日常

「何読んでるの?」
いつも通う図書館で初めて声をかけられた。

良いじゃん別に。

「教えてくれても良いじゃん。」

岩井勇気のエッセイだよ。

「岩井勇気…?」

ハライチの岩井勇気だよ。知らない?面白いんだよ。図書館でそんなの読んでるんだって言われるかもしれないけど。これ読むの2回目だから借りてみれば?

君は笑顔でその本を持って行った。
なんで声をかけて来たんだろう。
僕は周りの人なんて全然気にした事なかったなぁ。

可愛かったなぁ。
僕も女の人と普通に喋れるんだ。

僕は今仕事辞めたばかりだ。
色々と嫌になってしまった。

図書館はお金がかからない。
時間は過ぎるのが早い。
だから僕はこうして誰に何も言われない。
そんな甘えにしがみついて通うのがこの図書館。
こんな僕にとっては良い事づくしなのだ。

こんな僕でも通える場所。

あれから1週間が経った。
中々会わないな。

僕はまたこの図書館に居る。
いつもの席でいつものように座りイヤホンで音楽を聴いている。今日聴いている曲は銀杏BOYZの東京。

はぁ、何をやっているんだろう。

君と別れて僕は石ころになって 蹴っ飛ばされて転がって疲れた
出会えた喜びはいつも一瞬なのに どうして別れの悲しみは永遠なの

ほんとだよね。峯田。
今僕は少し明るく振る舞っている。
1人になるとこうやって卑屈になってしまう。
何やってるんだろう。何にもしていないな。

僕はただの石ころなのだ。
その辺に落ちているただの石ころ。
そんな石ころに彼女はなんで話しかけて来たんだろう。

なんだか涙が出て来た。

図書館で銀杏BOYZを聴いて1人で泣いている。
なんで惨めなんだ。滑稽で笑えてくるな。

「なに泣いてんのさ」

別に泣いてないよ。

「この本すごい面白かったよ、教えてくれてありがとう。」

良かった。
自分が面白いと思ったものが誰か他の人も面白いと思ってくれた。
自分が評価された訳じゃないけどやっぱりそれでも嬉しい。

『どうやら僕の日常生活は間違っている』

なんかタイトルにまで煽られてる気分だ。
チクショー!

ぐぅと僕のお腹の音が静かな図書館に少しだけ響いた気がした。いや、かなり響いたのかな。

君はこの静寂の中、大爆笑している。
図書館に居る数少ない人がみんなこっちを見ている。
ご飯でも食べにいこっかと笑いながら話す。
なんで君は声をかけてくれたの?
聞けなかった。

そのまま君は僕の手を取って連れ出す。

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