうのは、自分とその対象物との間に距離を作るんですよね。だから、邪魔するの。何かになりたいと思ったときは、なりたいと思ってる時点で遠いんですよ。要するに自分じゃないところにある。自分じゃない何かになろうとしてるときって絶対どこかが歪んでるけれども、憧れが強いぶん、そこに気がつかなくて。だから、そうじゃないんだよ、自分はここなんだよ、っていうところを見るところから、それが何なのかに気づいて受け入れて、そしてアウトプットするっていう過程まで、それはそれは時間がかかりましたね。憧れが大きかったぶん。「歌いたい!」って思ってたぶん。

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西任白鵠さん
撮影者:宮崎敦子

 DJになったのは、学園祭で実行委員の友だちに声をかけられて出場したDJコンテストに出て入賞したのがきっかけ。オーディションを受けさせてもらうようになって、1年ぐらいは落ち続けましたが、大学3年のときFM802のオーディションに合格して本格的に仕事がスタートしました。そういう形だったので、歌とは違いDJは「なりたい」と思って始めたというより、力を引き出してもらう機会をいただいて、感じたこと、経験したことをしゃべって伝えていくっていう仕事が、わりと難なくできたんですよね。憧れがなかったぶん、オーディションでもものすごく素でしゃべったみたいなんです。その方が素材として変えようがあるんですよ。でもいったん憧れを手にしてしまって、遠いものを真似るスタイルを身につけてしまった人って、変えるのにすごい時間かかるんですよ。

 それが私はDJの分野では起こらなかったかわりに、歌では、もうそれはそれは大変な作業で、本当に「ここまでかかった」っていう感じがしますね。たとえば最初は女性のアルトボイスへの憧れがあったし、自分が好きだから、とファンクとかアフロビートとかソウルとかを歌おうとしていた時期もあったんです。私の声はそういう声じゃないんだっていうことをまず受け入れられないわけですよ、これがなかなかね。それを受け入れ、理解し、そして自分の声で何が歌えるかっていうところになってくるまで、何年かかったかしら? って感じですね。「歌が好きだ!」と強く思ったのは17歳だったので、そう考えると、いま32だから、15年ですよ! それだけの時間がかかってるってことですよね。だからそれまでの間には、DJはこんなにスムーズにお仕事行ってるのに、歌はなんでこんなにうまく歌えないんだろう、と思って。これは才能がないんだと思ったこともありました。

 だけどね、やっぱり好きこそものの上手なれっていうかね、歌が好きなんですね。理由はないんですけど。やめられないんです。好きだからやめないで続けているうちに、少しずつ、15年かかって、無駄なものが取れ、憧れとして遠いところにあったものが、自分のものになっていって。自分で分かってきていたんですね、自分の歌が変わってきたって。「憧れの遠い場所にあったものが、自分の歌になってきたな、やっと私、人前で歌っても、人様に申し訳なくないぐらいにはなってきたんじゃないかな」と思ったときに、今回「CD出しませんか」ってお話をもらって。だからね、やっぱりあきらめないでよかったなあと思いました。やっぱりね、好きってすごいなあと思って。才能にはいろいろあって、いわゆる音楽の才能のみならず、何かを毎日8時間ずうっとする、みたいに、ひとつのことを続けるっていうのも力だと思うんですよ。私にはそういう才能はないけれども、好きっていうのはね、そういう持ってない才能さえも作ってくれるっていうかね。何かを続けていく力をこんなにも与えてくれるんだっていうことは、改めて感じますね。時間がかかりましたが、これは好きだからこそ時間がかかったんだと思いますね。

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西任白鵠さん
撮影者:宮崎敦子

 最近思ったのは、歌手になりたいっていうのと、歌を歌いたいっていうのはまた違うっていうことですよね。で、私は歌手になりたかった。だから遠かった。「歌手」っていう何かになろうとしていた。でもそれが、「歌を歌おう」って思ったときに、歌が自分のところに来た感じがしますね。いわゆる、スポットライトを浴びて、拍手を浴びて、っていう、歌手の「立場」になりたいんじゃなくて、私って本当に歌を歌いたいんだなあ、と気がついたんです。

 DJとしてアーティストたちと接する時間がたくさんありましたが、以前はずっと嫉妬があったと思いますね。私がインタビューする相手はミュージシャンでしょう? 私は向こう側に行きたいのに、違うわけですよ。そうすると、なんで私にできないんだろうって思ってしまって。でもあるときから、たぶん歌が憧れじゃなくなったときからかな、「私は私で歌う」っていうのができてからは、そういうのがなくなりましたね。ずっと焦りがあったんでしょうね。自分にとって遠い憧れのものを手にしている人が近くにいるっていうのはやっぱりすごく悔しいわけですよ、正直言ってね。だけど、憧れじゃなくなったときから、そういうスタンスじゃなくなりますよね。

