見出し画像

舞台『おっかちゃん劇場』感想(作・金沢知樹、演出・福士誠治)


2020年12月23日(水)~30(水)、本多劇場で上演された舞台『おっかちゃん劇場』を観て来ました~!

舞台『幽霊でもよかけん、あいたかたよ(2016年上演)』でもタッグを組んだ演出・福士誠治さん&脚本・金沢和樹さんによるオリジナルの新作舞台。

お二人が個性派キャストとともに送る、認知症の"おっかちゃん(母親)"を巡るドタバタと人と人との優しさを描いたあったかい家族のお話です。

舞台は長崎の中華レストラン「二重丸」。おっかちゃんのお世話をしながら店を切り盛りする姉とその妹を見守る周りの人たちの関係が、とっても愛しくていじらしい作品でした。

日常にある愛しさへ改めて出会う物語

福士さんの演出と金沢さんの本は、ふだん日常に在る幸せを丁寧に膨らませて、時に誇張して(笑)、茶目っ気たっぷりに客席へと届けてくれる方々だと思います。

あんなに不器用で愛おしい人間たちの生活を描くのに、脚本・演出のお二人からは、とても理知的で冷静なまなざしも感じるのがすごく不思議。

そんなほっこりとする世界に、活き活きとした血を通わせてくれるのが主演の田中麗奈さんをはじめとした俳優の皆さん。

田中麗奈さんの好香

以前、拝見した舞台『美しく、青く』でも介護を担う女性を演じられていて。美青は、東北の凍てつく海風と共に生きるような作品で「あぁあああ誰か彼女の深い哀しみに寄り添ってあげて・・・・・・・・」と胃を痛めたので、今回は1人で抱え込みつつ、優しい人が周りにたくさんいる役でほっとしました(美青もすごく素敵な舞台だったよ!

手の届かない憧れの高嶺の花から、親しみやすい近所の姉ちゃんまで、色んな役の色んな表情を魅せてくれる素敵な俳優さん。

何度も心を揺さぶられたのは、やっぱり田中さん演じる好香さんから流れ込んできた豊かな感情が素晴らしかったからで。愛情たっぷりに、かつ切なさを帯びたまなざしでおっかちゃんを見つめる姿は問答無用で「好香さん!!!」ってなるし、ハナちゃんを見つめる厳しくて優しいまなざしも愛おしいし、怒った顔もとってもキュート。叱られたい気持ち……ちょっと分かる……!!!

冒頭、いきなり小学生の好香ちゃんが飛び込んで来て「見立てのちから!!!!!!」ってなりました。

"見立て"って伝える側と観る側が、その場だけのルールを決めて一緒に守ることじゃないですか。田中さんの好香が小学生ですよ!って言われて、「あ、はい!」って皆で受け入れるの。

そんな、みんなで1つの夢を大切にする瞬間は、とっても愛おしくて優しい時間だと思うんです。

お姉ちゃんが「好香」で、妹が「ハナ」で漢字・カタカナ表記になってるの、お姉ちゃんがハナちゃんの名前を決めたからかなぁ…なんだろう。名前って関連する時も由来があるし、逆に全く違うならそれはそれで理由があるのかなぁと。

中華レストランの名前を決める時、「私が決めていいの!?」って菊枝さん喜んでたから、ハナちゃんの時は好香ちゃんにもその体験をプレゼントしたってことですか?もうやだそういうのずるーーーーい!

名付け"親"になったことで、お母さんの代わりを私が担わきゃ!みたいな気持ちもあるんですかね……好香さん、ちょっとオレにもその荷物背負わせてくれよ…いや荷物じゃないな。ハナちゃんも一緒にいたから頑張れたんだよな。

レコードを落として「泣くな!」って懸命に踏みとどまろうとした後、おっかちゃんにご飯をつくるべくエプロンを着る好香さんに愛情深さと危うさをみた気がします。

あそこで「今日疲れちゃったからレトルトね!!!!」って言える人なら、たぶん息を抜くことも出来ると思うんですよ。

あそこでエプロンを着れちゃう人って、本当にちゃんとしていて、あのままだともっと追い込まれちゃった気がして、物凄く胃が痛い。

元気な頃のおっかちゃんと話した後、好香さんが、やっと子どもとして泣けるシーン、皆さん大丈夫でした?私は駄目でした~~~~~!!!(涙腺

私がしっかりしなきゃって自分を追い詰めて、段々視えるところが狭くなって、好香さんの中での"おっかちゃん"という個人がおらんようになった所から、過去のおっかちゃんと出会うことで、また今の好香さんから視える世界が拡がって、ちゃんと好香さん自身で決めて、今後の人生を選び取る所が好き。

ウェディングドレスの時もバンダナを付けていて、衣裳さんGJ~!

