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今、羽ばたく映画俳優

引用元URL:http://www.ohmynews.co.jp/News.aspx?news_id=000000003217

映画『ゆれる』のオダギリジョー
W林 J平
2006-11-22 08:06

【画像省略】
主演した映画『蟲師』がベネチア映画祭コンペティション部門に出品され、大友克洋監督らと並ぶオダギリジョー(右)(ロイター)

 映画『ゆれる』は、今年最大の期待作だった。その理由はふたつある。オダギリジョーが人間の内面に向き合っている作品であることと、そのオダギリジョーの共演者が香川照之であることだ。

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 オダギリジョーがまるで水を得た魚のように輝く光景を見たのは映画『スクラップ・ヘブン』。都会の喧騒の中で、世の中の流れとそぐわない青年が犯罪と世の中に対する反逆心を重ねていくという複雑な役を演じている。この映画は、今の日本映画ではあまり見られなくなった“窮屈な日本”が描かれている。オダギリジョーは、一点の曇りもない表情で言葉を連ね、体を躍動させて「日本なんて下らない」と謳いあげる。ブルーと無機質感がある映画の中でオダギリジョーだけが鮮やかな表現を魅せている。

 一方で映画『天国の本屋~恋火』は今、話題の竹内結子が二役に挑んだ作品であるが、短時間しか出演してない香川照之のインパクトのある演技が印象深い。死んでしまった恋人に対する後ろめたい気持ちを、たたきつけたような演技。共演の竹内結子とのシーンでは感情のぶつかり合いが激しく、そのシーンだけを見てみれば「天国の本屋~恋火」というタイトルからはかなり離れているかのようだ。

 香川照之は、感情を全身をもってして、フィルムに焼き付けるような俳優だ。

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 都会的なベース音。余裕のある心理状態を表すような一定のリズムのベース音で『ゆれる』は始まる。東京で成功したカメラマンの猛は、母の一周忌に帰郷する。実家には父親と、家族経営しているガソリンスタンドで働く兄の稔がいる。猛と稔はまったく違う世界で生きてきている。そして、そのガソリンスタンドでは幼馴染の智恵子が働いている。

 猛と稔と智恵子の3人で近くの渓谷にドライブに向かう。稔は雄大な自然と爽やかな空気に心躍らせる。猛は智恵子と稔との関係を知り複雑な心情。そんな時に「こと」が起きる。智恵子が吊り橋から転落し死亡。智恵子が転落したときに、稔は吊り橋の上にいた。事故か事件か。ここから映画は人の心の、兄弟の絆の深いところへ進みだす。

 西川美和監督は、すべてのシーンに意味を持たせている。隙がない。光、ごく些細な音、魚、酒の雫、古い車のエンジン音、ひしゃげたトマト。ありとあらゆる存在を用いて、観客を感情の階段へと誘っていく。兄弟がどれほど近くて、どれほど遠いものか。それぞれが相手に感じている感情。兄弟の絆がどれほど残酷でどれほどせつないかを、西川監督はゆるやかな演出でまるで無限大の真っ暗な宇宙空間のように表現している。

 観客は上り詰めた階段の上にあるものは何なのか、という不安と期待で映画に浸っていく。そして階段の頂には予想できない結末が待っている。

 オダギリジョーは、マイペースで自信家の猛を完璧に演じている。芸術家が持っている感覚的な感性に溢れ、女性に対しても兄に対しても敏感。「こと」に出くわし、徐々に狂っていく兄弟の絆と自分のアイデンティティの波を体現している。言葉や表情ひとつで、激変するひとりの孤独な男の心の荒波がフィルムに叩きつけられる。最後を迎える直前、オダギリジョーはありったけの感情をぶつけてくる。シンプルな言葉送り返しで、こっちまで真っ直ぐに感情がつながり、胸が熱くなる。映画が切なさを極めるところだ。オダギリジョーが、また羽ばたいた瞬間だ。言葉がないほど素晴らしい。

 また、稔役の香川照之はただ朴訥として素直な風貌だけではない。稔がいままで猛に抱いてきた気持ちを言葉だけではなく、仕草や表情や言葉の音程や響きで観客に届けていく。田舎で、まじめに働いてきた男の虚無感を身に宿している。また新しい香川照之の局面に出会った気がした。

 今年、大反響を呼んだテレビドラマ『時効警察』や映画『THE有頂天ホテル』、CMなどで見せるコミカルなイメージと、映画『スクラップ・ヘブン』や『ゆれる』で見せる繊細でダークなイメージ。オダギリジョーは、違うイメージを宿している。しかし、まだこれだけじゃないはずだ。オダギリジョーはそんな期待を持たせる俳優である。

 これから先も、松岡錠司監督作品の『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』、大友克洋監督作品の『蟲師』などオダギリジョー出演の話題作が続く。今度はどんな羽ばたきを見せるだろうか。心底、楽しみだ。

オーマイニュース(日本版)より

※引用文中【画像省略】は筆者が附記


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WOWOWでやってたら見ようと思います(定型文)。

オダギリジョー氏の出世作『仮面ライダークウガ』が出てない。一条さんに「見ててください、オレの変身」って決意をこめて言うところが最高にカッコイイのに。


テレビや映画でよく顔を見た俳優さんがだんだんいなくなっていくと寂しいですね。