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【映画】『みえない雲』の描く、壊れていく明日

引用元URL:http://www.ohmynews.co.jp/News.aspx?news_id=000000003216

ミクロな視点から見た核の怖さ
まつかわゆま
2006-11-21 08:04

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[編集部注]

記事には映画の内容(ストーリー)に関する記述があります。

 いきなり私事だが、私が結婚式を挙げた1986年4月26日、チェルノブイリ原子力発電所4号炉が爆発した。私は晴れ渡った空を見上げながら、放射能を帯びた大気が欧州に広がっていたことを知らなかった。

 『みえない雲』の原作はこの事故の直後に出版されベストセラーになった。主人公はドイツの小さな町に暮らす少年少女。近郊の原子力発電所が事故を起こし町はパニックになる中、主人公たちは生き延びようとするのだが……。

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写真シネカノン提供、3枚とも

 脱原発・環境保護などを掲げた緑の党が躍進した時代には、小・中学校ではこの本を読ませることが多かったと聞く。この映画の出演者たちも子供のころ学校で読んだらしい。しかしすでにチェルノブイリから20年。緑の党の勢いもそれほどではなくなり、事故や放射能の恐ろしさの記憶は薄れ、他人ごとにしか感じられなくなっているという。そんな今だからこそ『みえない雲』の映画化は意義があると思う。

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 映画は事故そのものではなく、「明日は退屈な今日の繰り返し」と信じていた少年少女たちの明日が、壊れていく様を中心に描く。友情・家族・進学・初恋……。16歳のハンナの生活は激変する。家族を失い、友に捨てられ、恋人になったばかりのエルマーとも引き離される。生きる希望をなくしたハンナは放射能に汚染された雨に打たれて被爆してしまう。しかし、絶望するハンナのもとに彼女を探し続けたエルマーが現れ、恋の力でふたりは生きる希望を取り戻していく。

 一般に映画は鳥の目と蟻の目をもつが、『みえない雲』は蟻の目、つまりミクロの、個人のレベルで核問題をあつかった作品だ。原子力発電という核のマクロ的な有効利用が、個人にもたらす悲劇を描く。核問題はどこか遠い、ヨソの出来事、と思っている少年少女に、自分の身近こととして考えられるように作られている。

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 ヒロシマ、ナガサキで、チェルノブイリで、またイラクで、放射能により障害をうけた子供たちがいる。生まれなかった胎児がいる。放射能の怖さはそれが体内で遺伝子を破壊し、正常な組織を作り出すことを邪魔することだ。核爆弾の炎に焼かれなくとも、原子力発電所が大事故でも起こせば、被害は広範囲に広がり、次世代に影響することをチェルノブイリは証明した。政府はとくにそんなことを子供たちに教えようとしない。だから『みえない雲』のような物語が必要なのだ。自分たちの身に起こることとして核問題を考え、いつか大人になる子供たちが世界を変えていけるために。

 ヒロインを演じたパウラ・カレンベルグは86年生まれ。チェルノブイリ事故は彼女が胎児だったときに起きた。一見、健康優良児だが、心臓に穴が開き、肺が片方ないという先天的な障害を持っているという。それでもパウラはみずみずしく初恋に希望をかける少女ハンナを演じきった。そのこと自体が希望だと思う。遅くはない。あきらめることはない。世界はまだ変えられる。


2006年/ドイツ/107分 
原題:DIE WOLKE(雲)
監督:グレゴール・シュニッツラー(長編初監督)
プロデューサー:マルクス・ツィマー
脚本:マルコ・クロイツペイントナー
原作:グードルン・パウゼヴァング「見えない雲」(小学館刊)

今冬 シネカノン有楽町ほか全国順次ロードショー


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【映画】『みえない雲』監督インタビュー

オーマイニュース(日本版)より

※引用文中【画像省略】は筆者が附記


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癌の早期発見に放射性トレーサーが使用されている検査法があることをご存知でしょうか?

放射性同位体は扱い方次第で毒にも薬にもなるということを理解しないで、単に「放射能だからダメ」というのは頭弱すぎるんじゃないかと思います。つかね、毎日毎時間毎秒、宇宙線が降り注いでいる中で生成されている炭素14(放射性同位元素)が体内に日々とりこまれている中で「放射能が遺伝子を破壊する」なんてのはもうちょっと勉強しろって言いたい。その遺伝子の中に炭素14が含まれているって~のw

事故が起こる可能性が1兆分の1あるから絶対ダメといわれたら何もできないよ? 宇宙開発なんて事故が起こる前提で進めてるものもダメになるよ?