若月佑美さんのハナ

若月さんが以前、所属されていた乃木坂46の冠番組があって、若月さんはそこで司会のバナナマンさんたちから「じゃあ若月、行ってみようか」って振られると、必ず何か打ち返そうとしていたんですよ。

そんなMCの2人を信頼して飛びこむ勇気や、誰かを楽しませよう!と場に臨む姿がとっても好き!

乃木坂の中ではボーイッシュな魅力も担って下さっていたんですけど、おっかちゃん劇場でお姉さんお兄さんたちの中にいる若月さんをひと目見たら「ちっちゃ!きゃわ!!!!!!」って心の中で叫びました…………もう本当にすぐオタクムーブしてしまう。

わか推しのひとは、若月さんがこんなに素敵な俳優さんになる過程を見守れて、きっと幸せ者ですね…!(握手

乃木坂時代の「サヨナラの意味」MV、4:01の憂いを帯びた表情の若月さんもとっても素敵だからみて〜〜!!

ちょっと行き当たりばったりだけど、とっても優しい若月さんのハナちゃん。歳上のお兄さんたちにも物怖じせず、ちょい圧強めに行くところが大好き。

ハナちゃんみたいに行動出来る人が何事も最強じゃないですか。いいぞ!もっとやれ!笑

やっぱり元気だった頃のお母さんと過ごした時間が好香さんとは違うから、気持ちが少しズレていて切ないんですけど、ハナちゃんにとっては今頑張っている好香さんがすごく大事なんですよね。

深夜の食堂で、テーブルに並んで外向きだった姉妹が徐々に心を近づけていくシーンがあまりにいじらしくて……。

ハナちゃんが「全部~~~!!」って泣き出すところ皆さん大丈夫でした?わたしは駄目でした~~~!(涙腺

好香姉ちゃんが、ハナちゃんの中ですっごく良いお姉ちゃんでおっかちゃんだったから、「わたしもそんな風に出来るかな?」って気持ちもちょっとあるのかな……うぅうその裏返しって最高のお姉ちゃんリスペクトじゃん……(泣いてる

そんなお姉ちゃんの負担になりたくないから、ちゃんと甘えられなかった所もあったのかなと。でも、やっぱり寂しいから、お母さんと話したい、お母さんがどんな人なのかもっと知りたいって気持ちが、いじらしいほど伝わって来て、ハナちゃん。。。。。。

それを翔さんにしか吐露していないのが、ある意味、新しい関係を彼女が外の世界へ見つけた証でもあって。

翔さんが唯一、今まであの集まりの中にいなかった訳じゃないですか。なんか、その事が、小さなコミュニティからもう一歩、違う世界へ飛び出していくハナちゃんの清々しさやたくましさと重なって、すごく愛おしいなと。幸せになって欲しい〜〜!!

制服を着ていたハナちゃんが、ピシっとスーツの社会人になって、お腹周りがゆったりとした服になっていく過程がきゃわのきゃわでした。これでハナちゃんもウェディングドレスを着て出てきたらキュン死するところだった。

駿河太郎さんの康弘

えっプロポーズみたいな人生の一大イベントを最初にするの!?ってビックリしました。康弘さん、成り行きとはいえ、そんなすぐプロポーズできる人だと実は思ってなくて。康弘さん、出来る人だった……!でも確かに前作で感じた康弘さんの格好よさって、その素直さだと思ったんですよ。

