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『アンビエント・ドライヴァー』 細野晴臣著

引用元URL:http://www.ohmynews.co.jp/News.aspx?news_id=0000000002692

◇読者レビュー◇静寂の乗り手
O羽 S史
2006-11-02 08:14

【画像省略】

 ぼくはビーチ・ボーイズマニアである。

 熱狂的なビーチ・ボーイズマニアは、世界中におそらくビートルズ・マニアと匹敵するぐらいおり、その凄まじさたるや、明らかにレコード会社の倉庫から流出したとしか思えない海賊版が出回るほどだ。

 そんなマニアたちの会話の話題のひとつに、ビーチ・ボーイズの録音の話がよく出てくる。

 1960年代は今に比べれば録音環境ははるかに粗雑で、そしてレコード産業ははるかにハードだった。

 ビーチ・ボーイズのレコードには、粗雑なレコーディングやハードなスケジュールの影響で、せきや声など雑音がかすかに入ってしまっており、擦り切れるまでレコードを聞いたマニアたちはそれがどの曲のどの部分に入っていたかを聞き逃さない。

 ぼくたちマニアはそんな雑音だらけのレコードの音がたまらなく好きなのだ。

 我々がレコードを聴くとき、我々は楽器の音や声だけを聞いているのではない。むしろ、少なくともポップ・ミュージックに対して「音が良い」と評価するとき重要なのは、楽器や声の背後にあるアンビエンス、静寂なのだ。

 細野晴臣の文章を読んで感じるのは、そういった音楽以前のアンビエンスの感覚である。なんというか、文章がとても静かなのだ。

 ネイティブアメリカンの教えやガイア仮説など、細野自身の神秘思想の面がかなり強い文章もあるのだが、それでなにが言いたいというのは特にないように感じる。

 例えば、そういった神秘思想を現代思想的に還元するとき、それにはなにか企みが、説教が含まれているわけである。細野の文章にはそれがない。淡々としている。

 細野の活動を特徴付けるもののひとつに「リズム」があるわけだが、例えばグルーヴというのは口で説明できるものではない。感じなければ分からないものだ。

 細野の文章も実に感覚的なものに満ち溢れているように思う。口では説明できない「雰囲気」なのだ、この本の縁起の良さというのは。

 頭の中のノイズを消していくような、音楽を聴くためのアンビエンスを作っていくような素敵な本である。


発行・マーブルトロン/発売・中央公論新社
1890円(税込)
2006年9月
四六判

オーマイニュース(日本版)より

※引用文中【画像省略】は筆者が附記


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「考えるな。感じろ」という場面があることを否定はしません。『天空の城ラピュタ』のラストで大樹が飛行石を絡めて高空へ登っていく場面は意味もなく涙が出そうになりますし。

トニオくんが言いたいことは、要はアレです。パルスのファルシのルシがコクーンでパージすると言いたいとわたしは理解しました。