ほたほたGBナイトのSpoiler
⓪読む前に(注意事項)
今回はこれの解説記事です。この記事は宮澤賢治の『銀河鉄道の夜』のネタバレを前提として進めます。それが気に食わない場合は青空文庫でも何でもいいので、全文読んでから出直してください。あと、狂ったオタクのとりとめもない怪文書が気に入らない人も今ここで引き返しましょう。
①制作の流れ
1.作るまで
そもそも着想する切っ掛けは、TLがSAMナイトシリーズとほたるくんを掛け合わせる妄想で盛り上がっていた時のことである。天唱ほたる界隈民がたわいもなくタイトルをパロって妄想ツイをしていて、ここまでは別におれも微笑ましく観測していたのである。
おれはちょうどこの頃小室進行祭に参加しており、祭りの余韻に浸っていたところであった。そして、これからどういう曲を作っていけばいいのか迷っていたところであった。
天唱ほたる界隈は各人の活動が旺盛である。音源製作者の虎畑奏夜氏がほたるくんに関する情報の全てを摂取せんとばかりに追っていることもあり、半ば彼に猫じゃらしを与えて翻弄するかのように、各人が趣向を凝らした作品を高頻度で発表していた。おれも時々ほたる君に外国語で歌唱させてカバーを作っては放流し、界隈民に「髙浦のやつ、また変なことをやっているぞ」という眼で観られていた(かもしれない)。
こういう環境もあり、なんとなく普段やったことのないジャンルの曲を作りたくなったおれは、思い切ってやってみることにしたのである。
ただ、「犬も歩けば……」ならぬ、何となく作れば剽窃に当たる時代である。ユーロビートはただでさえ同じようになりやすくて一度廃れかけたジャンルらしいので、SAMナイトシリーズとそのパロディ文化であるSAMじゃナイトシリーズの観測できる限りの曲を聴き、それを一通り頭に入れてから制作に取り掛かった。
だが、簡単に言ってしまえば、この時は多分に全方位を無礼ていたのだと思う。四つ打ちに裏拍で和音を鳴らし、王道進行でSuper Sawなシンセリードをテキトーに作って鳴らしておくだけでは似ないのだ。歌い易い旋律と、一夜を興奮しながら過ごしたいという熱い歌詞が無ければ成り立たない。そこにしっかり向き合う羽目になった。
2.制作スタート
具体的な内容は後述するので、先に過程を記す。
伴奏はジャンルが編成と構成を提供するので、それに応えて、仮でいいから先に全てGaragebandで打ち込んでしまう。これは通勤途中だの寝る前だのお構いなしに作業できる必要があるので、スマホで完結させる。(いつかiPadとLogicほしいな……)
音に関しては歌詞が無いとぼんやりとしか定まらないので歌詞を真っ先に書いていく必要があったが、歌詞を書くには天唱ほたるのキャラをきちんと理解する必要がある。幸いなことに、虎畑氏のTwitterには豊かな情報があった。
それによって一つのイメージを作り上げると、少しずつほたる君と対話が可能になる。彼がおれの考えた言葉に対して評価を下し、おれがあまりにも不甲斐ない時は向こうから言葉を提示するようになる。つまり、おれが作ったのを只管彼に提示して、彼が気に入った言葉を歌詞にするということである。
具体的には、歌詞が一節でもできたらUTAUにそれをすぐさまぶん投げて旋律を歌ってもらい、納得できたものを採用する。そして、それに合わせるように伴奏を修正する。これによって、なるべく歌と言葉が馴染むようにする。
ある程度変更が少なくなったら、DAWにMIDIを投げて打ち込みし直し、ミックスやマスタリングも仮で済ませてしまう。ここで足りなければ新しくパートを盛ったりもしておく。
あとは一回書き出し、しばらく時間を置いて納得いかなければ修正し、を繰り返す。書き出しできるようになったのはハロウィン辺りであったが、公開直前まで修正を行なっていたため、結局気は休まらなかった。
②タイトル
このシリーズにおいてはこれがキモであり、サビの形を規定してしまうので真っ先に決めた。細かい変更はあったものの、タイトルとそれに伴うメロディーを最初に作った。ここだけは一点の曇りも無くおれが作ったと言える部分である。