この初手プロポーズで、介護で自分の人生に踏み出せないでいる好香さんを見せるのと、康弘さんはこの物語で絶対、好香さんの味方だよ!って教えてくれたのかなと。

そこから最後、康弘さんと結婚式を挙げるのが、ある意味、好香さんの変化の象徴として描かれていて。あぁ、だから、最初にプロポーズなんだって今、書いてて勝手に納得しました。

それはそうとて、康弘さん好香さんに壁ドンして貰えるの羨ましい………!!!!!!!!ご褒美じゃないですか!!!!!!ちょっと代わって!!!!!!笑

前作の『幽霊でも~』で、康弘さんがすごく格好良かったから「好香さんその人と一緒になったらきっと楽しいよ!!!!」って、今作のラストすごく感激したのに、パンフの座談会には次回作で「康弘が孤独な身だったら」って書いてあって、あの人たちなんて怖いこと言うんだ・・・!

でもハナちゃんが旦那の翔さんと喧嘩して家出した時とかに、康弘さんがポロッと翔さんをかばって、好香さんも怒って康弘さんを叩き出す・・・とかあったら面白そう(妄想

駿河さんは、舞台に立った時のスタイルのバランスがとっても良くて、声もハリがあって、所作も品がある方。

男性陣だと渡辺哲さんの声が場の空気に呼応して、おおたけこういちさんの声が全体のアクセントになって、駿河さんのブレない声がみんなの真ん中にスッと入って安定感をつくっていたイメージ。

なんかその支えてくれる在り方がとっても素敵。

おおたけこういちさんの神山永雲

あまりに個人的な話で恐縮なんですけど、永雲さん、私の高校時代からの友人にそっくりで、「はたからみると彼やっぱクセ強いんだ……」って再確認しました。

ラップみたいに喋る人って、話してる内容に関係なく会話のテンポが噛み合わないから大変ですよね!?家がお金持ちな所も永雲さんと一緒で!笑

でも彼はお父さんとの仲が悪くて、「親父みたいな冷たい人間にはならない!」ってなった結果、そういう振る舞いになっていたので、勝手に「永雲さんもあぁなるには何かそれなりに理由が……?」って考えました。でも単に空っぽなだけかもしれない。うん。

配信の日、ちょうどカメラの後ろの席だったんですけど、八角のにおいのシーンで永雲さんがわちゃわちゃしている時にカメラさんが、スッと永雲さんだけをフレームアウト(?)させてて、益々大好きになりました。

叩かれているのをみると「痛そうっ!」ってなるので、ヘルメットを被っていてくれて嬉しい。頭、あたまは守って欲しい。

おおたけさんは、情け無いのが似合うのに、すごくしなやかな筋肉と瞬発力があるじゃないですか。ポーンと飛び出して来てくれる安心感。

おおたけさんの飛び出す力は、拾いに行ってくれる時もすごく心強いなって思っていたんですけど、先陣を切る時にも物凄くチャームが生きるというか。

この舞台の楽しい空気をつくるのに、グルーブの基点になってるのっておおたけさんな事も多くて、声と動きですごくアクセントを作ってくれるんですよ。

おおたけさんが出て来た瞬間に、舞台の彩度や温度が瞬間的に上がるというか、すごくエネルギーのある方なんだ!って思いました。

あと、おおたけさんが後輩の渋谷 渉大流(わたる)さんに名乗って挨拶を!って背中を押したのが凄く素敵だなって。名乗りってすごく大切で、名前を知らなくてもコミュニケーションは成立するんですけど、名前を共有した瞬間に、その人が、相手の心の中に形作られていくんですよ。

その場限りじゃなくて、もしかしたら関係をずっと続けていけるかもしれないキッカケになるから、"名前"ってすごく大事だと思います。

清水優さんの芦田翔

拝見するのは二作目なんですけど、すごく作品の世界に溶け込んで下さる方な印象があって、逆に清水さんご自身がどんなチャームを持ってらっしゃるのかすごく気になります。

(今回だとパンフの)コメントの文字数がちょっと少ない人って、どんな人なんだろう?ってちょっと気になるんですよ。なんで短いのかってブラックボックスじゃないですか。言葉にしないことを大事にしているのかな、とか、逆に何のネタなら筆が進むのかな、とか。

