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安倍政権の行方を探る ~若手国会議員リレーインタビュー~【第8回】

引用元URL:http://www.ohmynews.co.jp/HotIssue.aspx?news_id=000000003297

小野晋也氏、教育基本法関連で再登場 「衆院通過後の今こそ、さらなる論議を」
河野浩一
2006-11-21 11:57

 11月16日午後、民主、共産、社民、国民新の野党4党が欠席した衆院本会議で、政府の教育基本法改正案が与党(自民・公明)などの賛成多数で可決された。今後は、舞台を参議院本会議に移しての攻防となるが、野党は国会審議を拒否して徹底抗戦する構えを崩していない。

 教育基本法は、日本におけるすべての教育法令の根本をなす法律だが、1947(昭和22年)に制定されて以来、今まで1度も改正されたことがない。それだけに、時代が移り、教育を取り巻く環境が大きく変わったいま、改正の必要に迫られていたことは間違いない。ただ、その論点がいまひとつ国民に見えてこない。

 たとえば「愛国心」。政府案では「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと」(第2条5項)としている。

 それに対して、民主党改正案では、「日本を愛する心を涵養し、祖先を敬い、子孫に想いをいたし、伝統、文化、芸術を尊び、学術の振興に努め、他国や他文化を理解し、新たな文明の創造を希求する」(前文)とある。

 あるいは、「宗教教育」について。政府案が「宗教に関する寛容の態度、宗教に関する一般的な教養及び宗教の社会生活における地位は、教育上尊重されなければならない」(第15条)とあるのに対し、民主党案は「宗教的感性の涵養及び宗教に関する涵養の態度を養うことは、教育上尊重されなければならない」(第16条3項)となっている。

 この政府案と民主党案に、どれほどの差があるのか。果たして国会審議を拒否し、本会議を欠席してまで争わなければならないほどの隔たりがあるのだろうか。

 もちろん民主党とは別の立場から教育基本法の改正に反対している共産党、社民党にもそれぞれ意見がある。それは十分に論議されるべきだろう。だが、世論を見ると国民の多くは政府の改正案に賛成している。

■朝日新聞社による世論調査(2006年11月11、12日実施)
○政府の教育基本法改正案について
賛 成 42%
反 対 22%
無関心 18%

■読売新聞社によるネットモニター調査(2006年11月4日掲載)
○教育基本法の今国会での改正について
賛 成 63%
反 対 27%
 
■読売新聞社による世論調査(2006年5月13、14日実施)
○教育基本法改正案について
賛 成 66.7%(賛成28.1%、どちらかといえば賛成37.6%)
反 対 14.2%(反対5.6%、どちらかといえば反対8.6%)
無回答 20.1%

■NHK世論調査(2006年3月10~12日実施)
○教育基本法の改正について
教育基本法を改正すべき 72%
「国を愛する心」という表現を入れて改正すべき 43%
「国を愛する心」という表現を使わずに改正すべき 29%
改正する必要はない 14%

 ただし、NHKの上記世論調査によると、次のような数字もあがっている。

○改正案の成立時期について(上記で「改正すべき」と回答した人に質問)
今国会に提出して早く成立させるべきだ 21%
今国会での成立にはこだわらず、時間をかけて議論すべきだ 76%

 朝日新聞社の9月の世論調査(2006年9月26、27日実施)でも、

○教育基本法の改正はどうするのがよいと思うか
今国会で成立を目指すべき 21%
今国会にこだわらず、議論を続けるべき 66%
改正する必要はない 6%

 つまり、国民の多くは、教育基本法の改正は必要だが、しっかりと論議してほしいと考えているのである。今後、教育基本法改正問題はどう展開していくのか――。連載8回目の今回は、衆議院での教育基本法改正案可決を受けて、小野晋也議員(第1回目に登場)に再度ご登場願い、緊急インタビューした。

* * * * * * *

小野晋也(おの しんや)氏
[プロフィール]
【画像省略】
小野晋也代議士(事務所提供)