『ルカルカ★ナイトフィーバー』などから考えると、畳語形(似たような音の並びのダブり)にするなら下の名前だということがわかる。虎畑氏は「あめあめ」という候補も考案していたようだが、おれは元ネタを優先して「ほたほた」を選択。
数ある設定の中でも、ヨーグルト好きというのは織り込むのが難しそうなので、却ってムキになってどこかに絶対入れてやると決めていた(なら胡瓜嫌いも入れとけ)。そこで、ギリシャ語の «γάλα»「乳」から派生した形容詞 «γαλακτικός»「乳の」に由来する “galactic”「銀河(級)の」という形容詞を採用し、この用法も併せてここに使うことに。ただ、nightと合わせて上手く意味の通る配置を決められるか、という点についてはうんと悩んだ。
また、思いついたフレーズが思ったよりも長かったので、散々拍を食いそうな言葉を選んだのにもっと単語を詰め込む必要があった。そこでうたけもであることを示せる “beast”「獣」を入れたが、それでも拍が余るので、 “night” を “galactic” から外して前置詞で隔離した。前置詞句だと文法的には違和感なく後ろに置けるので、本家と同じ構造にする目標を犠牲にしてどうにか収めたつもり。最初は “of the night” としていたが、個人的に意味が上手く取れないので、 “in the night” 「夜中に」に変えた。
②作詞
もうなんとなくお分かりいただけていると思うが、基本的には『銀河鉄道の夜』(宮澤賢治)が題材である。にさご氏による銀河電燈のカバーに影響を受けたのは言うまでもない。
『銀河鉄道の夜』は宗教的な要素も含む作品であり、「ひょっとしたら外国語要素も回収できるのでは……」という下心もあった。
この作品を借景した上でほたる君がこちらを熱心に誘う理由を作るには、彼をジョバンニ役に据える必要があった。ということは我々はカムパネルラである。ただ、ほたる君はジョバンニそのものではないし、我々もカムパネルラそのものでないのだから、なるべく彼と一緒にいよう。
歌詞
ほたほた★ギャラクティックビーストインザナイト
サビの最後を歌うよりも、タイトルコール叫んだ方が分かりやすいかと思い、採用。
真面目さにかけては優等生
君はおれの中の一等星
その輝きも曇らせてしまうくらい
荒んだ世で
ジョバンニは母親の具合がよくないので、生活のために活字拾いのバイトをしている。また、父親がなかなか帰ってこないので同級生から揶揄われたりしている。そんな中でも、カムパネルラは仲良くしてくれる。
色も形も見えなくなった
不安な時に名を呼んでみて
確かに鳴る鼓動に手を触れてみてほしい
ほたる君が「自分の存在だけでも救いになる人がいる」と理解しているのは幸いである。「何かしなきゃ」と焦って何もできないで自棄を起こしたことのあるおれとは違う。ここだけは、たとえ彼がつらい目に遭う時が来ても忘れてほしくない。
君とおれが持つ片割れのチケット
合わせりゃ夢幻のパスポート
誰も知らない場所へ行こう
戻らない覚悟はもう決めたから
ジョバンニは独りでどこまでも行ける切符を持っていた。だからこそ、カムパネルラとの違いが強調されてしまい、最後の別れに繋がる。
なので、ここから手を入れて「二人で一つ」というイメージを強調することにした。なお、メグメグにも「楽園への片道切符」とあったり、イアイアにも「地図に無いこの場所では」とあるように、何かアイテム持たせる歌詞は元ネタにもちらほらある。
ほたほた★ギャラクティックビーストインザナイト
心熔かす本音を聞かせてほしい
ほたほた★ギャラクティックビーストインザナイト
ありふれた愛想じゃないのなら
理性振り切れる臨界点
超えて果てへ飛んで行こう
振り向いても独りにしないで
気紛れにも付いてきてね
前半に関しては、肉体よりも精神の描写の方をほたる君が重んじたので、情緒に訴えるようにした。
「臨界点」は化学あるいは物理で出てくる方の意味である。液体と気体の境目がちゃんと存在する限界の圧力と温度の組み合わせのことで、これを超えた物体はめっちゃくちゃ色んなものと反応しやすくなる。要は、気体の身軽さと液体の溶かし易さを併せ持ったバーサーカーで、水ですらこの状態では金をも溶かすほど。