あと、パンフ26ページ目の清水さん、エプロンをマント風に着て躍動感もあって最高にチャーミングで、どういう流れであのカットに至ったのかなと。あれだけ枚数があってエプロンを後ろ側に着てるの、清水さんだけじゃないですか。もしかしたら、その撮影スタッフさんたちとのコミュニケーションの中に、清水さんのヒントがあるのかって、すぐ妄想しちゃうんですけど。

翔さんも衣装コーデが天才でしたね。ほんとにハナちゃんなんでこのひと選んだの……?笑

全然関係ないんですけど翔さんが挨拶の時に持ってきたキルフェボン。キルフェボンって自分の周りで男性陣が思う女性ウケ確実のキラーアイテムとして神格化された存在で、プレゼントでキルフェボンのロゴ入った紙袋を持ってけばとりあえず喜ばれると言われていたので、やっぱり何か象徴的な扱いをされ易いブランドなのかなって勝手に想像してちょっと笑っちゃいました……。

翔さんが初日に持っていた紙袋、伊勢丹っぽいタータン柄(高級店の概念)なのかなって思ったんですけど、次観た時は黄色の紙袋に変わっていて「キルフェボン(概念!!!!!」笑。

世の中的にキルフェボンってどういう立ち位置なんですか!?キルフェボンなのにあえてタルトでもケーキでもないチョイスで、最後、光太兄ちゃんが永雲さん殴るのにつかって持って帰っちゃって爆笑してました。兄ちゃん!!!!!

翔さんにも見せ場があって愛されてる……!しかも、彼自身の力じゃなくて実家が中華料理屋っていう設定を活かしたチートなんですよ。そんなとこまで翔さんらしい。

でも八角の説明をみんなに出来るって事は、ちゃんと実家で教えて貰ったことを翔さんが覚えてるってことじゃないですか。おぼっちゃんとして甘やかすだけじゃなくて、ちゃんと厨房のことも教えてるおうちなのかなぁと。

いのさわようじさんの雷太

ゴッドハンドのかた!金沢さん演じる光太兄ちゃんに似せてるのか、元々似てるのか両方なのか。似ていたところ、さらに一緒にいたら似て来た感じですか…?

前作でぜんぜん喋らなかったのに、今回めっちゃ喋ってる〜!!(爆笑

あのクオリティで話されたら、どんどん台詞足したくなっちゃう………次とかきっともっと台詞長くなってますよね……(次もご出演される前提で書いてる

お兄ちゃん大好きでお父ちゃんがおっかない、とってもチャーミングな人。殺される!って言われてるのにちゃんと謝りに来るとこがかわいい〜!!!

長崎の町でオレンジトレーナー絶対目立つから、近所の人もあの親子をニコニコみてるんだろうな。マスコット的な存在。

従姉妹の家のものを勝手に修理へ出すのは、それはそれでアグレッシブで一回正座案件なんですけど、雷太さんなら他意は無いからなんだかんだ許せちゃいそう。

いのさわさんのパンフのプロフィールテキストどなたが書いてるのか、すごく気になるんですけど誰ですか。まずご本人か他の人なのかが気になる。

向野章太郎さんの渉

向野さん、声が抜群に良いですよね~!!渋めのトーン。

向野さんが演じる渉さんは格好よかった!!!堂崎のおっかちゃんに、ヤンキーが命より大切な(偏見)リーゼントを触らせてるのがすごく心許してる感じがすごくある………。

渉さんめちゃくちゃ特別扱いして貰っていて、おっかちゃん劇場中に、元気な頃のおっかちゃんと唯一、本人として接して貰ったのって渉さんじゃないですか。なんかそこ込みで嬉しかっただろうな、と。もはや息子待遇じゃん………。

本当のおっかちゃんじゃないけど、渉さんにとっても、おばちゃんはかけがえの無い存在なんだな…………みずくせぇこと言うなよ!感がはちゃめちゃに出ていて好き〜!!

