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幽霊

幽霊はいないと思う派です。

当然みた覚えもないのですが、なにより、幽霊が生まれちゃう仕組みがあると思いたくないからです。

よく聞く幽霊の話は、この世に未練があって…とかいうものだ。しかし未練がまったくないで逝ける人間なんているだろうか?怪談話に登場する幽霊たちも、ちゃんとお葬式をあげてもらえなかった人だけ、というわけでもないだろう。未練の度合いなんて本人にしかわからない。なのに、勝手に「あそこで死んだ人間がまだ苦しみながら彷徨っている」なんて言われていたりする。

一応、そこそこの年数を生きてきたので身内や知り合いの死も経験してきた。人間が死後に幽霊になって彷徨うなんて仕組みがあってほしくない。見送ってきた彼らがそんなふうになっているかもしれないなんて、考えたくもない。そういう気持ちもある。(同じ理由で、火葬中に熱のショックで生き返っちゃうことがあるとかいう都市伝説も嫌いだ。誰が言いだしたか知らないが、最初に考えた奴も嫌いだ)だから、幽霊なんていられては困るのである。

あくまでそういう観点から…いや怖いとかじゃなくて…いや違う怖いとかじゃなくて…怖…うるせぇいねえもんはいねぇって言ってんだろ!やめろよそういうの!こんな気持ちで夜中に尿意もよおしたらどうすんだ漏らすぞ!

まあそんなわけで、もちろん上記の理由もあるけど、なによりマジでいられたら怖いんでいないと主張しています。幽霊いるかいないかの話では、冒頭みたいな「いないと思う派です」というよりは「ハァ?いねーし!(半ギレ)」が正しい答え方になります。いたら怖いだろふざけんな。

そういうわけで、私はあくまで幽霊いない派なわけですが。いない派だけども、ちょっと昔あった話。

けっこう前になるが、当時の職場の友人に「そういやここから近いところに結構有名な心霊スポットがあるんだぜ」と聞かされた。そうかそうか。私は幽霊なんていないと思う派だが、一応聞かせたまえ。絶対近づかないようにするから。幽霊なんていないけどな。そんなスタイルで私は友人の話を聞いた。

地名はぼかすが、▲沢(仮称)という場所にある旧道トンネルが「でる」と有名なのだそうだ。そう言われるようになった由来は忘れてしまったが、地元では本気で夜には近づくなと言われている場所らしい。

それとは関係ないのだが、当時私は職場から車で1時間ほどかかる市街地にある雑貨屋にちょこちょこ通っていた。当時ハマっていたハンドメイドの材料が安く買えたからだ。しかしその店は田舎ということもあって閉店時間が早く、夜の7時には店が閉まってしまう。仕事が終わってから車を飛ばしてなんとか6時半過ぎに到着、閉店までは結構ギリギリだった。数度通う内に、なんとかもっと早めにつけないものかと、私は新たなルート開拓を目論んだ。(休日に行けばいいじゃんという話なのだが、休日はひきこもりたい派だった)

そういえば、カーナビのルート検索設定が「一般道優先」のままだった。「距離優先」にしてはどうか。そう考え、さっそく設定を変更し「距離優先」ルートを検索してみたところ、見事に予想の総距離が5キロほど縮まっていた。たった5キロと思われるかもしれないが、ここで大事なのは、裏道的な山を通る道路メインのルートが選ばれたことだった。アフター5の時間帯の一般道の混雑が避けられれば、かかる時間は5キロ分よりきっと短くなるはずだった。

そして数日後、私は仕事終わりに意気揚々と新たなルートをカーナビにセットし雑貨屋へ向けて出発した。

…いや、うん。もう大体話の流れわかるだろうけど、暇だったら一応見てって。

カーナビのルート案内の声に導かれるまま、私はいつもだったらまっすぐ進む道路を左折した。おっと。もう山に入るのか。

街灯が一気に少なくなった道に多少びびった。たしか季節は11月頃だった。もう日も短くなってきている頃合いで、みっしりと杉の木に迫られる山あいの道は真っ暗だった。しかし前には別の車も走っている。こういうときに先導車?がいるのは心強い。できれば山を抜けるまで一緒にいけたらいいなあ。

と思っていた矢先。心強いと思っていた先導車はあっという間にスピードをあげて山道を駆け上がっていった。地元民だ。地元民スピードだあれ。テールライトの光も見えなくなった。

「…」

私も田舎生まれなので、山あいの道路は慣れている。慣れてはいるが、やっぱり今まで走ったことのない道は緊張する。しかも思ったより古くて狭い道路だこれ。斜面側にあるガードレールもだいぶ汚れて老朽化している気がする。結構な斜面に緩いカーブが延々と続く。気づいたら街灯はほとんどなくなっていた。空調とタイヤの音が妙に大きく聞こえた。

…帰ろうかな…。

そんな考えがよぎった。カーナビは「しばらく道なりです」と言ったきり黙っている。大体、延々カーブが続く山道では速度がだせない。これでは一般道を通るのとほぼ変わらないではないか。しかしもう無言でそこそこの距離を走ってきた。いまさら引き返して下るくらいなら…と色々と考えながら車を走らせていたところ、ふとカーナビに表示されている地名が目に入った。

▲沢。

「…」

背中に汗がぶわっと浮いた。OK。わかった。もしこのカーナビが「トンネル通れ」とか言い始めたら引き返して帰ろう。絶対に帰ろう。
私は少しでも恐怖に抵抗すべく、カーオーディオにはいっていた水曜どうでしょうの名曲「1/6夢旅人」をループ設定でかけ、山道をぶっ飛ばしながら歌い始めた。

「せぇえええええかいじゅううをぼぉおおーーくらのぉぉおーーッ!!なみぃいいい↑だぁで埋めつくぅうううしてええええーーーーーッッ!!!」

もはや絶叫に近い歌い方だった。重く響くタイヤの音を聞きたくなかった。頭のなかにでてくる、「カーブを曲がった瞬間になんかいる」みたいな妄想を振り払いたかった。

そして6回くらい世界中を涙で埋め尽くしたところで、ふと杉山が開け街の明かりが見えた。あの安堵感はすごかった。マジで「助かった…」という心持ちだった。私が勝手にびびっていただけで何もなかったし、所要時間も結局一般道ルートとほぼ変わらなかったが、恐ろしく長い時間を過ごした気分だった。

結局いつもと変わらない、6時半すぎの到着となった。雑貨店の駐車場に車を停めて少しぐったりとしてしまった。いやもう疲れた。さっさと買い物をして帰ろう…と運転席から出ようとドアに手をかけた瞬間。

バンッ!!

破裂音のようなものと共に勢いよく指が弾かれた。

…え?何いまの?

びっくりしすぎて心臓が壊れるかと思った。
また背中から汗がにじんだ。弾かれた衝撃を受けた中指がジンジンと痺れていた。静電気?ドアの取っ手部分は車の外側ならまだしも、車内側である。当然素材は金属ではない。季節もまだ11月でそこまでがっつり乾燥もしていない。そんな中で破裂音がして指が弾かれるレベルの静電気?
再びそっとドアの取っ手にふれると今度は何事もなく開けた。そそくさと買い物を済ませ、そのまま帰路についたが、中指の痺れは消えなかった。この中指の痺れはそれから3日間おさまらなかった。(マジで2日目ぐらいに病院に行こうかと思った。)

…は?幽霊なんていねーし。

その主張をより一層強く持ったグレーさんでした。ちなみに実はもうひとつくらいこういう体験はありますが、それはまた次の機会に。いや幽霊なんていねーし。マジで。