泣いて笑ってサヨナラ、でも ~優木せつ菜役・楠木ともりさんの勇退に寄す~

”ハナニアラシノタトヘモアルゾ
「サヨナラ」ダケガ人生ダ”

かつて井伏鱒二は漢詩を和訳してそんな風に書きました。
私はこの言葉を、『最遊記外伝』のコミックスで引用されているのを見て知りました。一から十までオタクすぎる……

さて、今年の3月は例年になく私にとって意味のある「別れ」の多い季節でした。
一昨年に競馬を見始めてからずっと追いかけてきたユーバーレーベンの引退であったり、騎手としてのキャリアに終止符を打ち調教師に転身することを決めた福永祐一さんの姿であったり。
あるいは18年間ずっとアイドルマスターを支えてきてくれたガミPこと坂上さんの退任であったり。
アイドルもののソシャゲの先駆者としてアイドルマスターというコンテンツを広げてくれたモバゲー版シンデレラガールズや、音ゲーアプリのパイオニアとなったスクフェスのサービス終了だったり。
あるいは、東京に行くたびに足を運んでいた八重洲ブックセンターの閉店だったり。
濃淡はあれど、まちがいなく今のわたしの趣味の世界の土台となってくれていたものと、少しずつお別れをしていく時間だったように思います。

そんな中で、私にとって一番衝撃だったのは、「虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」で優木せつ菜/中川菜々役を務めて来られた楠木ともりさんの勇退でした。
「卒業」とも「降板」とも書かずに「勇退」と書いたのは、それが一番正しい表現だと感じたから。
優木せつ菜のラストステージとなったA・ZU・NAユニットライブでの「CHASE!」の歌唱、そして本日公開された後任の林鼓子さんと私達宛のメッセージを見て、その言葉が一番相応しいだろうと思ったからです。

やるべきこと、伝えるべきことをきちんと完遂して去っていく楠木さんの姿には、後ろ向きな言葉ではなく「勇退」しかないだろうと思いました。

……御存知の通り、私は果林推しです。ではありますが、一人のフィクションを愛するオタクとして、優木せつ菜というキャラクターの在り方には私淑するところが大いにありました。
自分と誰かの「大好き」に時に真剣すぎるほどに向かい合う姿は、ある意味私にとって理想でした。情熱を体現する真っ赤な衣装もかっこいいですしね。昔赤いマントの弓兵に憧れたからとか言わない

……最初、楠木さんのニュースが出たとき私は柄にもなくだいぶ狼狽えました。応援していたスポーツ選手や競争馬が引退することなんて何度となく見てきたし、別のコンテンツでもキャスト交代は経験したはずなのに。翌日発売される「Blue」のCDをどんな気持ちで手に取ったらいいのか、正直分かりませんでした。

そんな中、私を助けてくれたのは、私の周りにいる虹ヶ咲と優木せつ菜を大好きな人達が前を向こうとしている姿でした。
とにかく自分にできることをやろう、そう思えました。
熱烈なせつ菜推しのフォロワーに、「どうかあなたが現地で思いを届けてください!!!」とCDと円盤のシリアルを託し。

カウントダウン企画があると聞けば、動画を作って参加し。

A・ZU・NAライブは両日配信でしっかり見届け、いつものメンバーで感想会をやり。

そして、せつ菜と楠木さんに捧げる合同誌を作ります!という話を聞き、覚悟を決めて参加しました。
その合同誌が、4月16日に開催される「僕らのラブライブ!37」にて頒布されます。

今回寄稿した小説は、アニメで登場した生徒会の副会長が主人公のお話になりました。内容はまだ深く話せませんが、せつ菜の生徒会長退任を今回の楠木さんの勇退にちょっとだけ重ね合わせるような、そんなお話になっています。
副会長役の杉山里穂さんは、Twitterで時折せつ菜への熱い愛情を吐露したり、自身のイベントで「CHASE!」を歌唱したりしています。そんな姿を見て、勝手に私の思いを副会長に託すことにしました。
他の参加作品もサンプルを見ているだけで胸が熱くなるものばかりで、素晴らしい本に仕上がっていると思います。熱さのぶんだけ厚さも2.5センチというすごいものになっていますが(アツさだけに)、手にとって後悔させることはきっとないはずです。会場頒布だけでなくメロンブックスでの委託もありますので、遠方の方もどうぞ手に取ってもらえれば。

宣伝は以上です!!!!

……さて、正直この辺りの話については、Twitterにだけとどめておこうかという思いもありました。ポジティブなだけの話では決してありませんから。
ただ、今日公開された楠木さんからのメッセージを見て、きちんと形にして残しておくべきだと思ったのです。
楠木さんは虹ヶ咲と優木せつ菜を応援する我々と、そして新たにせつ菜を背負う林鼓子さんに、きちんと思いを継承しようとしてくれていました。
別れそのものは悲しいことではありますが、楠木さんが何かを残そうとしてくれていることが、とてつもなく私は嬉しかったのです。
なぜかというと、今回合同誌に参加した作品で私が描きたかったこと、伝えたかったこととそれはまったく同じだったからです。
私は作品のイメージソングを決め、それをBGMにしながら小説を書くことが多い人間です。
今回の原稿でずっとBGMにしていたのは、次に紹介する2曲でした。

悲しい事 悔しい事程 いつか僕が見る光になっていく

tacica『煌々』より

泣いて笑ってサヨナラ でもどこかでいつか
あなたがくれた魔法を 僕らは忘れないから

MAN WITH A MISSION『フォーカスライト』より

今回、執筆にあたりモチーフにした楽曲と、そうやって出来上がった原稿と、楠木さんのメッセージは、同じことを伝えようとしているように私には思えました。そのことに、なんだか安心している自分がいます。
今回、楠木さんが虹ヶ咲というコンテンツから去ることを、私はコンテンツの1ファンとしてとても悲しく思っています。それは否定できません。
でも、彼女が優木せつ菜として成してきたことが、すべて消えるわけではありません。スクスタの中に声は残り続けるし、過去のライブの映像だって残っている。そして何より、私達に託してくれた思いは消えないはずです。

だからこそ今の感情をきちんと残しておきたい。そうやって思って行動したこと、作ったものを残しておきたい。そんな思いで今この文章を書いていますし、それ以上のことは、合同誌の原稿に全部込めたつもりでいます。

別離という悲しい出来事が発端ではありましたが、そうやって自分の思いを確かめる時間を持てたことは、私にとってとても意味のあることでした。
そしてまた、ここから続く未来にも楽しみなことがたくさんあることは、素直に嬉しいことだと思います。ファンミツアーも控えていますし、OVAの劇場公開もあるし、新しいシングルも出るし、きっと次のナンバリングライブも控えているはずです。

さしあたっては、再来週の僕ラブで合同誌がたくさんの人の手に取ってもらえること、そしてにじたび大阪公演のチケットが無事当選しますように。

そしてなにより、楠木ともりさんと林鼓子さんに、優木せつ菜と中川菜々に、そして虹ヶ咲というコンテンツに、輝かしい未来が待っていることを。

そんな祈りを込めて、新たな春を迎えたいと思います。

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