二重丸のカツ丼とかなんでも美味しかったのって、渉さんのために作ってあげてたってことじゃん・・・・・おばちゃん愛じゃん・・・・・。

しかも渉さん自身もちゃんぽん屋さんになってるの、めちゃくちゃエモくないですか!?中学卒業して、早くおっかちゃんに一人前になったとこ見せたいって修行がんばってて欲しい。

渉さんもエプロンをちゃんと着てるのがすごく好きです。エプロンを着る人はちゃんとした人だと思っています。自分は一枚も持っていません。

子供の時はお金のこと心配していたのに、ここはオレが出すってみんなの飲食費出してくれるの、渉さんなりの恩返しなのかも・・・?

これを機におばちゃんレシピで料理が作れるようになったのか、実は前からおばちゃんメニューも渉さんのレパートリーだったのかどっち!?おばちゃんのちゃんぽんうめぇ!って言ってるから、知らなかったほう????

個人的には前から知ってて、過去におばちゃんレシピをそれとなく聞き出すのに渉さんの涙ぐましい努力があって欲しい派です。

渉さん、めちゃくちゃ分かりづらい努力で一悶着重ねた後に「そんなに知りたいなら普通に言ってくれれば良かったのに」ってバッサリ女性陣からレシピノート差し出されてて欲しい(強目の妄想

もうこいつにしちゃえよ的に康弘さん差し出すとこもすごく良い…普通に恋路を応援してくれるし、何かあったらすぐハナちゃんに声かけてくれるし、めちゃくちゃ渉さん良い人じゃん……自分が蚊帳の外に置かれるのが寂しかったからかな。ハナ、お前は見とけって言うし、ハナちゃんも康弘さんが誰が好きかって時に渉さんに電話するし、めっちゃハナちゃんと仲良しやん。

ただ、なんでナポリタン大盛りにしたの。

渡辺哲さんの菊枝、健吉

御年70歳・渡辺哲さんの豊かな声は、とても大事に鳴らして来た楽器みたいに深みのある音で大好きです……………………。

作品が解禁された時、おっかちゃんどこ!?渡辺さん…………??いやそんなまさかって思ったら、稽古場レポで「女手一つで娘を育てる菊枝(渡辺哲)」って書いてあって、おっかちゃん!!!!!!(爆笑

その後のレポで間髪入れずに「叔父(渡辺哲)」とも書いてあって二度見しました。

一人二役は渡辺さん好きとして2つの気持ちがあって、両方の渡辺さんが見られて嬉しい!って素直な気持ちと、叔父さんが結婚式にいなくて寂しい~~~!!!!渡辺さんが分裂すれば(できません

叔父さんも、姉とその娘二人の負担のことも、多分いっぱい考えて「施設に入れる」という決断……もしかしたら悪者にみえる役をあえて買って出てくれたと思うんです。

だって、ハナちゃんの事もあんなにニコニコ頭ポンッてしてたじゃないですか。叔父さんも結婚式ぜったい喜んでくれると思うんです………。

菊枝さんが音楽を聴いて、匂いを嗅いで、認知症からパァアァアと昔へ戻っていく表情が本当に鮮やかで、生き生きとしていて、逆に音楽が止まってシュンって表情が抜け落ちちゃう所が本当に切なかった。

認知症の辛い所って、本人も頭の中がクリアな時と、子供に還る時の両方があって、そこを行ったり来たりして、だんだん子供の時間が長くなっていくのを、本人と周りにいる家族が少しずつ自覚して受け止めなきゃいけない。

それが何年も何年も何年もじわじわと続いて亡くなるまで終わりがないから、思いやりのある人であればあるほど辛い。今回は描かれていなかったけど、徐々に失われていく自分、もしくは相手に戸惑って、苦しんで、そして受け止めていくものだから。

最後、すげーボケちゃったねワッハッハっていく時もあるんですけど、その前段階の嵐は、側についている人間なら一回挟むと思うんですよ。

菊枝さんならその過程の中で弟さんにだけは、あなたがムリだと判断したらいつでも私が施設に入れるよう準備だけはしておいて欲しい。でも私がそう言ってたことは、娘二人には内緒にしてね。こんなの頼めるのはあなただけ。ごめんね。ありがとうね。だからわたしより絶対長生きしてね……的な思いを託してそうじゃないですか・・・・・うぅうううううううおっかちゃん!!!(妄想で泣く

