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ホールマニアの戯言

引用元URL:http://www.ohmynews.co.jp/News.aspx?news_id=000000003368

オペラの感動に影響するホールの響き
K賀 T紘
2006-11-23 22:18

① オペラハウスは、コンサートホールと違ってさまざまなハンディを担わされている。ハリボタの舞台装置はすべて吸音材である。舞台裏は、すっぽんぽんの空間であって、止め処もなく音を吸い込んでいる。星の煌きは観客席に十分には届かない = まさにブラックホールだ!
オーケストラは地下に潜っており、高周波成分は直進する性質があるため天井に向かって放散される。そこで反射されて地上に降り注いでいるから、見た目より相当な距離を経て客席に辿り付いていることになる。決して、敷居を越え、観客席に向かって匍匐前進してくることはないのである。

② 平土間18列のウイーン国立歌劇場に限らず、欧州のオペラハウスはみな大きくないので、それでも十分聴こえる。サントリーホールやタケミツホールは、反射板を吊り下げて天井の高さを補正している。"みなとみらいホール"のように
響くホールでさえ反射板を設置し、東京芸術大学奏楽堂に至っては天井自体が上下する!
結果、直接音と間接音とが適度にブレンドされた芳醇な響きを味わうことができるのだ ♪

③ オペラの指揮者・演出家・舞台関係者は、そのことを良く心得ている。新国立劇場2003年「TOSCA」&2004年「CARMEN」 = カルメン第3幕のミカエラのアリアになると、岩山が左右から迫り寄ってきて背後を塞いでしまった。要するに、反響板が設置されたわけだ。声の艶と輝きは1幕とは別人みたいに違った! ブラヴァーが飛んだ。 
トスカ第3幕のアリア“星は光りぬ”では、カヴァラドッシが競り上がってきた牢獄の前まで石段を降りてきて歌った。
本来なら、満天の星が輝いて見える城の屋上で歌った方が演出上は印象的なはずなのに、それでは声が輝かないのである。輝かない声では、星が光るも何もあったもんじゃない。オペラがクラシック音楽である以上、音響が優先されるのは当然だ。

④ ところがどっこい! である。我が国には、ふかふかクッションに加えて壁に吸音材まで埋め込んである多目的ホールが多い。、響きが過ぎると講演会等で明瞭さを欠くからであり、演歌やロックのコンサートでは、電気で増幅しているからである。
でも、こんなところでクラシック音楽を聴くと、平土間に辿り付くまでに高周波成分は吸収&減衰され輝きを失ってしまう。ヴァイオリンのチリチリした松脂が飛ぶ音が聴こえない。倍音が聴こえない。創造の神によって創られた美しい雪の結晶も、地上に降り注ぐころにはミゾレになってしまっているのです。

⑤ 無論、オペラは音だけの世界ではないし、オペレッタ&ミュージカルのように、安物のPA システムを使ってでも感動の舞台を創りあげることは十分可能である。そのことは、先月、N.Y.ブロードウエイミュージカル「Jersey Boys」でイヤというほど味わった。
演劇・バレーに限らず、舞台芸術は視覚的要素が大きく、聴覚的要素だけを云々することはバランス感覚を逸していることは承知している。

⑥ でも、音楽は音を楽しむと書く = 聞こえてナンボの世界だ。聞こえないものには価値がない。ん? 聞こえてるよだって? それは、映画館やBGMの音が聞こえてると言っているにすぎません。インテリアに、間接照明ってぇ~のがあるでしょ? お見合い写真に、ボカシて綺麗にみせかけてるでしょ? BGM や癒しのイージーリスニングならそれでも OKです。でも、ここには、弦の光沢や金管の輝きはないし,テノールの煌きやソプラノの艶はありません。結果、生理的興奮をもたらさないし、感動も薄いということになります。

⑦ 音楽専用のサントリーホールは、客席がステージを取り囲むワインヤード形式で造られている。舞台裏が必要な演劇&オペラは無理。それでも、演出を簡便にすることによって、年に1回だけオペラ公演をやってきた。
2004年は、オペラの中のオペラ = G.Puccini 「TOSCA」であった。響きの良いホールで、しかもオーケストラが壇上に上がっている。それに負けない声となると、世界の一流を招聘するしかない。
音符がほとばしる!!! 澄んだハープ&トライアングル、椅子を震わせるティンパニ、低弦のピチカートに包まれる至福の快感は、赤ん坊が母親の柔らかい胸に抱かれる原始的本能に根ざしているように感じる。
1幕フィナーレ「テ・デウム」の合唱はホール一杯に響き渡る圧倒的な迫力!「ここは教会なのか !? 」と目くるめく体験であった。

⑧ 今秋のハンガリー国立歌劇場「TOSCA」は、音響の良い中野ZEROホールでと決めていた。冒頭のスカルピアの動機からして一気に引き込まれた = 期待どおりの音だ。
教会の中は本物の鉄柵が使われており、扉を閉めるたびにガチャンと重厚な音がする。こういう諸々の効果に影響を及ぼし、臨場感に関係してくるから、ホールの響きは大事なのである。拷問の動機の大太鼓のトレモロがまた凄い音!何というリアルな舞台だ。これでこそドラマが盛り上がる。終幕のティンパ二・大太鼓・シンバルが、またまた、これでもかとばかりの凄い音で、ホール全体に響き渡った!

これだから、オペラは、否、人生は止められない (^-^)

オーマイニュース(日本版)より

オペラは知りませんが、設備によって音響が大きく変わるということはよくわかります。最高の作品を楽しみたいのなら最高の環境で、というのは別ジャンルとはいえマニアとして激しく同意いたします。沼という表現はこの記事が掲載された当時はありませんでしたが、ホール沼にはまった記者さんだと思います。

沼にハマるとお金が溶けていくんですよねor2