【書店員時代②】せっかちは損します。映画スターは経理コーナー?

はじめまして、
細川もやしです。

二日続けての投稿となります。
今回も書店員時代のお話です。

お読みいただけると嬉しいです。

書店員として日々奮闘を重ねながら、約1000坪はあろう店内はある程度把握ができ、自信ややりがいも感じ始めてきたある日のこと。

私はレジ作業をしていました。

「先頭でお待ちのお客さま~どうぞ~」

スーツを着た真面目そうな女性。なにやら、本をお探しのようです。何かお探しですか?

「…キエリィ…」(とても小さなお声)

え、まったく聞き取れませんけど。聞き返すのも何だかな…。目の前の女性は「キエリィ」って言ったはず。うん、絶対に言った。何それ?日本語か?聞いたことない。やばい。

本屋さんを経験したことのある方なら共感していただけると思いますが、お客さんにはなるべく「知りません」は言いたくないもの。できるだけ、知ったかぶりをしたい。知らないことを知られたくないはず。そんなプライドが生まれます。

意を決してもう一度聞き返してみようかタイミングを計っていると、その女性が消え入りそうな小声で言いました。

「…ジム」

え、いま「ジム」って言った?確かに言った。私、聴覚には自信がありますから。「キエリィ」ときて「ジム」ときたら答えはアレだ!あの人しかいない!

「ジム、ですね。わかりました!」

お客さん、おめでとう!私はいまからあなたをお求めの棚までお連れしまっせ!

意気揚々とお困りのお客さまを先導しながらご案内する書店員の気持ちってわかりますか?清々しいったらありゃしないんです。困っている人を助ける感覚なんです。あなたが求める道は私だけが知っている。もはや、神の領域!

さて、着きました。

ん?何か様子が変だ。

…。え?違うの?

……。ん?どうなの?

「カイケイ」

(声ちっさっ)カイケイ?……‼ま、まさか‼
神の領域がもろくも崩れ去るほどの衝撃が走りました!

「キエリィ」って「経理」かっ!
「ジム」って「事務」かっ!
「カイケイ」って「会計」だっ!
「ジム・キャリー」じゃなかったんだ!

ジム・キャリーのバカヤロー!つーか、何でレジ横のパソコンで調べなかったんだ、俺は!お客さんを映画本コーナーまでお連れしちゃったじゃないか!どうしてくれんだ、ジム・キャリー!そもそも、ジム・キャリーの本って存在するのか?

いや、落ち着け。まだ挽回できる。そうだ、お客さんに間違いを悟られなければいいんだ。私はあえて、映画本コーナーを通って、経理コーナーにお連れする、一風変わった書店員なんです。お互い傷つかない道はこれしかなかったんです。

というわけで、お客さんを経理関係の棚へご案内することができました。

めでたしめでたし。

「奇跡のジム・キャリー」

やがて、職場ではそのように名付けられたとさ。

書店では聞き間違いや勘違いから生まれた実話が他にもいくつかありますので、また、投稿します。
お読みいただきありがとうございました。

あ、パティシエの話も投稿しないとな。

では。

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