いやだって急に入れないじゃないですか、施設。叔父さんがすぐ"手続き"って言えるってことは、どんな選択肢があるのかって煩雑な事を全て叔父さんが裏で引き受けていないと出ないじゃないですか。タバコやめられないし、パチンコ打っちゃうし、お酒もやめられない人だけど、お姉ちゃんのためだったら色んな可能性を考えてくれる気がするから。

叔父さんも大きく「手続きする!」って口では言ってはみたものの、実は全然何も分かってなくて、みんなで二重丸に集まって、たくさんパンフレットを広げながら色んな形を考えるとか、そういう未来があっても嬉しい。

お話の設定だから、そんな難しく考えなくても良いんですけど、認知症と介護って、これから他にも当事者の方が増えていくものだから、自分の中でちょっと立ち止まって考えたいんだなって思います。

あと渡辺哲さんがおっかちゃんなのって、ものすごく良かったと思うんですよ。女性に演じて貰うと、ほんとに全部、お母さんのしなやかさに甘えてしまう気がして。

おっかちゃんという役割の女性じゃなくて、渡辺さんが演ることで菊枝さんという人間になったというか。上手くハマる言葉が見つからないんですけど。

家族劇はシリーズにしたいって書いてあったから、渡辺さん引き続き元気で健やかに過ごして欲しい〜!(次も出る前提

たぶん、金沢さんの本と福士さんの演出だったら渡辺さんが座ってるだけで美味しく成立するものをつくってくれると思うんですよ。

いやでも、身体に鞭打って動き続ける渡辺さんも観た~〜い!!

坂村さん、福田さんのビジュアルまわり

宣伝美術・坂村健次さん。サラダも写真も平面と立体がまぜこぜなっててとっても可愛い〜!!こういう意匠が細かいものをすぐ好きになっちゃう……。

演者さんが持ってる台所用品のイラストすごく好きで、ほんと息を吸うように検索してしまうんですけど、これでいつでも合法おそろいが出来るな(まがお

美術・福田暢秀さん!配信でもみたら、あらゆる造形が細かくてびっくりしました。

わたし、劇中で深夜にドアの鍵閉めてる所すごく好きなんですよ。昼間はレストランだから開けっ放しにしてるけど、夜はちゃんと鍵を閉めたら、同じ場所なのに、すごくクローズドな家族の居場所になるというか。

福士さんの演出、見立ての力で田中さんを小学生にしたのに、大道具ではリアリティにこだわるのは、ある意味、違う価値観が内包されているみたいで面白いなぁと。

濱田貴司さんの音楽

濱田さんの楽器選びがもう大好きなんですよ。すごくノスタルジックな雰囲気の中に、ポンッと弾ける音がいくつもあって、濱田さんの音楽によってよりおっかちゃんの世界が彩られていく感じ。

最初のほう、とっても明るい音楽からはじまったのに、最初のボケ症状からどんどんピアノの不協和音になっていくの、好香さんの「お母さん!」の声に重なることで、すごく観客の心をぐちゃぐちゃにしていって、もう本当になんで高校生(当時)の女の子にそんな酷いことするんですか。

金沢さんの本と福士さんの演出

物語では人間の不器用でダメな所も愛そうよ!ってメッセージも貫かれている(特に男性陣)気がするのに、脚本や演出に感じる印象は、すごく理知的でリアリスト?な気がします。

いま言葉にしてみて、観察力を活かしたリアルさも織り交ぜつつ、フィクションである曖昧さを肯定している……が、近い気がして来ました(混乱

お二人が組んだ作品は2-3作しか観ていないのですが金沢さんの本と福士さんの演出はその印象がすごく似ていて。

似ている中で、お二人で違う部分を担っているのかなぁと感じたのは、今回の舞台だと金沢さんの本は"言葉にする"、"緩和"。福士さんの演出は"所作にする"、緊張……みたいなキーワードで。

これ本当に妄想のラベルで、たぶんまたすぐラベルを張り替えるし、きっと引っ剥がされるので耳半分できいてください。

金沢さんの台本ってすごくフリとオチが細かく構成されていて、文字ベースでも読み物として面白いのかなぁと。

今回、色んな設定をかなり具体的な言葉にされていて、そこが「言葉にしなくちゃ」みたいな台詞と絶妙にオーバーラップしてちょっと楽しくなりました。金沢さんの台本は、すごく"言葉にする"イメージ。

