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横山秀夫サスペンス『モノクロームの反転』感想

わいわい、久しぶりにみた2時間サスペンスドラマ!

福士さんが演じる久米島さん、物凄く怖かった。とっても心臓に悪い。人間の歪んだ表情を目にすると本能で怖い!逃げろ!って身体が反応して、ひゅってなる。福士さん含め俳優さんがつくる有無を言わせない力場って、とても絶対的でいつもビックリする。

久米島さんはどんな人だ

久米島さん…久米島さんのことは、ドラマだけのシーンだと、どんな人か想像を絞り込めそうにないです~!!(大の字

逮捕された後の久米島さんは一体、どんな行動を選ぶのかなぁと。逆に言うとすごくマーブルで色んな想像をさせてくれる人でした。

何処にでもいる、色んなことを誤魔化しちゃう鎧が堅くて弱い人。でも誰だってそうですよね〜!(大の字

暴かれた本当の自分に気付いてボロボロと悔やむ姿をみたら、すごくほだされそうになるんですけど、丁寧に証拠を隠して、警察が来ても頭の中でシミュレーションしたことをスラスラ言える冷静な確信犯でもあるじゃないですか。嘘を全力で演じる強さも持った人というか。

刑事の村瀬さんは、そんな久米島さんの行動を注意深く拾って、言葉にして、ちゃんと久米島さんに突きつけていたイメージ。

久米島さんが強くて弱い人であるなら、弁護士さんに指導されたからと、罪を悔やみながら刑期を短くするための言葉とかを述べてしまいそうな気もします。どっちだろう。

今、書いていて思ったんですけど、逆にこの久米島さんなら、家族が面会に来てくれるorないとか、他人からの働きかけで、その後の振る舞いが変わって来そうな気もします。

ドラマの久米島さんは、そんな人間らしい揺らぎのある人に見えました~!

追い詰められるから面白い

それはそうとて、あの・・・表現者さんは常々(良い意味で)地味に追い詰められていて欲しいと願っているのですが、今回の福士さんの役もとても良い追い詰められっぷりでしたね…好き…。

何処かにいそうな久米島先生を、台本も美術もカメラも、刑事の村瀬さんも洋子さんの旦那さん(米村亮太朗さん最低なお芝居がすごく最高だった……)も、全部がぜんぶ追い詰めにかかっていて、久米島さんのそつのないぼやけた輪郭の奥から浮かび上がって来た激情がとっても怖かったし、切なかった。

あとあとポリ検の時の岸谷五朗さん演じる村瀬さんの「答えろ!」って、あの一言でもうあの場の空気を定義しちゃったじゃないですか。画面越しでもとても怖かった~~。絶対、嘘を見逃してはくれない鋭いまなざし。

その空気の中で息をする福士さんの久米島さんも本当に心許なくて、みっともなくて、とてもしんどくて。

久米島さんが、ちょうどそこ!って瞬間に、絵的に目に涙を溜めて鼻まで赤くなるって、俳優さんの心や体の内側ってちょっとどうなってるんですか???(困惑

福士さん、周りを引っ張る役回りも期待されていると思うんですけど、岸谷さんみたいな素敵な俳優さんに対峙して詰められている時に滲み出るものも大好き……。

警察の村瀬さんに見つめられながら、頭の中で考えた言い訳を全力でなぞらえていそうな時の、冷静でものすごく必死な感じがものすごく好きです。

映像で語るもの

殺害シーンは画面越しでも背筋がぞわっとして、とても怖かった。絶対、相対したくない。血まみれの包丁を持った人が歪んだ表情と音で話すの、ヒュッてなる。舞台より表情が精細にみえる映像の方がビビる。

あんなに幸せそうにみえる家なのに、ヤバそうなお父さんは昼間から呑んでいて、お金を貸してくれている人に「かまぼこありますよ!」って絡んでくるんですよ。

それって端的に、困っているはずの洋子さんに貸したお金が、ぜんぜん久米島さんの期待する形で使われてないってことじゃないですか。

カメラのフレームに収まるように子供の絵を飾ったり、血まみれの包丁越しに被害者二人をみたり、ちょっと煽りの構図で久米島さんをみるの、とても怖いし、カメラのフレームをグラグラさせて不安を煽る・・・みたいな絵的な伏線の張り方や臨場感の出し方って、客観的に切り取りやすい実写ならではなんだろうなぁ、と思います。

久米島さんが弓岡家のお葬式に参加するシーンも、あれこそたぶんカメラを通した実写ならではの、サスペンスで使いやすい表現なのかなぁと。

殺した家族のお葬式に参加する犯人と思しき人の表情を淡々と映して、「あのひとはどっちなんだ!?」って視聴者側を惑わせる感じ・・・あれって舞台だと顔にカメラが寄れないし、他のメディアだと結構、客観性が失われそうというか。

殺害シーンとお葬式の2つのシーンって小説だとどの視点で、どんな風に描写されたんだろう?と思って原作小説を読んだら該当のシーンありませんでした。

つまり気になってた2つのシーンは小説をドラマに変換する過程で生まれたシーンってことですよね。おもしろーい!

