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ノンストップ 午前3時の子守唄

 

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12/2
HUNNY-BUNNY

ライブの演目は終了したが宴は続いていく。
今日は客兼ゲストとして来店した藤山さんは
あす福岡でライブだという。

「車で行くし、今日はもう飲めないなぁ。
 寝坊しそうだなぁ…」
とボヤいている。

「早く寝ないとですねぇ」
などと、私は返す。
まぁ、私も人のこと言ってられないが。

あすも「みどりの日」である。

そういえば、今時間は?時計を見る。

22:45

おやおやおや???

終電は乗り継ぎもあるため
新栄駅の出発は22:49である。

もうあと4分。こりゃあ間に合わない…。

 

気持ちを切り替える。
こういう時は電気が流れる早さで決まる。

今夜は職場に泊まろう。
何度か社泊したことはあるし。
明日も朝出ればいい。
シャワーもあるし、仮眠室も…

あ。

入館証を持っていないことに気付く。
そうだ。平日ならいざ知らず
土曜日の装備品しかないではないか。

警備を通して建物への入館はできる。
けれど、入館証必携の仮眠室は使えない。

最悪シャワーは、地下のを使えばいいが
寝るのは、ソファで仮眠になるなぁ…。

警備さんに説明しないと…。

んー…。ま、いいか。
これも何度かしているし。

ともあれ、考えるのやめて飲もう。
レコードからの音楽も変わらず素敵だ。

たくさん飲もうかな!
昨晩から止まんないなぁ!

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お酒を追加する。
おつまみで、カレーせんも頼む。

大音量でEGO-WRAPPINの
「サイコアルシス」が流れる。
脳内は幸福な物質が止まらずダダ洩れだ。
「やぁ~、良い時間だなぁ~」
軽く踊ったり、歌を口ずさむ。酒が進む。

みなと思い思いに談笑する。

 

ソファへ腰かけ店内を見まわす。
ベージュのロングコートを着た女性が
壁一面のレコードを丹念に見ている。
思い入れのある一枚を見つけたのか
しゃがみこんでスマホをかざしている。
写真に収めているのだろうか。

よく見れば、今日のライブの一番手
石黒文野さんのようだ。

物販の方へ戻るのを待ち、お声がけする。
「ドライバー」がとてもよかったので
CDを購入する。少し話をする。


うちあけばなし 石黒文野
(後日撮影)

彼女は滋賀県内でも京都寄りの
琵琶湖の西側あたりに暮らしているという。

彼女が聞いてくる。
「どちらにお住まいなんですか?」
「三重県です」
「え、この後(帰り)は…」
「終電、なくなっちゃいました」
と、笑って返すと、驚いた顔。
「あ、大丈夫です。職場行きますから…」

よくやるんですよ。
でね、職場は名古屋だし
歩いていけなくもない距離なんです。
ちゃをと寝るとこあるんですよー。

などと説明する。

ま、今日、仮眠室は使えないですけどね。

お酒があっという間になくなる。
おかしいなぁ。追加しようか。
ただ、泥酔だと翌朝辛くなる。

その前に、泥酔者は入館させてもらえない。
警備さんに門前払いされかねない。
元警備だったから、よ~く知っている。

ちょっと控えようかな。よし
「ハイボールお願いします」

この男は、翌朝までどこで誰と過ごすか
まだ知らない。

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酒を手にソファに腰かける。
すると、入口のドアが開く。

見やると、来店するは青い影。
ご存じ、あのお方の登場。

この日、伏見ローリングマンにて
菅野さんの奥さま、金谷好益さんと共に
ライブで在名しているのは知っていたが
こちらまで来て下さるとは
想像していなかった。

ギターを背負って、颯爽とあらわれた
高円寺の女王こと
のうじょうりえさんである。

控え目に、だが黄色い歓声で手を振る
あちらも、私に気が付き
「あー!」と手を振ってくださる。
いつもの輝くような顔に
「ガハハ」という笑い声。

変わらない笑い声と笑顔に
ハート撃ち抜かれない人って
いなくない?

「今日エガちゃんちに
 泊めてもらおうと思って!
 なので合流しましたー」

そう話す彼女と、実際に初めて会ったのも
ここHUNNY-BUNNYだった。

懐かしい。まだ、3年と経っていないが。
そんなことを思う。

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12/3 未明

店にはライブの後にも何組かお客が来る。
お店には馴染みの顔なのだろう。
何か楽しげに話をし、お酒を飲んでいる。

レコードが回り、スピーカーから流れる曲は
変わらずの大音量で最高の音楽が続いている。

日付も変わり、夜も更ける。

たくさん話した内容が、右から左に
ポロポロと抜けていく感覚になったころ。

「この後どうすんの?ウチ泊ってく?」
と、エガちゃんから声をかけられる。

エガちゃんは、奥さんと共に
演者、お客さん関係なく
広く知られている男性。
イベントを主宰することもある。
出会って2年ほどだが
音楽の嗜好がかぶるのだろう。
名古屋でライブハウスにいけば
だいたい顔を会わせる。

人懐こい、柔和な性格と感じていたし
面倒見が良いとは聞いていた。

けれども、私はただの客の1人。
演者でもなんでもない。
ちょっと自分の耳を疑てしまう。
ウチに泊まる?エガちゃんのお宅?