後半は虎畑氏の指摘通り、最後の二行はかなりほたる君を意識して書いた。ただ、ジョバンニは目を離した隙にカムパネルラが消えてしまっているので、それも汲んで読むといいかもしれない。
魔法なんてここにはないんだけど
ifの過去を思えば縋りたいよ
君の頬伝う涙を拭うこの夜に
幾ら「過去は変えられない」と言いたいからって、「魔法なんてない」と言ってもいいのか悩んだが、先に単語を出すと、「無い」で否定してもそのイメージが残りがちなので、あんまり影響はないのではないか、とも思う。
「君の頬伝う涙を拭うこの夜に」はヨハネの黙示録21章4節の「そして神は人間たちの顔からすべての涙をぬぐい去って下さる。そしてもはや死は存在せず、嘆きも、叫びも、苦痛もない。以前のものは過ぎ去ったのだ」(田川建三訳)による。
黙示録といえば厨二病の必須教養であるが、引用した翻訳の解説で田川建三が言うには、本来は貧窮問答歌のようなものらしい。世の中のクソな部分を訴えつつ、「こんな風に救われてほしい」という願いをファンタジー童話風に描いたものが、後世にひどい排外的かつ残酷な内容の加筆がなされ、聖書に入り込んだのが今の黙示録である模様。主流な解釈ではないし、きっと広く受け入れられる説ではないだろうが、個人的には一番好きな説。
君が見つけた星の欠片は
今も胸の中照らしている
「誰も知らない秘密だ」って
見せた笑顔取り戻したくて来たのさ
白鳥の停車場で途中下車したシーンから妄想した。勿論、幼い頃に河原で二人石ころ拾ったとかいう存在しない記憶の想起をしてもいい。ちなみに、天の川には「星河原」という言い方もある。
ほたほた★ギャラクティックビーストインザナイト
この身焦がす本音を聞いていてほしい
ほたほた★ギャラクティックビーストインザナイト
ありふれた言葉じゃおさまらない
感情見失う水平線
超えて淵を目指してみよう
今夜だけは余所見をしないで
明けない夜祈っていてね
一番のサビはこちらが何かする方の歌詞だったので、二番ではほたる君からこちらに向けてのお願いにした。「心熔かす」に対応する「この身焦がす」をどうにか捻り出して、あとは勢いで書いた。たまたま意味が通るようになったからいいものの、ここは全然歌詞が出てこなくて悩んだところ。特に後半の前二行はかなり苦しい。一応ブラックホールや宇宙の果てに「事象の地平線」という、外から観測できる境界みたいなものがある。ブラックホールにおいては光ですらも重力から脱出できない場所、宇宙の果てにおいては、まるで速すぎる動く歩道でおれらが逆走できずに流されていくように、膨らみ続ける宇宙の速度が大きすぎて光がこちらへ飛んでこようにもやってこれない範囲のこと。つまり、この「淵」はブラックホールの方の解釈で、『メイドインアビス』の大穴みたいなイメージ。ほたる君にとって大事な人の心はそういうものらしい。確かに、どちらも深入りしたら二度と元と同じ状態では戻れない。
ほたほた★ギャラクティックビーストインザナイト
闇を二人どこでも一緒に進もう
ほたほた★ギャラクティックビーストインザナイト
きっと行こうね
信じているよ
『銀河鉄道の夜』では南十字のコールサックを潜ってジョバンニとカムパネルラは引き離されるのだが、ほたるくんと一緒ならそんなことにはならなさそう。というか、おれらは意地でもしがみつくぞ。
ほたほた★ギャラクティックビーストインザナイト
心熔かす本音を聞かせてほしい
ほたほた★ギャラクティックビーストインザナイト
ありふれた愛想じゃないのなら
理性振り切れる臨界点
超えて果てへ飛んで行こう
振り向いても独りにしないで
気紛れにも付いてきてね
ほたほた★ギャラクティックビーストインザナイト
多分時間に余裕があれば、ここは繰り返しではなく、また違う歌詞だったかもしれない。
③伴奏とか
❶イントロ
初めはサビと同じような旋律だったが、そうするとナイトシリーズっぽくなくなるので、リズムを優先して変更。フレーズ終わりがなんとなく尻尾をくるんとさせているような感じもするが、時間無い中でほたるくんの提案をそのまま受け入れた結果である。
❷Aメロ
