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経済用語の新常識(10) ~山崎元コラム~

引用元URL:http://www.ohmynews.co.jp/OhmyColumn.aspx?news_id=000000002844

[第10回]エージェンシーコスト
山崎 元
2006-11-03 11:09

【エージェンシーコスト】

 いくらか面倒な概念だが、株主と経営者の関係などを考える場合のキーワードだ。

 株式会社では、経営者は、株主の委託を受けて、株主の利益のために働く代理人(エージェント)だが、理想どおりに100%株主の利益のためにベストを尽くすとは限らない。たとえば、自らの報酬を高く設定しようとするかもしれないし、豪華な社長室を作ったり、過剰な接待費などの各種の経費の無駄遣いをしたりするかもしれない。

 また、一般に経営者は、プロジェクトが失敗したり、会社が倒産したりした場合に職を失うので、会社に現金性の資産を貯め込みたいと考えたり、リスクの大きなプロジェクトを手掛けることを避けようとしたりする傾向があるが、株主は、有限責任での出資であり、多くの企業に分散投資してリスクを低減させることもできるので、株主にとっては、経営者が積極的にリスクを取ってくれる方が望ましい場合が多い。委託者である株主と代理人である経営者の間には、「利害の不一致」がある。

 一方、経営者と株主を比較すると、経営者の方がビジネスそのものについては詳しい情報を持っていることが多いし、また、株主が経営者の行動の適否を完全に把握することは難しいといった、「情報の非対称性」がある。

 こうした代理関係(エージェンシー関係)にある状況では、実際の経営が、株主にとってベストな状態で行われない可能性が大きく、この状態と、仮にベストな経営が行われた状態との、株主にとっての「差」を、コストとして認識したものが「エージェンシーコスト」である。これは、金額でいくら、という具合に会計的に把握することが困難な理論上の概念だが、一般にエージェンシーコストが小さいほど、制度としての完成度・効率性が高いと考えられている。

 たとえば、会計監査のコストを払うことで、経営者がより真面目に働いて、株主にとって理想的な状態に、払ったコスト以上に近づけば、エージェンシーコスト全体は縮小することになるので、企業の統治としては、より望ましい状態に近づいた、ということがいえる。監査、コンプライアンス、社外取締役といった制度上の工夫は、情報の非対称性を小さくする方向でのエージェンシーコスト対策だし、ストック・オプションを導入することは、経営者と株主の利害をより一致させることによるエージェンシーコスト縮小手段だ、と考えることができる。

 このエージェンシーコストの問題で、近年関心を集めているのは、会社の実力を大幅に上回った株価が形成されてしまった場合の、経営者行動によってもたらされる、株主にとって、さらには、社会にとっての多大なエージェンシーコストの存在だ。

 たとえば、株価が普通に考えた実力の3倍に評価されているとした場合、経営者はその株価が妥当であるかのように振る舞わなければならないことが多いだろう。「わが社の妥当な株価は、せいぜい現在の3分の1です」と発言すると、おそらく経営者のクビが飛ぶ。この場合、経営者は実力の3倍の株価に見合った成長力が会社にあると確信しているかのように振る舞わなければならないから、大きなリスクのあるプロジェクトに次々投資したり、あるいは矢継ぎ早にM&A(合併および買収)を行う、といった「大風呂敷経営」に走ることになり、これが失敗すると、大きな損失が発生する(好例のひとつと考えられているのは、破綻した米国のエンロン社のケースだ)。

【画像省略】
2001年12月に破綻した米エンロン社(2001年11月29日撮影、ロイター)
 これまで株価が過小評価されている場合の対策は、さまざまに工夫されてきたが、株価が高すぎる場合に経営者の暴走から発生するエージェンシーコストを抑える方法については、現在、妙薬が見つかっていない。

 投資家としては、企業に過大な評価(株価)を与えないことが重要だし、メリットに疑問のあるM&Aを多発するなど暴走気味の企業に対しては、こうした状況に陥っているのではないか、という疑いの目を向けてみることも大切だ。

 なお、エージェンシー問題の枠組みは、国民と官僚、患者と医者など、多くの関係の分析に応用が可能だ。

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山崎 元(やまざき・はじめ)
1958年生まれ。経済評論家。楽天証券経済研究所客員研究員。株式会社マイベンチマーク代表(投資と投資教育のコンサルティング会社)。著書に『「投資バカ」につける薬』(講談社)、『お金をふやす本当の常識』(日本経済新聞社)など多数。著者ブログ「評論家・山崎元の王様の耳はロバの耳!」
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・第9回[ロングショート運用]
・第8回[地政学的リスク]
・第7回[年金一元化]
・第6回[インフレ・ターゲット]
・第5回[イノベーション]
・第4回「IPO」
・第3回[ストラテジスト]
・第2回[ラップ口座]
・第1回[TOB]

オーマイニュース(日本版)より

※引用文中【画像省略】は筆者が附記
前回の記事は以下。


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エンロンの解説動画は以下。

エンロンの破綻についてはNHKもNHKスペシャルか何かで解説していた記憶がありますが、アーカイブで視聴できるんかな? 調べてないのでわかりません。

株は株主優待を受けるために買うくらいがちょうどよいと思います。


この物言いにムカツクのは理解できるけど、実際この通りなんだよね。悲しいことに。努力すれば追いつける程度の話ではなく、感覚的には異世界の話をされている感じ。本物の天才(と呼ばれる人?)に会うとわかる。例えるなら星団暦でのAFガーランド(旧ファティママイト)を同時代の一般人が理解できない感じ。ミース・シルバーの話だった記憶あり。生まれとか育ちも似たような感覚だろうと思います。

ま、本物の上級国民ならタイーホはされないでしょうけど。

ただ幸いなことに万能の天才はたぶん世の中に存在しないから、自分の得意な分野でがんばって高望みしなければそこそこ満足できる人生は送れるはず。キラ・ヤマトもエッチしたフレイ・アルスターの心まではつかめなかったでしょ?w その意味ではデュランダル議長のデスティニープランは凡人にとっては良い政策なんだよなぁ。YouTubeをみてゲラゲラ笑ってあ~楽しかったで死ねる人生もアリっちゃアリ。

もしそういう世界になったらColaboなんて存在意義すらなくなりますしw