「いやぁ…(職場に泊まるので)」
と言いかけるも
「今日は創ちゃんも、のうじょうも
 皆、ウチ来るから。一人二人増えても
 別に変わんないし。どうする?」
と誘ってくださる。

突然のことで混乱していた。
ちょっとだけ、状況を天秤にかける。
職場と、(ほぼ知らない)人の家…。

ん~。

「にゃンさんとか、のうぴぃとか
 (グッナイ)小形も泊ったことあるから」
知った名前が出てくる。
ライブハウスでよく会う面々も
時折お世話になっているようだ。

ああ…そうか…、エガちゃんは
演者とか客とか、あんまり関係ないのだ。
1人1人と、目線をあわせて
向かい合ってくれているのか。
すごく、ありがたい。温かい。
無下にする理由はないなぁ。

ただ、自分はお泊りが怖いだけ。
ちょっとだけね。
そういうのに慣れていないだけ。
だいぶね。

よし、覚悟決めるか。
行ってみよう。
延長戦だ。

明日早いからそのことだけ伝えておこう。

「じゃあ…せっかくなのでお願いしようかな?
 明日、早朝にご無礼しますけど…
 なんだか図々しい気持ちもあるんですが」

「うん、わかった。
 じゃ決まりね?
 車の手配あるからさ」

 

えっ?えっ??

車??

歩いて行ける距離じゃないの?

私はてっきり…



緩すぎる、覚悟。

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01:40

店主の鯱さんにお礼を告げて店を出る。

HUNNY-BUNNYの前の道に
タクシーとエガちゃんのちの車が並ぶ。
ギターや荷物をやいのやいの言いつつ
皆はうまいこと積み込む。

2台に別れて移動となる。
石黒さん、のうじょうさんは
エガちゃんとタクシーへ。

駒音さんと菅野さんと私は
奥さんの車へ。

やはり場違いではないか?
遠慮と不安で少し目眩がする。
いや飲みすぎたのかな、酒を。

前には駒音さん。
隣には菅野さんがいる。


車内

私は口ばかりが軽くなる。
緊張を誤魔化してるんだろう。
夢のような時間の続きを見ている。

朝まで楽しめるだろうかという気持ちと
見知らぬ場所へ護送されている気持ちと。

乗り心地の快適さとは裏腹に
どんどん知らない土地に拐われるような
不思議な気持ちと面持ちのままで。



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2:00

名古屋市郊外
エガちゃんのお宅 到着

濡れた子犬のように震えてる原因は
寒さだけではなく。

アーティストでもないボンクラが
お邪魔していいのか。申し訳なさ半分。

いわゆる、友人宅へ泊まる経験が
私はほぼない、その純粋な恐怖半分。

玄関から建物2階へ案内され
広いリビングキッチンに腰を落ち着ける。
「眠かったら、男性陣はこっちで寝てね」
引き戸を開けた奥の部屋には
すでに布団が3つひいてある。

こんな感じで人を招く準備を
普段からしているのだろうなぁ。
祖母の家に来たような
安心感が湧いて出る。


暫くして、別班が到着。
「先ついてコンビニよってたー
 わー!広っ!ヤバ!広くないっすか!?」
のうじょうさんがレジ袋を机に置きつつ
感嘆の声をあげている。
どうやら、のうじょうさんも
エガちゃん宅へ初めて来たらしい。
奥さんが女性陣へ寝る部屋など案内する。
「お風呂、シャワー使ってね。男性陣も」
ありがたい。
女性陣は順にシャワー浴びるようだ。
私は銭湯に寄ったのもあるし
遠慮させてもらおうか…。

「僕らも買い出しに行きますか」
菅野さんたちと連れ立ちコンビニへ向かう。

歩いてすぐ近くにコンビニがある。
駅も2分とかからない好立地。
名古屋中心地から離れてはいるが
すごく暮らしやすそうな場所である。

深夜のコンビニにあるものは、
みんなうまそうに見えるね。

皆は酒や肴を選定。
私は烏龍茶と翌日の食料を見繕う。
朝と、昼飯が必要だ。

朝の行きがけに買ってもいいが、
準備できる時にしておく。
明日に慌てなくてすむ。


自分の酒は買わなかったが
結局、コンビニから戻ってから
美味しいごま焼酎の水割りをよばれる。

乾杯する。

「こんな完全にくつろぐと思ってなかった」
と、のうじょうさんが寝間着姿で現れる。
シャワーからあがったようだ。
石黒さんが入れ替りシャワーへ向かう。

少ししたら活動限界を迎えた駒音さん。
奥の部屋へ。お休みなさい。
気持ちをのせた、いい演奏だった駒音さん。
もう少しお話できたらよかったな。
また次回のライブの楽しみにしておこう。

