ラフマニノフ ピアノ協奏曲第二番@大宮(前日)

 2018年8月21日、サントリー大ホール。
第42回ピティナピアノコンペティション特級ファイナルのステージ・・・
 その青年は、うつむきながら瞼を閉じて会場の気を一身に集めると、
ゆっくりと眼を見開き、始まりの鐘を鳴らす。
 ピアニスト角野隼斗、誕生の瞬間である。

 ちょっと小説風に書き出してみましたが、柄じゃないので後が続きません。いつもの感じに戻ります。たぶんみなさんも必ず観てると思うんですが、角野さんのファイナルの演奏の冒頭シーンです。張りつめたようなオーラが伝わってきて、なんど観てもゾクゾクします。
 角野さんはこの国内最大規模のコンクールで、“並み居る音大生” を抑えて優勝します。一般大生、しかも東大大学院在籍となると話題性も大きいですよね。日本人の大好きな【文武両道】ってやつです(ん? スポーツじゃなくて音楽の場合も “武“ って言うのか?)。
 こんな凄いこと実現してしまう角野さんは、やっぱり天才なんだろうな。でも、角野さんが成し遂げたことを “天才だから” と簡単に片づけてはいけないと思います。去年の年末に出演したラジオ番組の中で、MCの方が角野さんの凄さを強調する流れで「並み居る音大生を抑えてAIを研究する大学院生の角野さんが出てきちゃって(勝ってしまう)」みたいな表現をされた時に、角野さん、柔らかい言い方でしたが、はっきりと「僕も真剣でした。真剣だったんです。」と返しておられました。
 彼の言葉からは、音大生への敬意も感じられます。ひとつのことに真剣に向き合ってがんばっている人たちに対して、自分の多才ぶりをひけらかしてマウントを取るようなことは絶対にしないし、むしろ自分はまだ勉強が足りないといろんなところで口にしてますよね。
 彼が即興演奏などで見せる “ひらめき” には天賦の才能が感じられるけど、ベースはきっと努力の人なんでしょう。目の前の課題に真摯に取り組み、ひとつひとつ突破していく努力の天才なんだと思います。

東大生ピアニスト

 あの日を境に、彼は “東大生ピアニスト” と呼ばれるようになりました。

 上には上がいることを実感し、自分が「東大生」であることを除けばただの世界中腐る程いるピアニストの中の1人に過ぎないことにも気付かされました。

 彼はノートの中で自分の置かれている状況をこのように表現しています。
いつも謙虚な彼は、自分のことを客観的に見ているんでしょう。ちゃんと見れているからこそ、心にもない謙遜はしない人です。音楽を仕事にする決心をして、見える世界がきっと一変したんでしょうね。

 世界中腐る程いるピアニストの中の1人(one of them)ではなく
 私たちにとっては唯一無二のピアニスト(one and only)だから
 こんなにもあなたに、あなたの音楽に惹かれるのです・・・
このような愛の反論も聞こえてきました。

 そうなんだよなぁ。世界中に演奏のうまいピアニストなんて “腐る程いる” 中で、なぜ私たちは『角野隼斗』に惹かれるのか?
 この問いに合理的に答えるのって難しいです。少なくとも私にとっては。
 世の中には音楽の優劣を自分の耳だけで判断・評価できる人たちが存在するらしいです。そうでないと、そもそもコンクールでの順位付けなど成り立たないわけで、残念ながら自分はそんな立派な耳を持ち合わせていません。でも、このポンコツな耳に角野さんの音楽は心地よく響き、ワクワクするんですが、それじゃダメですか? とちょっと開き直ってみたりして…。 
 もう一度考えてみる。なぜ『角野隼斗』に惹かれるのか?
 一言で言えば「『角野隼斗』は『角野隼斗』だから」としか言えないんだけど、これは「『角野隼斗』は『神』だ」と言ってるようなもんで、【思考の放棄】と叱られてしまいそうですね。言語化する努力をしなさい!
 まぁそもそも、こうやってノートに記事を書き始めて今回で7本目になるけれど、これまでの記事、全部、角野隼斗(=かてぃん)さんに惹かれる理由を書いてるだけと言えなくもない。文字数だけで言えば、むちゃくちゃ言語化してるでしょうw