あと偶発的に、あ、ここ何かが足りないなって空気を感じた時に、金沢さん自身がすかさずアドリブで補足している所が何箇所かあった気がして、金沢さん自身はすごく俯瞰的なカメラも持ちながら、舞台上に立っているのかなぁと。

雷太さんもいのさわさん自身がすごく素敵だったんですけど、それを受ける金沢さんの光太のツッコミと間がすごく絶妙で、二人がセットだったからこそ、雷太さんのチャームがすごく映えていた気がします。

他にも金沢さんの光太が抜きのボケ・ツッコミを入れることで、笑いが生まれて空気が弛緩するから、次の人がリズムを仕切り直せるんですよ。

大丈夫ですか、こんなに妄想を話していて良いですか(混乱

福士さんの演出も、言葉やそれに乗る心を大事にされているイメージなんですけど、リズムと所作も大事にされていて、すごく具体的に力を入れて仕掛けて来る感じ。

所作とリズムの笑いは、リズムを全員の身体に叩き込んでそれを再現するか、前の人のリズムを新鮮に受けて、のっかる……みたいな事をしなきゃいけないんだろうなと。

どうしよう、すごく笑いの話になって来ちゃった。笑いって、全然分からない部分だから逆に気になってるんですけど。

福士さんの表現するものは、サービス精神旺盛でユーモアがあって、すごく具体的でリアルな手触りもありつつ、ときどき、とっておきの夢もあるというか。ちょっと盛っているように感じるのは、力が入ってそう見えるのか、もともと盛ろうとしているのかどっちなんだろう。

書いていて、あまり適当な言葉ではないのかもしれないんですけど、表現者としての福士さんって、もしかしたら良い意味で"よくばり"なのかなって思いました。

それは表現する人に物凄く大事なチャームで、この舞台も家族の人情劇でありながら、大人数のドタバタ劇もやり、それを演出して、内外含め色んな人に喜んで楽しんで貰って、かつそれを興行的に成立させる…みたいな本当に色んな要素があるじゃないですか。これ実はタフなことをやろうとしているんじゃないかって。

あとは金沢さんの本と福士さんの表現するものに共通した所で、"捉え方ひとつで世界は変わる"みたいな美学はあるのかなと。

おっかちゃん劇場って、"捉え方"の話もあった気がするんです。「お腹んすいたー」がひとつ象徴的な台詞だったと思うんですけど。

この台詞って、一言一句も何も変わってないのに他愛のない会話の中で、コミュニケーションが取れない切なさの中で、そして最後、優しいみんなの中で。シーンによって全く違う響きになるじゃないですか。

自分の捉え方が変われば、物事の捉え方も変わる、みたいな所なのかなって。その"捉え方"って、自分の中だけで何かを諦めて変える場合と他人から良い影響を受けて変わる場合があって、金沢さんと福士さんは後者の力を信じているのかなぁと。

捉え方を変えた上で、問題(?)にも向き合う工程は絶対、必要なんですけど、それでもまずは、そこを信じ抜く力というか。

作/出演・金沢知樹さん

鼻を啜りながら色々考えたんですけど、フリとオチで一個一個色んなものを結んでいくと、"母娘とご近所さんの物語"と"大人数でやるドタバタコント"って実は分けて考えた方が良いのかなって感じました。

みんなに出て欲しい!ってなると、今度は大人数での笑いをつくるって、別の目的や役割を付与する必要が出て来るのかなぁと。もしかしたら発想が逆かもしれないんですけど。

金沢さんのまなざしからみた登場人物一人ひとりへのリスペクトを感じるし、人を介して過去から今へ、縦の軸で受け継がれるものと、今この場、横の軸で影響するもの。その両方を大事にされているのかなぁと。(乱の配信もみての印象

男性の脚本家さんが舞台で女性を描く時って、本の中で、女性が機能的か象徴的に存在することが多い印象なんですけど、金沢さんの本に登場する女性はリアリティも求めようとしていた気がします。男性はみんな男の子にみえました。

あとはすごく構造や細かい構成にこだわり?を感じて。今回も劇中に"おっかちゃん劇場"という構造?仕掛け?を、意識して入れ込んでいるのかなぁと。

以前、金沢さんが書かれていた『365000の空に浮かぶ月』も、すごく構造的な台本に感じたんです。どういう過程を経たら、あの仕掛けの台本になるのか気になる。過去のパンフとかにのってます……?

