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短歌企画を隅までしゃぶる

この度、短歌×誰デザ企画というものを行いました。宮田脈です。今回はこの企画に提出された短歌、イラスト、その全てを宮田なりの解釈を添えながら褒めていこうと思います。私のところには短歌に加えてその解説も集まっているので、みなさんが知り得ないことまで踏み込んでお話しできると思います。よろしくお願いします。
尚、なるべく誰がどの短歌を詠んだかはわからないようにする予定ですが、まあ限界はあるので、参加者全員のアンケートに答えた後に読むことを推奨します。それでは始めます。

①「寒いね」と赤い素足で笑う君
灰の飛沫とナイフを踏んで

ひとつめからこれなんですけど、これマジですごくないですか?レベル高くない?
イラストを見ていただいたらわかるんですが、冬の海がテーマになっているんですよね。それを、「素足」「飛沫」「笑う君」で想起させてくるんですよ。この繊細ながら大胆な表現力がマジですごい。そして灰からはシンデレラ、海とナイフからは人魚姫がそれぞれ頭に引っ掛かる構造になっているのでもう、シンプルなのに光景と登場人物がバシッと決まるんですよね。それでいてその情景も本当に素敵。きっと私達二人きりで、なにやってるんだろうねって笑いあって、いつになくはしゃぐあの子を見て、不意に綺麗だなって想う。冬の海は荒れていて、決して夏みたいに良いものなんかじゃなくて、だからこそ君がいつもよりとくべつに見える。なんかもうこれだけで良くないですか?これができるなら戦争なんてなくなるよ。
イラストめちゃめちゃ描きやすかったです。空気作りとかすごいうまくいった(自画自賛)ので沢山見てください。おねがいします。

②夢を見た。黄色い花を纏う夢。
綿毛になれず、ただ呻く夢。

この淡々とした中から滲み出る劣等感、最高ですね……。上の句だけ見れば希望の黄色にあふれた詩であり、下の句でそれを一気に落とされる、そういう構成のうたになっています。
黄色い花と綿毛というワードからおそらく出てくる花はたんぽぽなのですが、それを「纏う」なんて素敵な表現を使うほどの夢がこんな"悪夢"になることあるんですね!?ってなります。周りのたんぽぽが次々と綿毛になって空へと飛んでいく中、自分だけは地べたに這って見上げることしかできない。口からただどの言葉ともつかない音がもれる。それを体言止めでどこか冷静に、それでいて情緒的に魅せている良い一句です。
橘さんのイラストも素晴らしい。この短歌の「情緒」の部分をギュッと詰め込んで放してくれている。短歌の文体自体が淡白なのでその分剥き出しの感情が鋭利になって刺さるんですよ。まさに短歌の補足、外堀の埋めかたとして100点なイラストです。纏ったはずの黄色がイラスト内にほとんど描写されてないのもすごいですよね。もうこの子には黄色なんてどうでもよくて、綿毛の白しか見えてない、凄まじい解釈だと思いませんか?

③網を被され笑う君の笑顔が眩しくて
ベールのようだと少し緊張してしまうのでした

短歌企画に突如として現れた47音!初見の方はこれを見てまずひっくり返ると思います。まずね。
そして情景と描写が本当に良すぎる!この良さを本当にという副詞をつけることでしか表現できない己の語彙を呪います。虫網とベールという要素的には真逆の位置にある二つが君の笑顔によってイコールで結ばれるんですよ。6月のどこかで見たあの綺麗な花嫁がずっと心に残っているまま迎えた夏休み、こんなことが起こってしまったらもう私達は映画館の席で椅子に深く座り込むだけでよくなってしまいます。ポップコーンを食べている場合ではないです。字余りも良い味を出していて、呆然として言葉がぽろぽろと出てくる様が自然と浮かんできます。枠に収まりきらない幼さ、感情の大きさなんかも見えて素晴らしい。
そしてキナコさんのイラストなんですけど!これいただいた時もう目の前に""恋""って文字がありありと浮かんできて逆に大爆笑しちゃったんですよね。人を好きになるってどういうことかと問われれば、大切な人がこう見えることだよと答えられることでしょう。子供電話相談室さん、見てますか。