1955年4月28日愛媛県新居浜市生まれ。衆議院議員。東京大学工学系大学院航空学専修修士課程修了後、松下政経塾に第1期生として入塾。その後1983年、27歳で愛媛県議会議員となり、1993年に衆議院議員初当選。現在5期目。経済企画総括政務次官、自民党文部科学部会長、文部科学副大臣、衆議院財務金融委員長、自民党宇宙開発特別委員長等を歴任。著書に『志力奔流―「人間の森文明」宣言』(致知出版社)、『日本は必ず米国に勝てる』(小学館文庫)、『ロボット発想オモチャ箱―ロボットのきらめく発想オモチャ箱 高齢社会の鍵ここにあり!』(オーム社)、『山田方谷の思想』(中経出版)など多数。
オフィシャルホームページ:http://iratan.cocolog-nifty.com/blog/


■安倍総理が最重要・最優先課題としている教育基本法改正

――政府の教育基本法改正案が衆議院で可決され、参議院に送られました。会期末まで1カ月しかありません。野党の抵抗のなか、成立させることは可能なのでしょうか?

 それは、われわれ衆議院からは、どうだこうだと言えませんね。参議院には参議院の審議権というものがありますから、参議院で判断して、法案への対応を決めることになります。

 ただ安倍総理は、この臨時国会の最重要・最優先課題として教育基本法改正を取り上げています。ですから、会期中になんとしても成立させるという決意だろうと思います。

 ですから、参議院の自民党・公明党としては、当然のことながら、この総理の意向を受けて、最大限の努力をするということになるでしょう。

――会期延長も見据えながらということになるのでしょうか。

 それはわかりません。会期は12月15日までですからね。来年度予算の対応等を考えると、会期延長する余裕があるかどうかわかりません。

――政府案と民主党案の違いが、私たち国民にははっきり見えません……。

 それは正直な見方だと思います。そもそも民主党のなかで起案をしたグループというのは、もともと自民党・公明党などといっしょに教育基本法改正を考えていたグループなんです。たとえば、西岡武夫さんとか松原仁さんとかですね。それを議会対策上、いろいろ文章を修正したものが民主党案なんです。

 つまり同じ根っこから、自民党案も、民主党案も出ているわけです。ですから表現ぶりに多少の違いは見られても、枝ぶりがちょっと上を向いているとか、下を向いているという程度の違いであって、本質は一緒なんですよ。

――考えてみれば、教育基本法改正の論議は森総理の時代からはじまって、小泉総理、安倍総理と引き継がれてきたものですね。そういう意味ではもう十分、審議を尽くしたといえるかもしれない。

 つまり、審議とはなんぞやということですね。民主党をはじめとする野党のみなさんが求める審議とは、自分たちの発言によって自民党や政治がダメージを受けてこそ、良い審議ということなんですよ。あるいは、自分たちの言い分が大幅に取り入れられ、自分たちが手柄を上げられたということになってこそ、良い審議なんですね。

 ですから、いくら長い時間かけて議論を尽くそうと、そのなかで自分たちが手柄を立てられなかったら、審議したことにならない。つまり内容がどうだったとか、時間がどうだったとか、そういうことが審議をしたかしないかの主張の分かれ目ではない。世論が自分たちを評価してくれるかどうかが、審議したかどうかの判断基準なのです。自分たちのほうに風が吹いてこなきゃ、いくら時間をかけても審議したとは言わないんでしょうね。

――民主党の反対には、そういう側面があるということですね。

 率直に言うと、そういうことですね。

■組織背景に縛られた共産党・社民党

――ところで共産党と社民党も、なにがなんでも絶対反対ということですが、これは民主党とは異なる理由ですね。

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「政治家は背景組織を説得できなくてはならない」
撮影者:河野浩一

 確かに違うところがありますね。民主党の場合、「教育基本法は、大切な基本法だからまじめに扱わなきゃいけない。だからこそ、そうすんなりと通すわけにはいかない」という野党としての責任論みたいなものが根の部分にある。それを振りかざしてやっているうちに、だんだんと絶対反対というような場所に迷いこんでしまったような気がします。