金沢さんの本は、ちゃんと観る人が色んなものを見つけたり、気付けるようにたくさんのものを散りばめてあって、きっと頭空っぽで気軽に観ても、じっくり腰を据えて観ても楽しいんだろうなぁと。

だから金沢さん、クリエイターさんや役者さんと組んでいる所がみたいというよりは、金沢さんの本と、世の中の人と繋ぐ役割を担ってくれるプロデューサーさんと組んだ所がみたいなって。

商流だけじゃなくて、作品と社会を繋ぐ根幹的なところ……背骨の部分も含めて、一緒に考えてくれる方というか。それが出来るのはプロデューサーに該当する人じゃないのかもしれないんですけど。

いま調べてみたらこのドラマが出て来て、「こう!!!!!こういうの!!!!!!!」ってなってる。

演出/出演・福士誠治さん

俳優としての福士さんが長年、色んな所でお客さまと信頼関係を結んでいるから、福士さん出演!がこの舞台のフックになるんだなぁと思いました。

福士さんがまめに告知されていたのが、ほんとにこの作品を届けたいんだ!って心意気のように感じて、すごく好きです。

観て貰えたら良いな!って気持ちだけよりは、興味を持って観て貰うには?みたいな工夫が貫かれた行動や姿勢が格好いいなぁと。もちろん都合ばかり押し付けるのは良くないんですけど、お客さんと作品を繋げようとする姿勢がすごく素敵で。

つくり手はもの作りに専念すべきって美学もまた真実だと思うんです。でも、ある一定のラインを越えて何かを届ける人は、どのセクションであっても、何処かで担う役割を拡げる時期があって欲しい。何言ってるんだって話ですよね。いやほんと。

舞台に立った時に福士さんの春樹さんもすごくスタイルが良くて、やっぱり板の上に立った時にすごくチャームがある方なんだなぁと。

何かみる時はなるべくフラットにみなきゃ!って思うんですけど、自然と目が行くし、これが華ってやつなのか……(困惑

華がある人って、どうしても印象が+αされるから、引き算するのが凄く大変そう。

代役お二人のチャームが全然違っていて、お二人が春樹さんをどんな風にやられていたのか凄く気になりました。その渋谷さんと弥山さんも今回、この舞台にご出演されていたのも、すごくなんていうか愛おしいことだなって。

毛根のくだり勝手に「ひと笑い取ったれ!」みたいに背中を押すイメージなんですけど、でも笑いの引き取り手に絶対安心のおおたけさんを配置してるの、もうそれだけで愛じゃないですか。

何にも知らない初見の友人たちはあのシーンは一体なんだったんだ?って本気で困惑していました。ですよね。

福士さんの演出は笑いだけじゃなくて、他のこともすごく丁寧で、泣くこと一つにしても、登場人物の奥底の思いと周りの人への気持ちが全然違って、すごく大好きです。

やっぱりみんなにも不器用にジタバタして、みっともなく泣く瞬間があるんだなって思うと、ちょっと救いになるというか。ほんの少し、他の人とも近くなれる気がします。

福士さんは何かがほぐれて来た時にも、とても豊かなものが生まれる人だなぁと思っていて。

楽しませよう!と色んなことを準備して身体や形、気持ちに落とし込んだ上で、その準備して来たものを手放す瞬間がすごく観たい人というか。

千秋楽一番最後のコメントの時、福士さんが溜めもたくさん挟みながら、懸命に言葉を探して紡ごうとしていたような気がして、それが本当にすごく素敵だったんですよ。

1人の人間としてそこに在って、とても大切なことを語ろうとしているようにみえて。

そんな福士さんが表現していくものもみてみたいなぁと思います!

あったかくて素敵な舞台でした!2021年も皆さんご健康でありますように。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?