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呟怖〜遭難〜

#呟怖
#遭難

今年40年以上勤めた病院を定年退職する看護師長のAさんは今でも忘れられない想い出があるとか

其は未だ彼女がこの世界に入って間もない出来事

彼女は小児病棟に配属され其処に小児がんに冒され余命幾ばくも無い幼子が居たという。

毎日辛い治療に耐えながら退院したら
山登りがしたいとAさんに笑顔で話していたと言う。

実際は山登りは愚か生きる事すら難しい状況だったがAさんは出来る、絶対出来るよと励まし続けた。

然し治療の甲斐も虚しく其から間もなく彼は亡くなったという。

決して彼女のせいでは無いが初めて担当した患者さんでもあり彼女は酷く落ち込んで居たという。

余りの落ち込みに見かねた先輩が気晴らしにと有給を貰って山登りにでも行こうと誘ってくれ余り乗り気では無かったが何時までも落ち込んでいても仕方ないと誘いを受ける事にした。

当日は雲一つない晴天で近くの標高の低い山でハイキングコースにもなっている事もあり皆軽装で山登りを始めた。

行きは迚順調に進んだという。

青空に連なる山々を見つめながらあの子もこの風景を見たかっただろうなと思うと自然と涙が溢れてきた。

其でも何とか気力を振り絞り無事山頂に辿り着いた一行は其処でお弁当を広げ楽しいひと時を過ごしたという。

然し山の天候は変わり易い、午前中はあんなに晴れて気持ちよかったのに午後には黒雲が湧いてきて一瞬にして荒天となった。

急いで彼女達は山を降りたが激しく降り頻る雨の中、道を間違えたのか行きの時には全く見覚えがない場所に来てしまい立ち往生してしまった。

どんどん雨脚は強くなり行き交う人もなく不安が
頂点に達しかけた時、彼女を呼ぶ声に気づいた。

見ると其処にはあの幼子が笑顔で立っていた。

まさかと思ったがその幼子がこっちこっちと手招きをしているのが見えた。

最初は皆突然現れた幼子に恐怖したが幼子の方は相変わらず手招きをして立っている。

Aさんは意を決して幼子の方へ歩を進めた。
すると幼子は少し移動し更にこっちこっちと手招きをしてくる。

皆は幼子が手招きする方へ歩を進めていく内に何とか見覚えのある場所に辿り着いた。

皆、安堵しお礼を言おうと振り返った時、
その幼子は跡形もなく消えていた。

三人は幼子が立っていた場所に厳かに手を合わせ下山した。

其以降何か窮地に立たされると何時もあの幼子が現れて助けてくれるようになったのだという。

おっちょこちょいでドジっ娘だったAさんが看護師長にまでなれたのは間違いなくその幼子の導きがあったからこそだと話していた。

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