だから映像前提でシーンが組めるんだ!すごい!

ドラマ版の久米島さんは映像化の過程で肉付けされていった人なんだなぁ・・・いいなぁ……そういうのすごくワクワクする…ドラマ化するために小説にあるちょっとしたパーツから久米島さん像を膨らませたって事ですか。

ようこさんをようこって呼ぶエピソードとか、あとづけ???なの???うわ〜〜〜〜脚本家さんってすごい〜〜〜〜!!!!鬼~~~~~~!!!!(大好き

こういうのは、めちゃくちゃテンションが上がりますね…なんであそこのチョイスかまぼこなんですか・・・・・・いま書いてて思ったんですけど、かまぼこって、あの旦那さんが食べてても違和感のない食材で、会話の流れでテーブルまでちょうど良いサイズの包丁持っていけるから!!!!!か!!も???!!(妄想

2時間ドラマ的様式美?

久米島さんの登場が結構、後半戦からだったので、「あれだけ久米島先生のくだりを丁寧に描くなら、前半戦から良い人の先生を登場させても良さそうなのに小説を踏襲しつつ、あえてじらして後半戦に波をつくってるのかな…(妄想」と、友人に話していたら

「今はどうか知らないけど、夜帯の2時間サスペンスって、メインターゲットの主婦層が最初は家事をしていて、ながら見になるから、1時間くらい経過したタイミングで、捜査会議のシーンを入れて一旦状況の整理したり、物語の切り替えが入るのが定番らしいよ」と話してくれて。

すごいな。どこで手に入れるのそのマメ知識(出典:バラエティとのこと ※20時スタートの場合だったかもとのこと

それで配信95分尺の真ん中にあたる47:30をみたら!ちょうど!ぴったり!福士さん演じる久米島先生の初登場カットだったんですよーーー!!!えっ…偶然だとしてもめっちゃ面白い〜〜!!!

視聴者がいろいろ細々した事を終えて、よっこいしょって座ったくらいのタイミング(想定)で、福士さんが投入されている可能性もあるってことですか…。

で、そのあと、三班・村瀬さん、久米島さん、洋子さん、チューリップ、借金→一班・朽木さんと白い車の目撃証言→白い車を持ってる持田さんという情報を提示した後、55:52のタイミングで一班の捜査会議シーンで情報整理入ったーーーーー!!!(爆笑

視聴者を置いてかない工夫とか色々あるのかな……なんか定番とかお約束があるなら、原作付きサスペンスのドラマ脚本を書ける方のインタビューとか読んでみたい…。

定番やお約束が決まる前のカオスな状態も大好きなんですが、同じくらい何かの定番やお約束も大好き…。

ついでに言うとお約束を壊そうと、しっちゃかめっちゃかになって誰も笑ってない空気も好きです(たのしい

コミュニケーションツールとしてのお金

相手の役に立ちたい、誰かに喜んで貰いたい、感謝されたい!って欲求は誰でも持っていて、それを叶えるための"支援"みたいな顔をしたお金の繋がりって、割と何処にでもあると思います。

本来だったら、あれこれ試行錯誤しなきゃいけないコミュニケーションに、"お金"って分りやすい形を提示されたら、洋子さんとの繋がりが欲しい久米島さんにとって、あんなに楽チンなことはないじゃないですか。

あれは久米島さんや洋子さんみたいな男女間じゃなくて、家族の仕送りや、先輩が後輩に奢ること、誰かや何かに投資・課金したり…少し何かをズラすだけでも、けっこう色んな関係で当てはまると思います。

人間が求めているのは、お金を使うことで生まれる繋がりや何らかの達成感でもあるんだろうなぁと。みんな寂しいし、頑張っても報われるかは分からないから、自分がお金を出した…突き詰めるとアクションした事で、必ず何か変化や影響のあることが、皆すごく嬉しいんだと思います。

だから持田さんや久米島さんが洋子さんにお金を貸しちゃう事とか、洋子さんが見栄のためも含めて、ほかの男性に頼って今の生活レベルを維持しちゃう事とか、なんか、こう身から出た錆的なところもあるけど、あんまり笑い過ぎたくないというか。根っこは周りの人や、もちろん自分にだって連なるものだなぁとも思うんです(コロナ禍の周りもみて

なんかそういった繋がりを破綻で終えないようにするには、お互いに"うまくやる"のも大事だけど、うまくやれなかった所からの回復方法をたくさん知っておいた方がいいんだろうなと。

久米島先生、あの一連でめっちゃ恥ずかしいじゃないですか。あの惨めさを味わった後に、どう心を、久米島さんの中の名誉を、久米島さん自身が回復させるのか。

その術を知っておけば、たぶん何かのせいにして包丁とか持ち出さなくても良いんですよ…これ何の話でしたっけ ※2時間サスペンスドラマの感想です

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