忘れすぎて怒れない

 恋愛嫌悪が激しめです。自分はAロマンティックだ、なんて言いながら、なぜこちらが否定のAをつけなくてはならないのか不満に思っている。恋愛をする側が何かのラベルを名乗るべき。

 恋愛感情が実在すると信じていないから、誰かが恋愛をすると真剣に止めていた。

「恋愛はよくない。ひとのプライバシーをしんがいしたり、ころしあったりする。あぶないからよせ。」

 もしもクラスメートが、UFOを呼ぶために他人の畑にヘリポートを作ろうとしたり、宇宙人に会うために米軍基地に侵入したり、幽霊探して廃墟に立ち入ったりしようとしたら止めるように、真冬の煙突でサンタクロースを待ち伏せしてたら止めるように、私は恋愛をしようとするひとを止め続けてきた。

 恋愛というのは、お話のなかのことだから現実と混同して実際にやろうとしたりしてはいけない。私の忠告はしかし誰にも届かず、クラスメートたちはときめきという名のかめはめ波の練習に興じていて、中学生くらいになると先輩とかめはめ波を打ち合う子も出てきた。止めても無駄だ。古文の教科書にさえ、恋の歌があふれている。ひかがくてきだ…

サンタクロースはいないとかれらが気づく日が来るのを図書室でじっと待った。

 高校は私服の学校に進んだ。クラスという感覚があまりない学校だったし、人付き合いが私は全然なかったので、恋愛なんてものの気配すら知らずに過ごした。同じ学校には、よその高校を中退してまた通い始めた人もいたし、トランスジェンダーの生徒もいたし、屋根裏には鳩がたくさん住み着いていた。ボロいけどなかなかいい学校だったと思う。私はもっさりと目立たぬ姿で勉強ばかりしていた。

 Aセクシュアル界隈の話題を追うのは最初は面白かったが、私は恋愛嫌悪が高じて恋愛という言葉を聞くだけで機嫌が悪くなるし、恋愛感情が存在する前提の話にはあまり付き合いたくない。もうそれを、私がどんなものとして経験してきたのか、昔の出来事すぎて思い出せない。忘れすぎて何も怒れない。すごく嫌なことがかつてあった、という微かな記憶はあるのだが。


 もうアセクシュアル界隈の話題を追うのはやめよう。

 ただ猫に尽くし、酒を飲む日々だ。