石黒さんも、シャワーからあがり
湯冷めしないよう温かいうち別室へ。
奥さんも「先に休むね」と。
みなさん、お休みなさい。

3人とも起きる時には
私いないだろうなぁ…。


エガちゃん、菅野さん、のうじょうさん
それに私とで、晩酌。
何を話していたのか。
ただただ、楽しかったことは確か。


時計を見る。時刻は03:15

明日は始発だったか?
だとすれば、05:30には
ここを出発しなければならない。

「あしたも予定あるでしょ?
 少しでも休んどく?起こすけど?」
エガちゃんが尋ねる
「んじゃ、五時半に、、」
と言いかけるも、少し調べる。

明日も、と言うか昨日今日とだが
あいも変わらず「みどりの日」である。

目的地の最寄り駅には
08:30前後に着けばいい。いや、
その次の電車でも間に合うな。とすれば…

「六時半には出発するように起きますね」「あ、ちょっとは長く休めるねー」
「みなさんは?」
「朝までこのままで」

ありがとう。では、おやすみなさい…。
引き戸をそっと開けて布団へ。

駒音さんが三枚ある布団の最奥で
静かに横になっている。
部屋の奥を向いているので寝顔は見えない。
寝息も聞こえない。…生きてる?(失礼)

ライブはとてもエネルギーを使うらしい。
本人にしか分からないこととも思うし
人それぞれの疲労は推し量りようもない。
けれど、ステージに立ち、精一杯演奏した体が
隣で寝ている。なんだか不思議な気持ちだ。


少し開いている引き戸から
楽しげな会話がする。
声のトーンを抑え気味にしている
それだけで、優しい気持ちになる。
時折、のうじょうさんの
カラカラと明るい笑い声がする。

なんとも、不思議な時間だ。

午前3時の子守唄。

あぁ、これがそうか。

フッと意識を閉じる。

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06:15

起床。

子守歌は、目覚めのさえずりに。

駒音さんは、変わらず寝ている。

就寝時とは変わって
幸せそうな寝顔がこちらを向いている。
…ちょっと笑ってる。
無垢な寝顔は皆、めんこいもんじゃのう… 

起こさないよう、そっと起き上がる
のっそり、戸を開けると
3時間前から変わらぬ3人。

「…おはようございまぁす」
と言うと、のうじょうさんが驚いたように
「めっちゃ寝起きいいですね!」
と声かけしてくれた
「寝起き…うん、いいかも…」
テンションも低く
しょぼしょぼの私の顔を見て爆笑。
そんなのうじょうさんを背中に感じつつ
ふわふわと洗面所を目指す。

顔を洗っても、ぱっとしない顔だ。
元からか。まあ朝なんてそんなもん。
リビングへ戻り、荷物を担ぐ。 
「ではでは…」

菅野さんと、握手をかわす。
 「はぐさん。ありがとう
 しばらく会えないでしょうけれど」
「身体に気をつけて、奥さんにもよろしく」

…ずっと、菅野さんには
「はぐさん」だと『別人』の名前になるよと、
言うべきか迷っていた。
けれども「はぐさん」と私を呼んでくれるのは
もはや菅野さんしかいないので
大切に名前を頂戴したいとも感じている。
そのままでいいか。
呼ばれてわかればいいし。
『別人』の本人いたら混乱するだろうけど。
今は困らないから。

ハンドルネームについては
また今度、会った時に話そうかな。
呼びにくいことに自覚はあるし
語感でいけば「アルパカ」でもいいんだ。
そんな考えも浮かんだりして。


白銀の世界で、菅野さんらしい
豊かな気持ちで。どうぞ健やかに。
ハグは、再会までとっておこう。

入れ違いで、みな寝床へ行くようだ。
「おやすみなさい、またね」
別れの言葉としては
なかなかに奇妙なシチュエーション。
「のうじょうさんも、またね」
「なんかすぐまた会いそう」
最近誰かに言われたセリフに思えたが
まぁ間違ってはいない。
「その時はよろしくどうぞー」


階段を降り、エガちゃんにお礼を告げ
駅へ向かう。


西の空に残された夜の欠片



歩いて、2、3分
某駅

「あ。」

駅のホームへ向かっていると
名古屋方面への電車が発車していく。

まぁ、間に合うような予定にしてたし
乗れなくても問題ない。。

駅の待合室のベンチに腰掛ける

本当に2日間、止まらなかったなぁ。
いや、3日間か。
それで、まぁ、泊まってるわけだけど。
やぁ~、止まらなかったよなぁ…。


7分後に入線してきた列車へ乗り
名古屋経由で久居の先まで行こうか。


穏やかに1日を満喫


このあとは、いつもの土日の昼コース。
9時から16時まで「みどりの日」
おうちに帰ったのは18時くらい。


旅は、終わりたくないものですねぇ。




おわり





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