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いまだに闇の中の吉進丸拿捕

引用元URL:http://www.ohmynews.co.jp/News.aspx?news_id=000000000261

銃撃は日ロいずれの過失か?
記者名 T中 A成

 毎日新聞によると、28日に現地のロシア人助手が坂下船長ら3人の乗組員と会見し、坂下船長は「霧が深くて(国境警備隊が撃った警告の)信号弾は見えなかった」と述べた。

 すでに、大手マスコミでの報道は終わってしまったようだが、これまでに報じられた事実関係は、銃撃に至るまでの過程を正確に描写していない。この記事もせっかく坂下船長に面会までしながら、重要な疑問点を解明していない。

追跡したのは警備艇か高速ゴムボートか?

 これまでの報道によると、ロシア警備隊員は警備艇から降ろした高速ゴムボートで接近したという。吉進丸は確認された時、航行中だった。ロシア警備艇がどの時点でゴムボートを下ろしたのかは分かっていないが、停船してゴムボートを下ろしていたのでは、吉進丸が中間ラインを超えてしまう恐れがある。警備艇で吉進丸を追いかけ、停船させたのちにゴムボートを使って乗り込むのが常識的だ。

警告射撃をしたのは機関砲か自動小銃か?

 報道では、2度目の警告射撃で吉進丸が停船したことになっている。この警告射撃が警備艇の艦首にある機関砲と自動小銃のどちらで行われたかが明確ではない。自動小銃で曳光弾を撃つことはできるが、明瞭に見える信号弾は撃てない。警告射撃はより口径が大きい機関砲で行われたと考えるのが常識的だ。

 上記、2点が曖昧に報じられたため、旧ソ連時代のように、追跡をしながら銃撃を行うような荒っぽい取り締まりの結果、尊い人命が失われたと受け取られている。しかし、最近のロシアは、不注意によって日本漁船が領海を侵犯したような場合は、記録に留めるだけで、すぐに釈放するソフトな取り締まりに切り替えている。また、その他の情報を総合的に判断すると、ロシア警備隊の銃撃の評価はまったく変わってくる。

 報道された事実を総合すると、次のようになる。

 まず、ロシア警備艇が航行中の吉進丸を発見。2発の信号弾を艦首の機関砲から発射し、無線で停船命令を送りながら、吉進丸を追跡した。吉進丸は中間ラインの近くまで来たところで停船した。警備艇からゴムボートが降ろされ、警備隊員が吉進丸に接近した。なぜか、吉進丸は急に発信すると、ゴムボートに体当たりを行った。警備隊員が体当たりを止めさせるために威嚇射撃を行ったが、狙いがそれて吉進丸の乗組員1名が死亡した。

 これを裏づける証拠として、根室に住む女性が事件があった時間帯に「ドーン!」という音を聞いたという証言がニュース番組で報じられている。自動小銃の連射は「ダダダ!」という音だから、機関砲が撃たれた可能性が一層高くなる。

 この推測が正しければ、警備隊員の発砲は警告射撃というよりは、正当防衛による発砲というべきで、体当たりを行った吉進丸の側に重大な過失があったことになる。海上で、大きな船がより小さな船に体当たりをするのは、殺意とみなされても仕方がない行為だ。たとえるなら、パトカーに追跡された暴走車の運転手が、一端は停止しながら、警察官に向かって再発進したのと同じ状況だ。この場合、警察官が発砲しても過剰防衛だということはできない。

 しかし、この推測を否定する情報もある。坂下船長の「急にゴムボートが近づいてきた」と、今回明らかになった「霧が深くて信号弾は見えなかった」という証言だ。これらの証言は当時視界が悪かったことを思わせる。吉進丸がロシア警備艇に本当に気がつかなかった可能性はある。だが、それほど霧が深ければ、危険防止の観点から取り締まり自体が行えないとも言えるし、無線による停船命令に従わなかった理由も説明できない。

 状況を明確にできないのは、ロシア警備当局にも原因がある。彼らが公開した事実関係が曖昧で、ロシア側に過失があった可能性を払拭できないからだ。タス通信もごく簡単に事件を伝えただけだった。ロシア警備艇は、証拠収集のために追跡の過程をカメラで撮影したはずだ。それを公開できないのは、彼らが追跡のやり方に何らかの問題があったと考えているためだとも推測できる。

 そして、事件が起きた場所には領土問題が存在した。そのため、日本は銃撃に対して激しく反発した。吉進丸は北海道が許可したかにかご漁の操業区域を外れた場所にいた。北海道の漁業規則違反も明らかだったが、高橋はるみ北海道知事は遺族を弔問するために根室に赴いた。こうしたあり得ないことが起きたのも、すべて領土問題のお陰である。しかし、問題の根元を領土問題におくことはできない。漁民は獲物が捕れるならどこにでも行く。事件が起きた海域には、大陸側からも漁船がやってくるのだ。北方四島が返還されても、すぐ近くにあるウルップ島はロシア領のままで、そこで再び領海侵犯が起きることになる。銃撃事件を防ぐのは、隣国が近い場所で操業する運命にある漁民たちの創意工夫に他ならないのだ。

 今回の事件で、日本は日本人が竹島問題で韓国から感じている悪しきものをロシアに感じさせてしまった。マスコミから与野党を問わない政治家まで、意見を言える立場にある者たちがあらゆる機会でロシアを非難した。さらに、24未明、複数の日本漁船がこの海域で再び領海侵犯を行い、日本はロシア当局から警告を受けた。地元漁協のレーダーもこの侵犯を確認した。その結果、25日に、2名は早期解放されるはずだった乗組員全員の勾留の延長が決まってしまった。このように、「北方領土」というキーワードが独り歩きして、現実に起きた問題を解決しにくくすることは避けなければならない。今回の事件では、領土問題を極力切り離し、拿捕された漁民の早期釈放に努力を傾注すべきではなかったか。
2006-08-29 15:33

2006年8月30日07:49時点でニュースのたね記事一覧に載っていた記事です。この記事は他の時事ニュースと同様非公開となりました。

日本版オーマイニュース編集部に在籍していたスタッフの名簿を当時作成していたのですがファイル群に紛れて行方不明です。念の為記者名を伏字にしておきます。