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「情報」をどう読むか

引用元URL:http://www.ohmynews.co.jp/MediaCriticism.aspx?news_id=000000000123

警察リーク情報の危うさ ~ メディアリテラシー(1)
記者名 渋井哲也

 メディア・リテラシーという言葉が使われるようになって久しい。メディアに流れるニュースがどのように作られているかを理解した上で、どのように読めばよいのか、どのように判断すればよいのかを読者や視聴者は主体的に考える必要がある。

 自戒を含めて言えば、ニュースで流された情報が常に正しいとは限らないからだ。

 2006年5月、平塚市内のアパートで5人の遺体が見つかった。そのうちのひとりである19歳女性を絞殺したとして殺人罪で母親が逮捕された。直後は、容疑を認めたとの報道がなされ、また遺体の新生児がこの母親の子供だったことがDNA鑑定で確認されたため、複雑な人間関係について焦点を当てる報道が多かった。ところが、8月21日の初公判では、母親が「殺していない」と起訴事実を否認した。

 逮捕直後にいったん犯人視された報道に接すると、私たちは信じ込む傾向が強い。しかし、メディアに流された情報がどこまで本当なのかは、じっくり考えなければならない。

 リテラシーが問われ始めた事件が、1994年の松本サリン事件だったのではないか。6月27日の夕方、長野県松本市で猛毒のサリンが散布され、7人が死亡した。長野県警は、第一通報者を重要参考人として取り調べを続けた。逮捕はされなかったものの、数々の警察からのリーク情報が流れ、読者や視聴者は、まるで第一通報者が犯人かのような印象を受けていた。

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山梨県上九一色村(当時)のオウム真理教施設への捜索に向かう警官隊(1995年3月=ロイター)

 1995年3月、地下鉄サリン事件が起き、その後、松本サリン事件と地下鉄サリン事はオウム真理教の犯行という見方が強まり、第一通報者を被害者として扱う報道に変わった。

 これは、松本サリン事件が犯罪史上前例のない事件ゆえの例外だろうか。そうではない。現在のメディアの構造上、必然的に起きてしまうものだ。ここでいうメディアの構造とは、どの情報が公式発表で、どの情報がリーク情報なのか、一般の読者や視聴者には分からないように情報が作られ、流れているシステムを指す。この構造のもとでは、警察からのリーク情報が間違っていたとき、誰が責任を取るのかが曖昧のまま放置される。

 2006年4月に起こった秋田児童殺害事件でも、同じようなことが言えるだろう。逮捕前からメディアは畠山鈴香容疑者に対し、米山豪憲くん(当時7歳)殺害において犯人視した報道を続け、メディアスクラムとよばれる過剰報道体制をとっていた。さらに、「事故死」とされていた畠山容疑者の娘・彩香さん(当時9歳)についても、殺害犯人扱いの報道だった。

 現在では、畠山容疑者は2人を殺害した容疑で逮捕、起訴されている。豪憲くんの殺害については、弁護士の会見を通じて、本人が認めていることが分かる。しかし、彩香さんの殺害については、「川に落した」「娘が邪魔になった」などと自供したとの報道がされ、一見、認めたかのようだった。

 ただし、ここで注意しなければならない。「~を自供した」という報道は、ほとんどがリーク情報(情報ソースが意図的に流す非公式情報)である。警察当局が記者会見で発言しない限り、それは非公式情報である。本当にそう自供したのかどうかは曖昧であり、自供内容は変わる可能性が多い。

 案の定、読売新聞は8月8日付けの朝刊で、『彩香さん殺害を一転否認、畠山被告あす追起訴』との見出しの記事で、被告が「何で私が犯人なの」と否認している、との報道がなされた。これも公式発表ではなく、間違いなくリーク情報である。

 自供報道は取り調べ段階のリークに基づいており、もともと不確かなものである。しかし、読者や視聴者は自供内容がコロコロ変わっていると感じる。「畠山容疑者=嘘つき」との印象を受けるだろう。

 警察や検察の捜査段階での情報は、確定的な事実では決してない。裁判員制度が導入されようとしている今、ニュースがどのように作られるのかを知った上で、私たちは報道に接し、内容を判断していかなければならない。
(NPO法人・ユナイテッドフューチャープレス)

しぶい・てつや 1969年栃木県生まれ。93年東洋大学法学部卒。「長野日報」社を経て、98年フリーに。2001年東洋大学大学院文学研究科教育学専攻博士前期課程修了。著書に『「田中康夫」研究』(ワニブックス)、『ネット心中』(NHK出版)など。

(次回は来週月曜日に)

2006-08-28 09:00

※引用文中【画像省略】は筆者が附記
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「ユナイテッドフューチャープレス」ではなく「ユナイテッドフィーチャープレス」です。プロのジャーナリストがメディアリテラシーについて注意喚起する記事。

この記事は後付けでエムプロ記事に指定されました。エムプロについては後に編集部からプレスリリースが出ますのでその時にまた書きたいと思います。