母豚の咀嚼行為の意味とは?
1年のうち半分以上が25℃の「夏日」を記録した鹿児島もここ数日でぐっと気温が下がり冬の気配が見えてきました(もうすぐ12月だから当たり前と言えば当たり前なんですが)。
今くらいの気温が下がる時期に現場に行くと、分娩を待つ母豚たちがいる豚舎(妊娠舎や母豚舎など呼び方はさまざまです)では母豚たちがクチャクチャと口を動かす行為が目立つ印象があります。いわゆる咀嚼行為と呼ばれているものです。
ずっとクチャクチャと口を動かしているので、口の中で唾液と空気が混ざり合ったものが泡となって、それが上の写真のように洗顔フォームのようなカタマリになっていることもめずらしくありません。
なぜ母豚は咀嚼行為をするのか?
これについては大きく3つの説があります。
1.お腹がすいて何か食べたいという気持ちが現れたものとする説
2.何かしらストレスを感じており、それを紛らわすための行動とする説
3.退屈しのぎという説
空腹もストレスのひとつになりえるので広義では1と2は同じ原因であると言えないこともないのですが、一応この3つの説がよく挙げられます。
個人的には冒頭に述べた通り、比較的気温が下がり始めた頃から目にすることが多い印象があり、飼料から得たエネルギを熱産生にも回さなければいけない分お腹が空くのが早くなるのでは、ということから1.の説が有力ではないかと感じています。
海外の養豚関係の情報が充実していて私自身もとても参考にしている「pig333.com」というサイトがあります。このサイト内には定期的にリリースされている「Photo of the week」というコラムがあります。ある症状の写真(剖検写真も含む)を取り上げて、この症状の原因はなんでしょう?とクイズ形式(三択)でアンケートに答えさせるもので、すぐに答えとその分析(何人の人がどの答えを選んだか)、そして簡単な解説というのをワンセットにして提示してくれます。いたってシンプルな内容ですが実際の症例を学ぶことができる素晴らしい内容でとても重宝しています。
この「Photo of the week」の10/18のコラムで母豚の咀嚼行動が取り上げられていました(ヘッダーの写真はこちらの記事を使わせていただきました)。
https://www.pig333.com/photo-of-the-week/18-Oct-2024_342/
選択肢は、
1.歯の問題
2.常同行動(退屈しのぎ)
3.空腹
の三択で、コラムでは2の常同行動(退屈しのぎ)を正解としていました。
この問題では正確には柵を噛む行為(Bar Biting)の原因を問うているので、厳密には咀嚼行為とは違うかもしれませんが、解説では空腹も原因となりえるともしておりその本当の原因はそれこそ母豚本人に訊いてみないとわからないというのが真実かもしれません。
2024年5月には咀嚼行動に関する新たな解釈とする研究発表がありました。「Social sham chewing in sows?」のタイトルで発表された論文で、見知らぬ母豚と遭遇した際に咀嚼行動が頻繁に観察されることから、なにかしらの母豚間の社会的意味合いがあるのではとしています。
これも真相は母豚に訊いてみないとわかりませんが、興味深い考察だと思います。
「Social sham chewing in sows?」https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38679342/