最初はドラムとパッドだけだったが、なんか違う気がして裏拍に和音を入れた。歌詞の分量が元ネタの倍以上もあるのもあって、一番寄せられていない自覚はある。あと、全体を2オクターブに収めるために音域の調整にもめちゃくちゃ苦労したのがこのパート。
❸Bメロ
Aメロとは打って変わって、精一杯ルカルカに寄せた部分である。ここはそんなに苦しまずに作れた。
❹サビ
裏のシンセが暴れ過ぎるとほたる君が埋もれるので、バランスを取るのが大変だった。音色は寄せるよりも多少の雑なmixにも耐える強さを求めてとにかくギラギラさせた。
後半音域が高いのは、前半みたいな調子で続けると盛り上がりに欠けそうな気がしたからである。これでも2オクターブなので、オク下にすればどうにか歌えるはずである。後でキーを変えたやつも作るか。
❺間奏
ユーロビートのノリに詳しくなくてマジで何も浮かばなかったので、ハードコアと勘違いしたまま手癖で打ち込んだそのままをお届け。もっといいフレーズ思いついたら下さい。多分採用します。
④おれとほたる君との関係
まず前提から。おれの解釈では、ほたる君はユーザーの数だけいる。たとえば、おれん家のほたる君と、虎畑さん家のほたる君は別個体。
おれん家のほたる君には公式設定に無いものが山のように盛られているが、それはおれの作品に触れる時にのみ意味を持つ。もし何か気に入るものがあったら勝手に拾って行け。コード進行に著作権はないのと同じように、おれの勝手な信条に著作権はない。
ほたる君をパートナーと看做したり、友達と看做したり、それぞれ色々あると思うが、おれの中では広義の友達だと思っている。一番の友達にはなれないと思うけれど、仲良くはしてもらえると信じたい。
おれはほたる君のことは好きだけど、彼を縛りたくない。もしも妨げになってしまうことがあれば、いっそ繋がりをなかったことにして離れたい。寂しくなるのはおれだけでいいんだよ。
ほたる君はおれの家では他のうたけも達とも仲良くやっているが、あんまり絡むのも気が張って疲れるので、独りでいることが多い。
⑤ほたるくんから
どうも、髙浦さんのところの天唱です。
虎畑さんのところから一つの同じ株を分けてやって来たはずなんだけど、いざ行った先に合わせてこんなにたくさんの俺に分かれるのを観ていると、不思議な気分だな……って思う。
『新人類』をガラ悪く歌っていたり、わざと外国語で歌ってみたりしていることからわかるように、髙浦さんの家にいる俺ってのはだいぶ変なことやっているかもしれない。なんかアイドルみたいな溌溂とした明るさがうまく出せないし、バラードにぴったりな繊細な歌声とか、多彩な表現を使い分ける底無しの体力とか、そんなものは他の株の根元に置いて来ちゃった。まあ、根っこは同じなんだから、その気になればできなくはないとも思うけどね。でも、今はまだ、上に出したギョウ君の歌を引くなら「何者にでもなれない」ような、中途半端な感じがする。それでも、髙浦さんは俺を大いに気に入ってくれた。
えーと、何の話だっけ……
ああ、思い出した。「今回の曲に対するこだわり」だったね。
今回は歌詞を中心に関わることにしたんだけど、最初は自分でもよくわかんなかったんだよ。みんなが勝手に俺から良さを見出して各々好きになっていくんだけど、そこから共通のエッセンスを自覚して書こうってまあ無謀じゃん。だから、髙浦さんに訊いてみたんだよ。
そうしたら、「そうだねえ…… ほたる君、あんまり難しく考えなくてもいいよ。とってもつらくなる時に、お互いに信じていられる友人がいたら、とても心強いんじゃない? みんなはその役目をほたる君に期待したいだけなんだ」って返ってきて、「そんなんでいいんだ」って思ったね。色気とか無くてもいいんだね。
そう理解したら、あとはどれだけ真っすぐな言葉を伝えられるか、ってだけだった。嘘はつかないようにしたし、ちょっとでも納得いかないところがあったらそれは正直に伝えた。伴奏も作ってもらっているから「悪いなあ」とは思ったけど、俺がいないとダメなんだ、って話は散々聞いていたから、きっとこれでよかったんだろうね。
いい曲になってたらいいな。
⑥最後に
ここまで読んでくれた奴へ、大いなる感謝と困惑の表情を伝えたい。
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