 しかし、共産党・社民党の場合は、背景組織の問題でしょう。背景にある日教組・高教祖などのグループが絶対反対と言っているわけで、それを受けて、これらの党が賛成の側に回るということはありえないわけですね。

 ただ、ここでよく考えなければならないことがあります。それは、政治家という存在はもっと自分の責任において判断すべきであり、そして、もっと建設的な議論を展開して、背景組織に対しても説得する政治をやるべきだということです。

 背景組織が反対だと言えばもう無条件反対、賛成だと言えば無条件賛成――そういう「思考プロセス」を軽んじた政治をやっていていいのでしょうか。政治家自身が自ら考え、政党内でもっときちんとした議論を行い、その結果として、国益を中心として判断をくだし、その判断のもとに、逆に組織を説得する。そういう政党の姿が生まれなきゃ、本当の政党ではないと思います。

 そのあたりが、共産・社民にとって、いま、選挙で勝てないという非常に難しい状況が生まれている元凶なんじゃないでしょうか。

 国民は、政治の状況をじっと見て、かなりのところを理解しています。それにもかかわらず、「無条件での反対」、「無条件での賛成」といったことをやるものだから、そんな体質の政党に対して国民の側がついていけなくなっているのではないでしょうか。

■大きな幅がある「愛国心」の定義

――ところで、よく反対の理由として出てくるのが、改正案が成立すると、「愛国心」を強制することになるというロジックですが……。

 それは、愛国心をどう定義するのかという問題でしょう。そもそも、各党によって、愛国心の定義に大きな幅があるということです。

 たとえば、社民・共産の方々がいう愛国心は、「軍国主義的愛国心」です。その国を愛するという心根を持ち、しかもそれが具体的行動に現れない限り国民として許されない、つまり非国民と呼ばれる――彼らは、そういう心情を愛国心と定義したがっているようですね。

 一方、政府側の愛国心の定義は、世界のグローバルスタンダードにおいて、1つの国家を国民の合意のもとに建設し、その国家によって国民が守られ、また主権を持つ存在として外交も行うという以上、国民の共同責任において、その国家を大事にしようじゃないかという意味での愛国心です。

 ですから、国旗が揚がったらその国家に対して敬意を表す――これもグローバルスタンダードなのですから――その程度のことは、日本国民もやるべきではないでしょうか。

 逆に、自分の国が難しい状況になったときに、武力を使ってでも他の国をつぶすような方向に動かそうというようなことを、愛国心だと言うわけにはいかないですね。

 つまり、愛国心という言葉をきちんと定義しないまま、それぞれが勝手な定義をして、賛成だ、反対だと言っている。それでは議論がかみ合うわけがありません。

 加えて言うなら、「愛国心の強制だ」というけれども、政府が人々の心に強制力を働かせようなんて思っても無理ですよ、こんな自由な時代に……。時代錯誤もいい加減にしておいたほうがいいな、という率直な思いがありますね。

 軍隊だとか、特高警察だとかが存在していて、少しでもそぶりに問題があったらすぐにでも引っ張っていって拷問にかけるというような世の中であれば、愛国心の強要も、少なくとも外形的にはできるでしょう。しかし、いまのこの世の中で、政府に反対する言葉を吐いたから逮捕だ、なんてことができるわけがないじゃないですか。

 結局今行われている論議は、100年前の出来事だろうと、500年前の出来事だろうと、何でもいいから自分の議論を組み立てるのに都合のいい部分だけをつまみ食いして使って、未来を無思慮に空想しているだけのことだと思います。

 少なくとも、そのとき、その時代の政治状況、社会状況をきちんと確認しあいながら、議論していかないと、特に心の問題にからむようなことは率直に議論できないということでしょう。

――現行法の「教育は、不当な支配に屈することなく、国民全体に対し直接に責任を負って行われる」という文言が、改正案で「この法律及び他の法律の定めるところにより行われる」となったことに対して、「それでは教育に対して不当な支配が行われる」という教育関係者もいるようですが……。