色んな活動をしているうちに、「自分にしかできないこと」に固執する必要なんてあまりないことがわかりました。それよりも「自分は何をやりたいか」、そして「自分は何をやるのが世の中にとって意味があるか」を考えるようになりました。

 “東大生ピアニスト” というキャッチーなレッテルを貼られてしまい、無意識のうちにそこに縛られ、「『東大生=人工知能』と『ピアニスト=音楽』を組み合わせて今までにないものを作りたい」⇒「自分にしかできないこと(独自性)」という漠然とした “模範解答” になっていたのかもしれないですね。少なくともその時点では。[注]
 でも本当にやりたいのはそんな模範解答ではなく、もっとシンプルに
ただ自由に好きな音楽を好きなだけやりたい」ということ。
 彼は、グランプリ受賞前から、ニコ動やYouTube活動を通して音楽に垣根を作らず楽しむことを実践してきたわけだし、グランプリを獲った後も変わらず同じスタンスで、自分が楽しみながら作品を世に送り続けてきました。そんな彼の配信スタイルに、「清々しい漢らしさ」を感じるファンも多いようです。
 それぞれのファンがそれぞれの縁とタイミングで彼と出会い、彼の創り出す世界に惹きつけられ、共感し、いつしか自分の中にある “垣根” をひょいと乗り越えてしまう。これって凄いことでしょう。
 あなたの狙い通り、まんまとクラシックコミュニティに新規参入してしまった人が、間違いなくここに一人います(笑)。
 全国ツアーの衝撃と感動は今でも忘れられません。その後どうなっていったかは、これまでの6本のノートに長々と…。

 なぜ『角野隼斗』に惹かれるのか?
 それは、角野さんが垣根をこえた音楽の楽しみ方を教えてくれるから。

[注]: 「AI×音楽」で新たなものを創り出すことを “模範解答” と表現しましたが、あの時点では机上の模範解答だったのかな、という意味です。
この一年余り、角野さんは、音楽家としても、研究者としても、実績を積み重ねてきました。今の角野さんには、「AI×音楽」の未来を実践的に探求して “独自のこたえ” を提示してくれそうな期待感があります。
これはやはり角野さんだからこそできることなのかもしれません。

ラフマニノフ ピアノ協奏曲第二番

 コンポーザーピアニスト 角野隼斗の伝記が書かれるとしたら、冒頭の演奏が第一章の終幕にふさわしい。
 あれから1年5ヶ月が過ぎて、あの時と同じ『ラフマニノフ ピアノ協奏曲第二番』のステージが、もう明日に迫っています。今度のラフ2は、現在進行形の第二章の中で、何と位置づけられるものになるだろうか?
 先日、「もっとエモく弾きたい」とつぶやかれてましたね。エモく、時には激しく、甘く、優しく、壮大で力強い、角野さんらしい演奏を楽しみにしています。
 同時にオケにも期待。
 Youth Orchestra Mixture・・・多様なバックグラウンドを持つ20代の若者たちが、純粋に音楽を楽しむ場を共有することを目的に結成されたということです。角野さんと親和性がありそうな匂いがします。
 演奏技術を日本フィルと比べることはできませんが、角野さんとの共演によって、本番では何らかのケミストリーが起こればいいなぁ。
 『ベルリオーズ 幻想交響曲』も期待してます。ちゃんと予習もしました。


 そろそろ出発しないといけない時間になりました。今日は前泊で、今夜は東京の友人と久しぶりに飲む予定です。角野さんのことも、リアルでは初めて話してみようと思っています。
 まだ(前日)の投稿なのにこんなに長くなってしまって、自分でもあきれてます。(当日)のことは、もう少しすっきりとまとめて投稿する予定です。帰ってくるのが月曜の夕方なんで、火曜日にはお伝えできたらいいな。

 ここまで読んでいただいて、ありがとうございます。