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浮気現場

#浮気現場

扉の向こうで楽しそうな笑い声が聞こえている。
男は扉の反対側で必死に聞き耳を立てている。

今日こそ妻の浮気現場を掴んだぞと男は確信し
勢い良く扉を蹴り開けて室内に踊りこんだ。

だが其処には誰の姿もなくテーブルと椅子が二つ
ポツンとあるだけの極普通のキッチンだった。

然し執念深い男は自分の気配を二人が察知して、
何処かに隠れていると確信し家探しを始めた。

その家探しの音に目を醒ました母親が寝室から
キッチンへ行くと其処には血眼になって室内を
荒らしまくる息子の姿があった。

“お前こんな時間にこんな所で何をしてるんだい“と母親は思わず息子に向けて叫んだ。

息子と思しき男性はぐるりと後ろを振り返ると
“母さん丁度良い所へ来たね、妻の浮気現場を
遂に掴んだよ、あいつめどこへ隠れやがった“
と言いながら尚も家探しを男は続けていた。

“ここにはもう居ないよ、あの二人は“と突然母は息子に言い驚いた息子は母の方へ向き直った。

“母さんあの二人の居場所を知ってるの?
ねえ?どこどこにいるんだよ、母さん“男は
母の方を両手で掴むと激しく揺すり母へ迫った。

“もうあの二人はこの世にいないよ。
だってお前がここで二人を殺したんだから“と
母は言った。

そう、数年前確かにこの場所に二人はいた。

妻と大学時代の友人は夫の妄想癖について真剣に
打開策を見つけようと色々と考えていた所に突如
旦那が現れ二人の間を邪推し包丁で滅多刺しし、
二人を殺害した後に己も自害したのだった。

そう母が叫ぶと男はふっとその影を薄くして
その場から煙のように消えてしまったのだ。

邪推し妻とその友人を殺害してしまった事への
後悔の念は死しても尚消えず成仏出来ずに未だ
あの日の一日をずっと繰り返していたのだ。

恐らく明日も明後日もこの部屋で起きた惨劇は
この場所で繰り返されていく事だろう。

そして未成仏の魂は未来永劫
この場所から離れる事は無いだろう。

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