8月1日

夢の国

夢の国経験が浅いです。

ディズニーランドが2回、ディズニーシーが1回。しかもディズニーランドのほうは小さい頃に行って3Dシアター的なアトラクションでギャン泣きし、再戦は中学の修学旅行だったが、クソ寒&雨降りの最悪のコンディションかつ、とあるアトラクションで不注意から小指の爪が剝がれかけるケガを負い夢の国を抜け出し病院へGOするなど、あまり夢が見られていなかった。

ようやくまともに堪能したのが大人になってから友人と行ったディズニーシーのほうである。あまりディズニー作品を見てこなかったタイプだったので(当時はライオンキングしか見たことなかった)楽しめるのか不安だったが、どっこい入園と同時に思い切り魔法にかかった。秒で浮かれたマスコットの耳付き帽子を買ってかぶり、もう歩いているだけで楽しかった。アトラクションを楽しみ、水上ショーに歓声をあげ、おみやげを買って大いに堪能した。そしてゲートでた瞬間に「なんだこれはぁああああッ!!」と被り物を脱ぎ捨てた。魔法やべぇわ。

そんなシーの思い出もはや3年近く前である。最近仲良くなったお友達がディズニーにかなり詳しいとのことなので、そのうちプロの案内を受けながら夢の国に行きたいと思っています。

そんな夢の国。ディズニーランドのシンボルになっているシンデレラ城。そのモデルになっているのはドイツにあるノイシュバンシュタイン城というメルヘンなお城…というのは有名な話である。

※フリー素材お借りしました(http://sozai-free.com)様

だが、このノイシュバンシュタイン城そのものが、実はとある人物の夢そのものなのである。…って書いてもいいものなのかしら。ここからは私が昔読んだ本の記憶と、ほぼウィキペディア情報になるので、まあ「…って友達が言ってた」ぐらいの気持ちで聞いてください。

このいかにも中世の城といった荘厳な外観のノイシュバンシュタイン城だが、実は1886年=明治19年に出来上がっている。あらやだ近代。何百年も建築してたとかでもなく、建築の期間も20年ほど。見た目も中世の石造りっぽいが、鉄骨+コンクリート&モルタルがメインで使われているのだ。

建築を命じたのは(当時まだドイツになっていなかった)バイエルン王国の王様、ルートヴィヒ2世という方である。彼は幼いころから中世の騎士物語や神話に魅了されており、大人になって王位を継いでからも、その夢の世界を現実に再現すべく時代錯誤の豪華絢爛な建物をつくりまくってしまったそうだ。ノイシュバンシュタイン城もそのひとつであるが、見た目にステータスを全振りした結果、居住性もあまりよくなく宮殿としても使えず、要塞として使えるわけでもない…という、ただ本当に「趣味」だけで造られたらしい。まず、建築にあたっての全体像のデザインから、建築家や技術者ではなく宮廷劇場の舞台装置や美術デザインをしていた画家に依頼しているという見た目完全重視っぷりであった。なんということでしょう。匠の技が光ります。

しかし見た目重視とはいえがっつり建物を建てるのである。当然金がかかる。実用性のない自分の趣味に国の金をつぎ込んでいるわけで、いくら見た目が美しいものができようが評判はよろしくない。そんなルードヴィヒ2世についたあだ名が「狂王」である。実のない建物ばかりを造りたがる浪費家の一面からだけではなく、普段の奇行もそう呼ばれる所以になったらしい。ルートヴィヒ2世は中世フランスをおさめたルイ14世を敬愛していたが、ルイ14世の肖像画を前に客人としてもてなし話しかけながら食事をとったり(ちなみに「太陽王」と呼ばれたルイ14世と対になるようにと、自分のことを「月王」と称していたそうな)、夜中にソリに乗ってアハハウフフと遊んでいたりと…。現実のバイエルン王としての統治の緊張感が増すごとに、それから逃れようとしようとするように、ますます自分の世界にのめり込んでいってしまったらしい。

そんなルートヴィヒ2世は後に精神病と診断されて、王の座から降ろされている。その後すぐに身柄を移された先の城近くの湖で、水死体で発見されたそうだ。その死については色々憶測されてはいるが詳細はいまだに明らかになっていない。(精神病の診断そのものも、どちらかというと国の経済状況などを考慮して「なんとかアイツ王の座から降ろさないとヤバイわ」的なものが先行して、バイエルン首相が医師たちに診断書を書かせたと言われているそうだ。)

その死の報せを受けた、ルートヴィヒ2世と同じ一族出身で、かつて親しい間柄だったオーストリア皇后エリーザベトは「彼は決して精神病ではありません。ただ夢を見ていただけでした」と語っていたそうだ。

狂王と呼ばれながら夢の世界を追い続けたルートヴィヒ2世であるが、そんな彼の作った城が今やモデルとなり形を変えて、現世の夢の国のド真ん中に美しくそびえたっているのもまた皮肉というか何というか。

同じように、本物のノイシュバンシュタイン城もルートヴィヒ2世の死後すぐに国民に観光地として開放されたそうだが、ルートヴィヒ2世本人は生前「私が死んだら、この城も破壊してくれ」と言っていたという。美しい夢は自分だけのものにしたかったのかもしれない。

それでも、もし彼をいまのディズニーランドに放り込んだら、「そう、これだよこういうの!」と大はしゃぎしてくれたりしないだろうか。

王には向いていなかったかもしれないが、孤独な夢想家の残したものが、ディズニーの城のシンデレラ城のデザインへその姿を変え、いま多くの人を現実から切り離し夢を見せる魔法の国に繋がっているのである。私も創作活動をしている身として、自分の頭にあったものが人に喜んでもらえる瞬間がとても嬉しいのを知っている。自分のなかだけにしまっておくのも良いが、「ほら貴方の残したバカみてーな城がいまやこんな夢の国のシンボルのモデルですよ、すごいっすよ」と教えたい。それを知ってもらって、ルートヴィヒ2世さんには夢の国を全力で楽しんでほしい。あの浮かれたデザインのバケツ一杯のキャラメル味のポップコーンでも食いながら。

それこそ夢物語でしかないですが、そうだったらいいなあと思ってしまうグレーさんです。どうぞよろしく。