 支配という言葉はどういう定義で使っておられるんでしょうかね。それから不当か不当でないかという、その定義もよくわからないですね。

 自分にとって都合が良ければ不当ではない。都合が悪ければ不当ということなんですかね。それでは法治国家の体をなしません。ですから、そういう感覚的な言葉で議論をしていこうというのは、誤りだと私は思っています。

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小野晋也氏筆

■教育基本法改正と「いじめ」「必修逃れ」の問題

――ところで、民主党は、「いじめ」や「必修逃れ」なども、教育基本法改正の問題と連動させようとしていますが、無理があるのではないでしょうか。

 もちろん、 いじめ問題や必修逃れ、あるいは最近問題になっている、タウンミーティングでの「やらせ質問問題」も、教育基本法の問題と1割2割ぐらいのところでは重なりあう部分があると思います。

 ただ、教育基本法の議論をしようという目的で立てられた教育基本法改正特別委員会で、そういう問題ばかりを取り上げ、質問の時間を使い切って、「本質の議論をしていないから、まだ通すわけにはいかない」というのは問題だという気がしますね。申し訳ないけれど、良識的な審議を行っている姿とは思えません。

 1割2割の質問時間を、教育基本法につながる問題として割くことは否定しませんが、それを中心にして議論をしておいて、本質論を議論してないからダメだというのでは、いつになったら本当の議論に入っていけると言うのでしょうか。

 誤解を恐れずに言うならば、結局、野党には、教育基本法そのものの議論をやるだけの能力と覚悟がなかったのかもしれないという見方すらできるでしょう。

 根っこの議論をする力量がないものだから、枝葉の議論でお茶を濁して、組織に対して、「自分たちはこれだけ抵抗したんだ」という言い逃れをするための時間の浪費だったと見えるところも残念ながらありますね。

――基本法は10年先、20年先を見据えた議論であり、いじめ問題、必修逃れは、いますぐにやらなければならない問題です。基本法をまず通して、そのあと、細かい法案に落としていくときに、即効性のある手を打っていけばいいのでは?

 そうですね。このいじめ問題、必修逃れの問題は、基本的には文部科学委員会でやるべきテーマですね。教育基本法改正特別委員会で大きく扱う問題ではないような気がします。

――今後の参議院における論議はどうあるべきでしょうか。

 希望を言うならば、教育というのは、いかに子どもたちを育てるかですから、その視点に立っての基本的な問題をきちんと論じ合っていただきたいと思います。

 そして、基本法の法文は変わらないとしても、そこで行われた議論を、その後、具体的な法案修正に展開していくとき――たとえば、学校現場をどうするとか、教育委員会をどうするとかいう議論のなかで――反映していくべきでしょう。そのためにも、十分な思想・哲学に立脚した議論を誠心誠意していただきたい。

 とにかく、目の前の子どもたちが、いろいろな問題のなかで苦しんでいるのは事実です。ですから、そういうものを解消するために、どういう日本の教育をつくり上げるべきなのか、まずは原理原則論の議論を積み重ねておくことが、将来、日本の教育に大きな意味を持つに違いないと思います。

――国民の中にはもう少し時間をかけて論議しては、という意見もあるようですが……。

 これまで60年も一字一句も変えないでほったらかしてきたわけでしょう。それがやっと改正できる段階がきた。このチャンスにこそ、改正して、悪いところがあれば直していけばいいんですよ。憲法のように、衆参それぞれ3分の2の賛成が必要で、さらに国民投票にかけなきゃいけない、というわけではない一般法なんですからね。

 いまの段階で慎重にいいものをつくろうと言っても、これからも時代が移り変われば法律修正が必要になります。だから、いまの段階で最善というものをまず通しておいて、さらに必要ならば、改めてそれを直していけばいい。

 アンケート調査によると、「76%がもっと時間をかけるべきだといっている」という意見もありますが、すべての国民が十分にこの教育基本法の内容を理解しているというわけではありません。それをことさら民意だと重視しているマスコミ報道のあり方にも問題があると思います。


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オーマイニュース(日本版)より

※引用文中【画像省略】は筆者が附記

この記事は【特集】安倍政権点検に掲載されました。


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