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思い出の喫茶店

私のペンネームは麦茶ですが、コーヒーが大好きです。

幼い頃、徒歩で10分のところに萬屋さん(何でも屋さん⁈)がやっとあるような穏やかなエリア(つまり田舎)に住んでいました。何にも楽しみがない中、両親が週末に連れて行ってくれる街の喫茶店での時間が大好きでした。

この時まだ3歳くらいだったので、コーヒーは飲めずにショーケースに入ったチョコレートトリュフを1個頼んでもらっていました。それを頬張る時の幸せは今でも覚えています。

それからしばらくして、父の転勤で8歳の頃に千葉県に引っ越してきました。相変わらず両親は喫茶店タイムが大好きで、ますます喫茶店に行く機会が増えました。

東京駅直結の八重洲地下街にある「アロマ」という喫茶店。父の職場が東京駅の近くになったのがきっかけで、よく連れて行ってもらうようになりました。

大好きなのは「コーヒーゼリー」。まだコーヒーを頼むには勇気が要る歳でしたが、なんとか大人に近づきたくて背伸びしてケーキやフロートなどは目もくれず。コーヒーゼリーを頼んでいました。

アロマのコーヒーゼリーは、コーヒーそのものが美味しいのでゼリーになっても雑味や酸味がありません。しかもしっかり苦い。甘さでごまかすなんてしません。ですから、冷え冷えのガムシロップとコーヒーミルクが付いてきます。

コーヒーに慣れていない小学生にとって、ゼリーの上に乗っているホイップクリームだけでは、あの苦さには敵いません。ホイップが無くなると、シロップとミルクをドボドボ入れてクラッシュして追い込みます。

大きめのグラスに入ったコーヒーゼリーなので「1人じゃ食べきれないでしょ」と言う親に勝ちたくて、クラッシュして追い込むのです。ホイップの上に乗ったチェリーが苦手で、母にいつも食べてもらっていました。

喫茶店タイムが好きだった両親は私が大人になりかけの頃、別々の道を歩むことを選びました。ですから、もう一緒にコーヒーを飲むことはありません。そういえば、20年近く前、私が結婚することを父に報告したのもアロマでした。スーツを着てわざわざ会いにきてくれた父は、急な娘からの告白に、コーヒーに入れようとしたミルクをネクタイにこぼして慌てていました。普段は冷静沈着な父なのに、笑ってしまいました。「そんな大事なこと、このタイミングで言うなよ」と、ミルクをこぼした事を私のせいにして怒っていたっけ。

アロマは大好きなお店なのに、家族で過ごした時間を思い出させるので、少し行き辛くなっていました。

先日、そんな思い出のアロマに久々に立ち寄りました。階段を少し降りる半地下の店内。茶色いテーブルと椅子。壁一面に飾られたコーヒー器具。昔ながらの「白シャツに黒ベスト」という店員さんのコスチューム。懐かしいメニューのラインナップ。なんにも変わらない空間でした。

もういい加減大人なので、コーヒーはブラックで飲むのが当たり前になっています。お砂糖やミルクは滅多に入れません。アロマでは、コーヒーをサイフォンで一杯一杯丁寧に淹れてくれるので、コーヒーを頼もうと心に決めて椅子に座りました。

座った瞬間、なんだかあの日に帰りたくなって、結局コーヒーゼリーを頼みました。もちろん最後はシロップとミルクを入れてクラッシュ。唯一変わったのは、チェリーを自分で食べられたこと。ついでに、思い出もしっかり受け止められました。

成長ですね。と、自分で自分に言ってあげました。

https://www.aromacoffee.co.jp/yaesu.html

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