④「すみません、愛の在庫って」
「あーええと、そこになければ売り切れですね」

二句切れってこんな綺麗にハマることあるんですか?あるんですね。店員側がちょっと食いぎみに答えていてなんとなく機械的な印象が持てます。他の人はお金で愛が買えたかもしれないけど、肝心の自分は結局買えてない!かなり無情だし、それを誰にも気遣ってもらえない冷たさも感じられてものすごく収まりがいい。上3つの短歌は感情に直接響いてくるタイプでしたが、これはある種の諦念も混じっているのでストンと頭に入って数ヶ月単位でじわじわくるタイプです。すごい長い間ずっと沁みてる。「お金で愛が買えれば」って言葉はお金も買える場所もあったとしても問われ続けるんですよね……。
で、そのしみっしみになった所をコミカルに仕上げてくれたのがゆきをさんのイラストです。まず普通に画面構成が良くて絵がうまい。スニーカーとかどうしても見てほしくて一枚目のサムネにも無理矢理入れました。ブラックカードを付き出してフォントも隆々な勢いのある子、その勢いをさえぎるような位置と落ち着きのある子の配置のおかげで上述の冷たさと同時にポップさが足されてるんですよね。いい組み合わせ……ずっと見れる……。

⑤あの頃と同じ笑顔で「一緒に」と
袖引く君と青に溶けてく

なんと二つ目の海テーマです。特に制限とか設けてなかったんですけどみんな海も恋も大好きだからこういうことが起こるんですよね。
海テーマといっても①と違ってこちらは爽やかな印象です。潮の香りすら漂ってきそうなキラキラとしていじらしいことば選びのなか、「溶けてく」という単語からはほのかに不穏な雰囲気が感じ取れませんか。君に引かれて足を踏み入れた海の先は何があるんでしょうか、どこへたどり着くんでしょうか。口惜しいことにこのゆくえは作者様の手を離れ我々に委ねられています。一つわかるのはただごとではない、ということです。物語を綴る手を放すタイミングが完璧なんですよね。私だったらわざとらしくペンを置く音を立ててドヤ顔するレベルです。もちろんバックではカーテンコールと拍手が聞こえますね。
イラストでは、そんな解釈のディテールを補強しつつどんな方向にも広げられるようしてくださいました。着彩などで少しお手伝いさせていただいたんですが、何がすごいって髪の流れが海風に吹かれているようにも、水のなかで揺らいでいるようにも見えることなんですよ。私は背景に澄んだ青を入れるだけでした。素晴らしい。

⑥未来をかたると鬼が笑う
そのこめかみに添えた白妙の華

最後に一番短歌らしい短歌が鎮座なされました。掛詞、ことわざ、枕詞と欲張りセットみたいな構成をしています。教科書に載るんじゃないですか?少し作者様の解説に触れますが、ここでの「華」は造花を指すそうです。なぜって、枕詞にあたる「白妙の」は本来、衣や袖など布に関する言葉につくことが多いんですよね。だから華がつくりものであることがより強調されるんです。天才か?人間とは違う鬼の果てしなく長い寿命を造花に喩え、白でイメージをつけながらことば遊びも忘れない……プロ?この才を世間にお見せできるとは、企画者冥利につきます。こんなに短いことばなのにいくつも意図された意味が重なっている。短歌の素晴らしさのひとつがぎゅっとつまった本当にすごい一句です。
これにこんな美しいイラストが飾られたらもう完全にお手上げです。今後の私の創作人生束にしても勝てない気がする。短歌よんで色んなこと考えたのに美しさでなんにも言えなくなっちゃったよ。こめかみにはなを挿したらあまりの愛おしさにそっと髪を撫でてしまう……ゆったりとした時間の流れが鮮明に見えます。ありがとうございます。

以上、3000字近くもお付き合いいただきありがとうございました。この企画を楽しむ手助けになれれば幸いです。まだ予想アンケートに答えてない方は各々のTwitterより投票していただければと思います。と言いたいところですが私のアンケートの時間を完全にミスって終わってしまいました。マジですみません。他の方の投票で消去法的に特定してください。
また、26日土曜日のお昼か夕方あたりに最終予想もくりを開催予定です。企画参加者様もそれ以外のみなさまもぜひぜひご参加ください。聴き専でも解釈垂れ流しでも大歓迎です。よろしくお願いいたします。ありがとうございました。

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