 これまで10年以上DJの仕事をしてきたので、いろんなことをミュージシャンの人に聞いてきたわけで、それはやっぱり糧になってますよね。例えば、レコーディングの前ってどうやってみんな臨むんだろうとか思うわけです。そうすると、広瀬香美さんは、ほとんど歌わないんですって。飽きるんですって。だから、ほぼ歌わずにスタジオに行って歌った最初のテイクが飽きてないからいいのよ、って言うんです。と思いきや、小野リサさんの場合は「すごくたくさん歌ってから行く」って言われて、あ、小野リサさんはそうなんだ、って思ったし。ほかには、例えばスピッツの草野マサムネさんが「ライブはいまでもものすごく緊張する、だけれど緊張してなければライブはうまくいかない」っておっしゃったこととかもすごく覚えてるし、矢野顕子さんにインタビューして「どういう曲をカバーするんですか」って聴いたときに、「うーん、聴いた瞬間に私の曲になっちゃうの」って言われた言葉とかもすごく印象的でした。数知れず、いろんな話をたくさんの方から聞いたから。エルビス・コステロさんにもインタビューしましたが、「ミュージシャンは破天荒なこともいろいろ経験したことが音楽の糧になるって昔は思ってた。だけどそれは違ったってことが、この年になって分かったよ」なんて言ってましたね。すごくやっぱり重みがあってね。あれはダイアナ・クラールと結婚直後だったかなあ。「ノース」っていうアルバムが出たときでしたけれど。ちょっと映画のサントラみたいな、ジャズっぽい、ダイアナ・クラールの影響もあったと思うんだけど、コステロの作品の中では、ファンにとってはちょっとがっかりした人も多かった作品だったんです。そのときに、「何か言いたいときには、大声で叫べば人が聞いてくれるのかっていうとそうじゃない。声のボリュームじゃないんだよ」っておっしゃってたのもよく覚えてますね。

 そういうのが、なにかをするときに具体的に思い出すわけじゃないですけれども、でも糧にはなってますね。ミュージシャンってなんだろうってずっと考えてきたし、音楽とのつきあい方は、自分もずっと考えてたわけですよ。なんで自分は歌やりたいんだ、歌ってなんだとか、音楽ってなんだとか、ずうっと考えてきたことなので、そういうときにいろんな人にインタビューしてきたことっていうのはすごく糧になりました。

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西任白鵠さん
撮影者:宮崎敦子

 いまDJや歌、インターネットでブログを書いたり、コラムを書いたりといろいろさせていただいていますが、表現の手段によってできることは違うと思うんですね。それぞれに特性があると思うんですよ。ラジオで表現できること、音楽でできること、文字で書いてできることがあり、声で表現できることもある。だから私がなぜこうやっていくつもやるのかっていうと、やっぱりできることが違うので、自分が伝えたい源が、ひとつの手段だけで外に出せないっていうのがあると思うんですね。手法が違うからできることが違うっていう。おおもとにあることは同じだし、やっている人も同じだし、だからそれぞれを楽しんでできたらいいんじゃないかなと思いますね。

 でもやっぱり声ってすごいと思うんですよ。携帯電話だったりパソコンだったり、いまメディアがどんどん発達していって、もちろんそこには利便性もあるけれども、その中でも人間の声は莫大なる情報量を含んでいる。人とコミュニケートするときに声っていうものを介することで、人の気持ちを思いやるとか、そういう力も育まれていくんじゃないかなあと思いますね。だから、どちらかっていうと文字メディアとか映像メディアっていうのが進化していっているけど、声は最も根源的で、失われることのない、人と人とを介するコミュニケーション手段じゃないかなと思います。


(おわり)

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西任白鵠さんプロフィール=大阪生まれ、福岡育ち。大学在学中からDJとして活躍。主な担当番組に、FMヨコハマ「「tre-sen(とれせん)」、i-Radio「TOWER RECORDS COUNT DOWN」、Gaba「G-Style English」など。
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【関連サイト】
・My Favorite Things 西任白鵠~にしとあきこ~blog

【関連記事】
西任白鵠(にしと・あきこ)さんが語る歌への思い【前編】
【音楽】『IfYouGoAway』西任白鵠

オーマイニュース(日本版)より

※引用文中【画像省略】は筆者が附記

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【前編】は記事番号3380なのでまだ先になります。

この記事を最初に読んだ時、寡聞にして知らなかったのですが、関東圏のラジオパーソナリティとして知られた方だったようですね。現在もDJやスピーチの講師としてご活躍中のようです。

記事中で西任白鵠氏もおっしゃっておられますが『継続は力なり』というのは本当なのかもしれませんね。

やっぱりね、好きってすごいなあと思って。才能にはいろいろあって、いわゆる音楽の才能のみならず、何かを毎日8時間ずうっとする、みたいに、ひとつのことを続けるっていうのも力だと思うんですよ。私にはそういう才能はないけれども、好きっていうのはね、そういう持ってない才能さえも作ってくれるっていうかね。何かを続けていく力をこんなにも与えてくれるんだっていうことは、改めて感じますね。時間がかかりましたが、これは好きだからこそ時間がかかったんだと思いますね。

歌にしろスポーツにしろコツコツ続けていれば前より少しだけ上手になるものです。プロとして食べていけるレベルになるにはそれだけでは足りないでしょうが、お習字やそろばんで3級に合格したとかそういう目に見える成果があると続けるモチベーションも保ちやすいだろうと思います。

子供の頃にそういう何かを続けたいと思えるような好きなことに出会えるよう機会を与える場が学校なんじゃないかと、ふと思ったりしました。まぁ、わたし自身は小休憩の時にすぐ運動場でドッジボールをするような勉強があまり好きではない子供でしたがw