パンテーンのCMが気持ち悪い


◆まえがき◆当時を振り返って

 このコラムは2016年にテレビでたくさん放送されていた「パンテーンシャンプーCM バージンヘア対決編」(クリックすると動画を見ることが出来ます)についての違和感を書き、2016年3月10日に公開したもの。
 2016年3月当時、このコラム連載をいつも読んでくれていた方からの共感の声はあったが、このCMに対して炎上騒動が起きたりクレームが殺到して放映中止になったり等はなかった。じゃんじゃん流れていたが、特に話題にならなかったCMである。
 
  2020年5月現在の最新のパンテーンシャンプーのCM「新しいパンテーンはじまる。さあ、この髪でいこう。」を見てみると、この4年の変化を鮮明に感じることができる。
 この二つのCMで一番大きい差は、金髪に染めているりゅうちぇるを起用し、黒柳徹子に「好きな色を楽しんで」と言わせているところ。4年前は、パーマやカラーを繰り返す女優の髪より、何もしていない女子中学生の髪のほうが「勝ち」という内容だったのに。
 さらに、この数年で世の中で話題になり出した、就職活動でみんな同じ格好をしなければならないことや学校でのブラック校則の非合理に対する抗議も、このCMには反映されている。
 CMは、作り手の価値観が出過ぎてしまい観ている側とズレることもあるが、このパンテーンの2つのCMは、世論やその時代の雰囲気に合わせ作られている印象を持つ。
 いまこのコラムを読み返すと「キモい、キモい」言い過ぎな感じがして、そんなかなあ? と自分で思う。だけどそう感じるのは、2020年の今、実際に世の中が変化し、パンテーンが黒柳徹子を起用し、私が思っていた「キモい」の部分を間接的に払拭してくれているという実感があるからだと思う。 
 それから途中で「偏ってる変な人と思われるのを危惧する」部分が出てくるが、この当時はこういうコラムを書く度にいろいろ書かれてるのを発見していたので、疑心暗鬼になっているさまが現れています。それでも書いていたのはよっぽど、世の中に違和感のあるモノがあふれていたんだと思う。 
  てな感じで2016年3月「パンテーンのCMが気持ち悪い」をどうぞ。


◆パンテーンのCMが気持ち悪い

 パンテーンシャンプーの「バージンヘア対決」っていうCM、ものすごく気持ちが悪い。最初見た時に「あ? 気持ち悪ッ」って思ったけど、なんか見なかったことにした。
 その後もネット(勝手に流れてくる)やテレビ(勝手に流れてくる) で見ても、その間だけは心を無にしてた。
 でもやっぱ、なにが気持ち悪いのか、書きたくなりました。

 CMの内容は、「パーマやカラーを繰り返す女優の綾瀬はるかの髪と、バージンヘアの女子中学生の髪、同じくらい輝いてるぅ?」というもの。「バージンヘア」とは、パーマや染髪などの加工を一切したことがない髪という意味だそうだ。
 つまりいろいろ髪をいじくりまくった女優でも、パンテーンを使うことによって、女子中学生と同じバージンヘアに到達できます、という主張をする広告なんですよね。
 どこが気持ち悪いのか、ってどこから説明していいか分からないくらいなんだけど、まずやっぱ「バージンヘア」って言葉と、その代表として女子中学生が一人だけ出てくるところ。セーラー服で。ほんとキモい、なんでこんなにキモいのか分からないくらいキモい。

 なんで単独の「女子中学生」なのか。高校生じゃだめなんですか? 30代40代でも髪を染めたりしたことない「バージンヘア」の女性はたくさんいるんじゃないですか? その人じゃだめなんですか? 男性もそういう人たくさんいますよねぇ? 赤ちゃんや幼児や小学生じゃだめなんですか? むしろ本当のバージンヘアって野球部員の5分刈りの男子が適任なんじゃないですか? あれ生えたてじゃないですか、生えてすぐ刈って生えてを繰り返してるんだから、野球部員の1センチくらいの髪が人類で一番輝いてるんじゃないですか? それに比べたら女子中学生の髪なんて、整髪剤とかドライヤーで痛みが生じてる確率高いんじゃないですか? 野球部員じゃだめなんですか? どうなんですか? と蓮舫さんばりに質問攻めしたくなる。

◆なぜバージンヘア代表が女子中学生なのか

 なぜ「バージンヘア」代表が、男子中学生でも男子高校生でもなく女子高生でもなく女子中学生で決定したのか、を考えてみる。
 小学生だと子どもすぎて、綾瀬はるかが髪の毛で対決ってちょっと意味わかんない、高校生・大学生だと髪の毛いじくってる人が多いだろう、ってツッコミが入りそう、っていうので女子中学生になったのだろう。
 つまりここで代表を女子中学生にするのは無難な選択だと言える。
 でも私がキモいと思うのは、その「バージンヘア」の印象が、そのまんま「バージン(処女)」の印象に繋がってんじゃないの、っていうところです。私はそう感じるんです、このCMを見ると・・・。

