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H田さんの話~僕がファーストキャリアを辞めた理由

私は高校生の時からTVCMを見るのが好きで、海外のCMを集めたDVDを毎晩見ているちょっと変わったやつでした。他にマイケルジャクソンのPVも好きで、「将来は映像クリエーターになりたい」と高校生の頃から思っていました。

大学に進んでからも映像クリエーターになりたいという想いは変わらなかったので、映像制作会社に就職したいと思って就活してみるも、なかなかうまくいかず大学とダブルスクール的なノリでデジタルハリウッドのCG映像専攻に入校しました。
1年間デジハリで学んだあとはテレビ局の下請け制作会社に就職することに成功しました。記念すべきファーストキャリアを映像制作の編集マンとしてスタートしたのです。
といっても、小さな会社で社員数は5名くらい。私のようなたかが1年学んだだけの未経験クリエーターが即戦力として重宝される会社ですから自転車操業の零細制作会社の典型のような感じです。

その会社の社長(H田さん)が企画する番組は視聴率が高く、腕のいいディレクターだったと思います。H田さんはラーメン特集を企画させたら右に出るモノはいないと言われていて、テレビ局からとても期待されていたと記憶しています。

私が、夢にまで見たファーストキャリアを辞めようと思ったのはそのH田さんが理由です。H田さんはテレビ局のイメージをこれでもかというくらい体現されていた人でして、家に帰らないで会社に寝泊まり、何かしてる時に寝ちゃう。それくらいハードワークなんです。それで私はH田さんの「体臭」と「性格」に限界を感じたエピソードを一つご紹介します。

味にうるさいH田さん

上述の通り、H田さんはラーメン特集で高視聴率を獲る男です。
取材する飲食店には事前にお伺いして下調べをしていました。

ある日、私はH田さんについてくるように言われ、とある餃子屋さんに取材に行きました。
そのお店は10人程が入るくらいの小さなお店ですが、毎日のように人が並ぶお店でテレビ取材などはお断りしていると聞いていました。H田さんはどうやったのかわかりませんが、その店から取材OKを勝ち取っていたのです。
私もその店の餃子をいつか食べてみたいとずっと思っていたので、撮影前に味見させてもらえることになってとてもワクワクした事を覚えています。

H田「おい。お前みたいなやつはこの味の良さがわからないだろうが、じっくり味わうんだぞ。」
私「はい。ありがとうございます。…うまい!この餃子マジでうまいですね!…あれ?H田さん、醬油ダレここにありますよ?」

H田「お前、わかってないなー。俺はな、この餃子の種。食材の良さを楽しんでるんじゃねーか。醤油つけたら素材の味が消えちまうだろうがバカ野郎。」
私「なるほど…(さすがグルメ特集の鬼才と言われる男だ。)」

というやり取りをしてたら、奥から店主が出てきて

店主「どうです!?うちはね!秘伝の醤油ダレが自慢なんです!毎日毎日継ぎ足して作ってる秘伝のタレおいしいでしょ!」

これは予想外だった。S市でナンバーワンと言われる餃子屋の人気の秘密は秘伝のタレだったのだ。しかし、素材の味を楽しむために、餃子に一切タレつけてなかったH田さん。気まずい…と思っていた矢先。

H田「タレ!うまいです!」と言いながら小皿のタレを一飲みで飲み干したのだ。

帰り道に一切餃子の話はしなかった。



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