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呟怖〜著作権〜

#呟怖
#著作権

或る怪談作家が次回作の内容で悩んでいた。

怪談作家としてのキャリアや知名度もある人で、
出版社にとっては所謂稼ぎ頭の役割を担っていた

其だけに毎回執筆時なると胃の痛む想いである、
もし次の作品が受けなかったらどうしようという漠然とした不安と日々格闘しながらの執筆活動、
胃薬や睡眠薬は常備薬となり手放せないでいた。

丁度次の作品は作家生活三十周年目の節目の作で
是非オール新作ネタ出戸注文をつけられていた。

とは言えそう簡単に新作ネタが書ける訳もない。

昨今の怪談作家は大抵二足の草鞋を履いている、
怪談作家とお笑いとか怪談作家と俳優業だとか、
何かしら副業を持つ兼業作家が大多数であった。

乱暴な言い方をすれば怪談作家で食えなくても、副業の方で何とか食い繋げられる人が多い中で、
彼だけは本当に怪談作家一本でやっていた。

そのストイックさが彼の魅力の一つでもあった為
割と彼のファンは怪談通の玄人ファンが多かった
其故に二番煎じは絶対ご法度で毎回新ネタを用意せねばならなかった事は彼にとっての不幸だった

而も今回はオール新作という暴挙に出られたので
流石の彼も頭を抱える事になってしまったのだ。

困り果て完全に筆が止まってしまった或る日の事
何時もの様に真っ白な原稿用紙を目の前にした彼
その右手が勝手に文字を綴り始めたから驚いた、みるみる内に原稿用紙はびっしり文字で埋め尽くされ一本の怪談話が出来上がったのだ。

彼は迚驚き今上梓したばかりの話を読み返した、すると作家の彼自身ゾッとする様な怪談であり、
然れどこの怪談誰からも聞き取りした覚えがないと思いつつも此処は実話怪談に拘る時ではないと強引に自分を納得させて筆が走るまま走らせて、
そうこうする内に規定枚数に到達してしまった。

原稿用紙二百枚を超える超大作であった。

編集者は大変驚きながらも迚喜んでいて直ぐ様、
出版に漕ぎ着け発行部数は過去最高を記録した。

当然ながら印税も是迄見た事ない額が振り込まれ
作家になりやっと暮らしが送れるようになった。

然しそうなると人間誰しも面の皮が熱くなる、
もっともっと稼ぎたいと言う欲求が生まれてきた

其迄はずっと自動筆記に頼りきりであった物が、
売れ始めた途端認知欲求が高まってしまったのか
自動筆記の文章に手を加えたくなってきたのだ。


其迄はそんな事等露程も感じたことは無かったが
やはり認知欲求の魔力には勝てなかった様である

今回の作品中最も印象が薄いと感じた作品を
少し手直しする事にしたのだ。


然し何故か手直ししようとすると必ず邪魔が入る
まるで手直しをするなと圧力をかけられたように

然しそうなってくると彼も面白くなくなってきて何とか手直ししてやろうと必死に抵抗を試みる。

其の攻防が暫く続いた後、突如妨害が止んだ、
どうも妨害相手の方が諦めた感じを受けたという

彼はこの時とばかり手直しを済ませ本は上梓した

其の時、彼は頭の中で低い男の声を聞いたという
“裏切ったな“と迚怨みの篭った声だったという。

編集者は迚喜んだが読者の受けは全く駄目だった
其以降自動筆記は二度と起こらなくなり読者数も右肩下がりに下がり遂に作家では食えなくなった

彼は霊界の“著作権“を侵害してしまったようで、程無くして彼は行方不明となり未だ消息不明、

噂ではあの世に連れて行かれたのではないとさえ囁かれているとの事である。

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