 言ってること分かりますか!? もうここからは、「やっぱ田房永子って偏ってるよな、頭おかしいわな」っていう感想も出てくる気配ビンビンなんで、ここまでの私の言ってることが分かる人だけ読んでくださいね、ここからは!
 つまり「アイアム バージン」って言い切れる、言っても違和感がない年齢、それは中学生なんですよ。
 「バージン」という言葉は、「バージン肌」とか「バージンな唇」とか、美容界で普通に使われてる言葉だから、このCMでもその使用例に従って「バージンヘア」って言ってるだけなんですよね。だから「バージンヘアのバージンという部分を、『処女』という意味で捉える人は頭おかしい」みたいな前提があるわけなんですよ、そういう前提を感じるわけです。
 
 でも、どうしても私は、バージンという言葉を使う時にその代表で「セーラー服姿の女子中学生」が登場することに、無条件でウゲエ~って思ってしまいます。

 このCMで「バージンヘアの女子小学生」って言ったらなんか生々しくないですか? 間違ってないのになんか居心地の悪さがある。
 逆に高校生・大学生だと逆の意味で「いやいや、そうじゃない人もいるでしょう(髪いじくってる人もいるでしょう)」みたいな感じで別の違和感がある。
 その違和感って、「バージンヘア」を「バージン(処女)」に変えても成立すると思うんですよ。
 だからこのCMを見た瞬間にそういう、「バージン(処女)という言葉で形容しても違和感のない存在=女子中学生」っていう、誰も発表したことのないのに実は大衆が心の中で共有している印象の方程式を具現化した映像を見せられた気がして、気持ち悪~~と思ったんです。
 だってやっぱり「バージンヘアの男子高校生と女優の綾瀬はるかが、輝く髪対決!」とか「バージンヘアの建築業50代男性と女優の綾瀬はるかが、輝く髪対決!」って意味が分からなすぎて15秒じゃ足りないと思うんですよね。「バージンヘア」の定義は男子高校生も50代建築業の男性も同じなのに。
 「バージンヘア」という言葉と女子中学生の組み合わせは大衆の懐にスッと入ってくる、15秒で足りる。
 でも、そんなことを言われてないのに「処女」を連想して「気持ち悪~」って思うほうがおかしい、みたいな感じもつらかった。だからこのCMが流れてくると、感情を無にしていた。

◆女子中学生が女優に勝つってそもそも何?

 ここ10年以上、主演以外の出演は観たこと無いほどに日本の映画界・ドラマ界をトップで爆走する女優の綾瀬はるかが、なんで女子中学生のような髪にならなきゃいけないのか、対決しなきゃいけないのか、そもそも分からない。別によくね? 日本のトップのスーパースターとさ、そのへんの中学生を戦わせるってどういうことなわけ? 綾瀬はるかくらいお金稼いでたら髪のケアくらいどうってことないだろうし、本気出せば地球上最高レベルのヘアケア受けられるだろ。中学生よりきれいになるでしょ、ほんと意味分かんない。
 そもそも大人だって綾瀬はるかに人間としても社会人としても「勝てる」ヤツなんか少数じゃないのか? 綾瀬はるかがどんだけ努力してんのか観てりゃ分かるだろ。「白夜行」の時点で既に最高だろうが。その上2008年の「ICHI」なんて殺陣ができるようになってて知らない間にアクション女優にまでなってんだぞ。さらに髪なんて十分キレイなんだよ。誰が何によって綾瀬はるかに勝てるっていうんだよマジで。

 だからこそ、そこに「いくら綾瀬はるかクラスの女優でも、髪だけは女子中学生に劣っている」っていうメッセージを感じて、「バージンヘア」じゃないってだけで、綾瀬はるかの今までの業績も大した価値ありませんよね的な、つまり「バージン(ヘア)」のほうがそれを上回る勢いの価値があります的な、結局は女の価値って仕事とか地位じゃなくってそこですよね的な、そういうのを感じるんですよ!!! 
 っていかそういうことだよね?! そうじゃなかったらなんなのよこのCM!? めっちゃ気持ち悪いよぉぉ。

◆スーパースターと男子中学生の対決

 例えば嵐の誰か、大野くんが、男子中学生と肌のきれいさ対決みたいなCMしてたらどうですかね。メンズビオレとかのCMで。パンテーンと同じことだと思うんだけど、なんか変じゃね? 「だから??」ってなりません?  
 松井秀喜が男子中学生とキレイな肌対決! とか。イチローと男子中学生、汗臭いのはどっち対決! とか。
 ちょっといい例えが思いつかないんですけど、とにかくスーパースターの男と男子中学生をCMで美容対決させたりしたら、○○さんの実績をバカにしてんのか! みたいなことになると思うんですよね。だからCMとして成立しない。そんなものは作られない。テレビで流れない。
 だけど、女だと成立する。作られて、流れる。

 そこがすごく悔しくて、悲しくて、ムカつくし、気持ち悪いんです。

 そしてそういうことを感じる自分って、“歪んだ解釈”するオバハンって揶揄されそうっていうのも重なって、孤独感が高まり、誰か優しくしてくれ!! という気持ち悪い感情になるのも、このCMが流れてきた時の私の常です。

◆あとがき◆今に戻る

 てなわけで、2020年5月です。
 今現在、youtubeの「パンテーン公式 / PANTENE Japan Official」のページある動画、どれもいい感じです!

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