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凄まじいほどの虚しさ。まあ、いわゆる「教育虐待」のこと《前編》

2021年4月某日に見た夢

 学校でテストを受ける夢を見た。みんなは教室内でテストを受けていたが、私だけテスト用紙を手にいろんな教室を覗いてはウロウロ回り、廊下で大人になってから友達になった女性に出くわし、その女性にテストを解いてもらったりした。終了時刻になって、適当な教室に入り回答用紙を提出した。
 回収される用紙を見ながら、「次はちゃんと勉強して自分の実力でテストを受けたい」と思った。でももう自分は高学年だから卒業まであと1回しかテストがない、と気づいてサーッと血の気が引いた。
 学校生活を無駄に過ごしてしまった。焦りと虚しさを感じながら目がさめた。

 夢の中の、風景と友達が横にいるリアルさと感情がそのまま体に残っていたので、ベッドの中でそれに浸った。実際の自分の高校生活のことが浮かんできた。丸々3年間、学校の勉強をしなかった。しっかり3年間、まったくしなかった。ただ休まずに学校に行った。放課後の友達との遊びやおしゃべり、学園祭や部活、授業中みんなのウケをいただいて自己承認欲求を満たすための野次、学校行事での舞台設置や漫才、男子校の生徒との恋愛、美大予備校での絵の勉強は思う存分やった。だけど数学とか世界史とか古文とか英語とか学校の勉強だけはガッポリやらなかった。毎年、進級できるギリギリを保って、遅刻もしまくって、高3の時はほとんどの授業で寝ることで時間の経過を待った。

「中学受験はしない」と反発した

 小学4年の頃から、将来は漫画家になりたいと思っていた。誰にも言わないけど、力強く希望していた。テレビドラマやバラエティやドキュメンタリーを観てそれについてノートにメモしたりするのも好きで、毎日観たい番組があった。漫画を読むのも大好き、漫画を描く時間も必要だったし、友達と駄菓子屋に行ったり公園で遊ぶのも忙しかった。
 だけど5年生になった時、私立中学を受験する、と母親に言われ、塾に通い、家庭教師と受験勉強をしなきゃいけなくなった。放課後は週に1回も友達と遊べなくなった。
 私は「観たいテレビがあるから嫌だ、受験はしない」と自分の気持ちを親に言った。母は「わかった、ビデオに録画しておくから、だからお願い、受験して」と懇願してくる。「嫌だ。受験しない」と続けると、母は巨大な声で「公立の中学に行かなければいけなくなるんだよ!!」と、具体的に公立の何が問題なのかは話してはくれずとにかく公立に行ったらとんでもないことが起こるみたいなことを理由に「中学受験するんだよ!」とまくし立てた。
 それでも私は「公立でいい、受験はしたくない」と何度も言った。母は「親が受験させてやるって言ってるのに、受験しないなんて、おかしい。お前がどれだけおかしな事を言ってるか、学校の先生に電話して聞いてやる」とムチャクチャなことを言いながらこちらに受話器を見せつけて脅すようになる。脅される側は、第3者を出してこられるとパニックになってしまう。私は根負けして、受験することになった。
 
 塾に行く前、母親に「録画しておいてよ!絶対だよ!!」とキツく言う。小5の、11歳の私の目がつり上がってくる。自分の学力に合っていないスーパー高偏差値塾に週3で通わされ出した私は、塾では地蔵のごとく全神経を殺して過ごし、家に着く頃には目がつり上がり、全身で憤慨を表現しながらちゃんとドラマが録画されているかVHSをチェックする。母親のほうは急に腰が低くなり、ヘラヘラと、へえこら、ハイハイやりますよぉニコニコ、な態度をする。それが私の体内のコップから、大量の生理的嫌悪を溢れ出させる。カッカと頭が沸騰していて、目に血流が集まってくるような怒りと悲しみの気持ちで観るドラマ「ツヨシ、しっかりしなさい」。面白いと思えなくなってしまい、そのうち観なくなった。

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